ストック【STOkK】
そこは狭い地下駐車場のような場所。無機質で、人工的な白色光が等間隔に設置されている。一歩、足を踏み入れてみれば、コツという足音が何重にも聞こえる。
目の前には、積み上げられたガラクタの山。その高さ、およそ4mほど。黒と錆茶色が大部分を占め、点々と霞んだカラフルな色が見える。
まるでスクラップ置き場だ。
「これ……全部神器かよ」
「凄いですよねっ!」ガッ
とエクンノは腕を俺の首へと巻き付けた。俺を見るその顔は若干ニヤけている。非常に分かりやすい。大体……やらせたい事が。
「あのな、俺は特別神器に詳しいわけじゃないぜ。まぁ、そこらの人間よりは知ってるが」
わざとらしく首を傾げてみる。
「お願いします!」
そんな威勢の良い声がこだまする。選択肢はなさそうだが、あー、とだけ発声して考えを纏めることにした。
神器の審査、か。たしかにこの山の中には役に立ちそうな物が多数混じってそうなものだ。
だが、そうは言っても危険過ぎはしないか? 神器……正直、ドゥネルと同じくらい危険だ。
もしかしたら地雷が仕込まれていて、いきなりドン! なんてことがあり得る。
下手に弄るのはリスク。衝撃を与えたり、圧力をかけたりしたくない……ん? そう考えると、この山やばくね?
「な、なんでコレ、適当に積まれてるんだ?」
「コレは僕の父が集めたモノです。拾ってきてはポイって投げるもんで。好奇心だけはあったんですよね」
彼女は、ハッと快活に笑う。しかし俺は、はははっと凍った笑みを浮かべることしか出来なかった。鳥肌が立つような扱い方だ。でも彼等も知らないのだろう。そんな物があるなんて……
「いいのか? 親父さんに言わなくて」
「あー、父はここで神器を間違って起動しちゃって、ペシャンコになって死にましたよ。なので大丈夫です!」
なるほど? ペシャンコになって……死んだ。
「そうですか。じゃあ自分帰るから」スチャ
「ダメェ」ガッ
エクンノは首に巻きついている腕の力を強めた。そして、逃げようとする俺をほぼニーブラみたいな体勢で押さえ込む。この義体と力は拮抗しているが、やや俺が優勢。
「な、なぁ! もしかしてその神器はまだあの山の中に……」グググッ
「はぁい! ありますよ〜!」ゴゴゴッ
あーもう……その大惨事を起こせる神器が確定であるって……殺しに来てるのか?
「とりあえず分かったから一旦離せっ!」
「はいっ」パッ
すると、一気に腕の力が抜かれた。頭がぐわんと勢いよく上昇する。視界が大きく揺れた。
バカ痛い。AC触覚センサと外皮プレートが悲鳴を上げていた。
「テツさん……僕がそばで守るから、ね?」
「分かったよ」
どうせ逃げられないと判断した俺は、一歩ずつ慎重に近づく。そしてある距離で止まり、両手を前に突き出した。
「なんです?」
「そうだな……安全のための呪いってところ」
当然俺は、呪いなぞ超自然的な技は使えない。
では何か?
そう、これこそ——
【波動/構造変換システム】
通称、波動スキャン
対象へ微弱な電磁波を放ち、その反射波を拾う。返ってきた情報を構造データへ変換することで、積み上げられたガラクタの内部まで見通せるのだ。
「悪いが、まず色々調べる。時間かかるぞ」
「あ、じゃあ僕、野暮用しに行きますね。また帰って来るんで」
「あれ? 守ってくれるんじゃなかったか?」
「今は大丈夫でしょう?」
「適当言ってくれる」
悪態をつく俺を置いて、エクンノは扉を通り抜け、俺だけが倉庫に残された。
***
山をぐるりと一周スキャンし、1時間が過ぎた。
「はぁ〜終わった」
と腰を地面につけて一息つく。波動透視は考えることは特にないが、色々な位置から一帯を何度も測定しなくてはならない。つまり面倒臭い。
しかし、補助CPUにも無理させ過ぎたか? こっからSADを使ってはマズイな。脳負荷で死ぬ。
さて今、視界には透視図が写っている。目を引くのは中央にある大きな物体。
何が危険かはまだ分からない。しかし、ジェンガのように不意に倒れる、なんてことは俺が注意していれば起きないはずだ。
「それじゃやるか」
山の中に慎重に手を差し入れて、ガラクタを一つ取り出す。一見すればフライヤー。
[これは?]
[この構造だと——この辺が——]
無線で通信を試みるが、応答にノイズが混じっている。地下だから届きづらいのか?
しかし不便な状況ながらもムバーは解析をしていく。ヘルメはどうしたって? 電力節約のため、電源をオフにしているのだと。
ガラクタを一個一個確認し、それが終われば分別する。俺やヘルメの世界からの物も幾つかあった。
とはいえ、ほぼ知らないもの。構造やシステムを既知のものと合致させて考えている、とムバーは言った。
だが、あるモノを解析しようとした時、ムバーは言葉を詰まらせた。
[どうした?]
[これ……何も分からないな。なんなのだろう?]
高度なAIでさえ理解の届かないソレの見た目は、まるでメガホン。ただ、その口は前後に二つあり、取手には引き金が付けてある。
なにより特徴的なのが、組み上がっていない、ということだ。各部品が独立して浮遊し、メガホンを形作っているだけ。そして、その部品同士は青色の光線で結ばれている。
推測するに……もっと高度な文明からやって来たモノだろう。
例えば、ヘリアカンダル銀河文明とかそこらへんの超高度な……?
なにそれ?
——ガラガラッ!
「テツさーん!」
突如、背中に自然光が差し込む。
「帰ってきたか」
振り返れば、そこにはエクンノ。
「これも見てください!」ドッ
と肩に吊り下げた、大きな白い袋を地面に置く。カラカラと金属同士がぶつかるような音が鳴る。
「これ全部僕が集めた神器なので、こっちも調べてもらえませんか?」
「アンタも危ない持ち方するんだな」
「いえいえ、神器の扱いは慎重な方ですから、安全だと判断したものだけですよ。それで、面白そうな神器はありましたか?」
そう言われると、分別した物の内一つを手に取り、エクンノに近づく。それはまるで手持ち型の羽無し扇風機。持ち手にあるツマミを回して起動する。
「見ときな」
瞬間、穴から風が無音で吹きはじめた。
「お〜これは良いですねぇ」
エクンノは顔を風に当てながら言う。実に気分の良さそうな顔をしている。
「だろ? もっと強くしてやる」
ツマミを更に回すと風圧が強くなり、最大まで強くすると、そのショートカットの髪が激しく舞い上がった。
ムバーによればイオン風を作り出す扇風機なのだと。正直、無音ってところが最高。持ち帰りたいところだ。
エクンノは不思議そうに扇風機を見つめると、満足した様子でうなづいた。
さて、こんな調子で神器を観察しては紹介していく。ライターや電気ポットなど俺の知識でわかる物から、素材を入れればどんな形にでも加工してくれる機械など、難解なものまで様々だ。
ただ、エクンノは毎回楽しそうに聞き、時には質問をする。
そして一瞬、あのメガホンのような物に興味を示した。だが分からないと言うと、すこし眉を下げてしまう。
分からないものは分からない。
この異世界では尚更な。
そうこうしていると外から子供向けのような楽しげな音楽が聞こえ始める。
「なんだ?」
「お昼の合図です。ご飯を食べに行きましょう!」
「おーよ」
と俺達は倉庫を後にした。




