勇者のタマゴ達──③
俺の目の前で金色に輝くストレートのロングヘアーが歩くたびに波打っている。
彼女の後ろ姿に見とれていると、後ろからアキラが話しかけてきた。
「おい、カツキ」
「ん?」
「お前、エリはいいのか?」
「……エリ?」
エリ、と聞いて目の前のエリではなく、おそらく俺の後ろにいるであろう、エリの姿を思い返す。
「ああ……」
「……どうしたんだよ、なんか変だぜ?」
確かに彼女も可愛いけどさ、と言葉を続けるアキラ。
「何が変なんだ?」
「え?」
その場に立ち止まり、ゆっくりとアキラの方に顔を向ける。
「なんだよ?」
無言でアキラを見る俺が怖いのだろうか、怯えているように見える。
「変なのはお前だ、アキラ」
それだけ伝えて、俺は再び目の前の女……エリへと視線を向ける。
「……変じゃね」
「変だ」
「こっちのエリがユウくんに夢中だから」
「あっちのエリに乗り換えたのか」
「「そうに違いない!」」
後ろから双子の声が聞こえてきた。
俺は声の方へと振り返り、双子を無言で睨みつける。双子は気まずそうに視線を逸らし、わざとらしく全然違う話題の話をしはじめた。
「こ、これってさー」
「あ、ああアレかな〜?」
「そうそうアレアレ」
「「異世界!」」
「ってやつかなあ〜」
「だろうなあ〜」
「俺達勇者として」
「この世界に召喚されたのかな」
「……ちゃうで」
双子の会話にアイツが割り込む。
「ここは異世界やなくて……」
何かを言おうとして、口を噤む。
「ユウくん?」
エリの頭を撫でて、アイツが「心配せんでもええよ」と告げる。
「うげ」
「やばい」
「くるぞ」
「「舌打ち」」
双子が何かを言っているのが聞こえるが、俺はそのまま前を向いて目の前のエリの元へと歩みを進める。
「……あれ」
「いつもなら」
「カツキ……」
アキラの心配そうな声色が後ろから聞こえてきたが、俺はそれも無視して歩き続ける。
「お前らも早く来いよ。 エリを待たせるな」
それだけ声をかけるが、後ろから聞こえてくる反応がなんだかおかしい。
「おい」
前を向いて歩みを止めないまま声を掛ける。
「あ、ああ……悪い。 いくぞ」
「うん」
いつの間にかエリも立ち止まり、こちらを見ていた。
「ごめんな、エリ。 こいつら鈍くさくて」
俺の言葉にエリは柔らかく微笑む。
「つきましたわ、ここです」
「ここが……」
さあ、どうぞとエリに促されて部屋の中に足を踏み入れる。
中はかなりの広さで、ベランダに出ることが出来る大きな窓が2ヶ所あり、白いレースがあしらわれたピンク色のカーテンがついている。
ベッドもキングサイズはありそうな大きさで、白いレースで出来た天蓋までついていた。
ティーセットが並んだ食器棚に、お茶が出来そうなテーブルに4人ぐらい座れそうなソファが2つ。
「貴族のお嬢様が住んでるお部屋みたい……」
もう一人のエリがそう呟いたのを聞いて、俺の隣にいるエリが微笑みかける。
「今からお茶を入れます。 みなさまこちらに座って待っていてくださいね」
「あ、ああ」
エリに促され、座り心地の良いソファに俺達は身体を沈めた。
アキラ達が何かを話しているみたいだが、俺はエリの姿を目で追ってしまう。
手慣れた様子で紅茶を用意している姿でさえ気品のようなものを感じた。
「さあ、どうぞ。 お口にあえばいいのですが……」
人数分のお茶がテーブルの上に配られ、テーブルの真ん中には大皿にのったクッキーが用意されている。
「いただきます……」
お茶を口に含む者、クッキーに手を伸ばす者、各々思い思いに行動している中、俺は隣に座っているエリのことを見つめていた。
エリは俺の視線に気付くたび、目を合わせて笑みを浮かべる。
目があって微笑まれると気恥ずかしさについ目を逸してしまうのだが、3秒もせずにまた彼女の横顔を見つめてしまう。
──心臓がうるさい。
「……では、今から本題に入りますね」
突然、そのようなことをエリが口にした。
なんだか少し声色が硬い気がする。
「実は、私……ううん、私もこの世界に召喚されてきたのよ、聖女として」




