勇者のタマゴ達──①
俺達6人の母親は全員が幼稚園から大学を卒業するまでずっと同じ学校に通っていた幼馴染兼親友という繋がりだった。
大学を卒業してからも前ほどではないがずっと交流を続けていた。
しかし、お互い結婚したり、仕事の関係で住んでるところが遠く離れてからは一気に合う頻度は薄れていったものの、それでも年に一度は母親同士で女子会を開いては顔を合わせていた。
その際、我が子も一緒に連れて女子会に参加していた関係上、俺達も必然的に親同様、幼馴染のような関係性になっていったのだ。
──あの日。
俺達が母親と過ごしていた最後の日。
あの日は10月だというのに異様に暑さが残っていたのを今でも覚えている。
みんなの母親達が俺の母方の実家にお泊りしにきていた。
「ほんと、冴子ん家はいつきても変わんないねー!」
「当時を思い出して若返るよねえ、なんか」
「わかる〜」
このようなことを母親達が明るい声色で話していた。
たしかにいつもよりも声のトーンが高い。
「いいトシしたババアが……」
ふとこぼした俺の声に目敏く反応した冴子こと、俺の母が俺の頭を殴る。
「いって!!!」
「だーれがババアだって? ん?」
あーこわ。
「目が笑ってねえ……」
俺のとなりにいたアキラが小さな声でつぶやく。
「あ、ね、ねえ! コンビニ行かない? 私、アイス食べたいわ」
少し、関西訛りの口調で俺達6人の中で唯一の女であるエリが声を上げた。
「ええね、いこ」
アイツも関西訛りの口調で同意を示す。
遠藤ユウスケ。
俺達の中で一番年上のくせになんにもできねえ根暗なオタク野郎だ。やることなすこと鈍くさくて、みていてイライラする。
なのに、なのに、歳上だからか、エリと同じ関西に住んでるのが関係しているのか、アイツにいつもエリはべったりなんだ。
「ええやんね! いこう!」
今日もだ。
嬉しそうにエリがアイツに笑いかける。
俺達には標準語が残るアクセントで話すのに、アイツと話すときは関西のイントネーションでエリは話すのだ。
それもまた俺は気に食わない。
「俺はパス。 お前らも行かねえよな?」
俺がそっぽを向くと、アキラが「お、おい」と小声で俺に問いかける。
アキラとは同い年で住んでるところが比較的近い影響もあるのか、この6人の中で1番顔を合わせるし良く遊ぶ。
だからだろうか、俺のことをよく知っている。
「いいのか? ここで行かねえとエリがアイツと二人っきりになるぞ」
「……ムカつく。 許せねえ。 でも、アイツと一緒に居たくねえ」
「まあまあ……」
俺とアキラがそっぽ向いて話している中、俺達の中で最年少の二卵性双生児、マサルとタケル──最年少といっても2個下なんだが──が、食べたいアイスの話をしている。
二卵性といってもやはり双子だからなのだろうか。
息ぴったりの掛け合いをしている。
「アイスといえばさー」
「やっぱ」
「「スイカバー」」
「だよな」
「だね」
「スイカバーのさー、好きなところといえば」
「そりゃもう決まってるよな」
「「種チョコ!」」
何がおかしいのかわからんが、2人してゲラゲラ笑い転げている。
この双子の独特の空気はいつ見ても慣れない。
「ほんと、仲いいよねーあんたんとこのこ」
「まあね」
「そだ、コンビニ行くんでしょ? ママ達にもアイス買ってきてよ」
「いいねえ! ねえねえ、贅沢にハーゲンダッツにしない?」
「最強じゃん」
「いいね」
ほらこれ、と、母親達がアイツに1000円札を何枚か手渡している。
「ちっ」
本当、気に食わねえ。
「行くぞ」
勢い良くリビングの扉を開けてわざとらしく足音を立てながら玄関へと歩いていく。
その後ろをアキラが「おい、カツキ!」と声をかけながら追いかけてくる。
「そんな怒るようなことか?」
アキラがそんなことを言ってくるが、俺はそれに答えない。
「仕方ねえじゃん? 一応アイツが俺達の中で最年長だしさ」
わかってる。わかってるんだよ、そんなことぐらい。
でも気に食わねえもんは気に食わねえし、ムカつくんだ。
ジリジリと照りつける太陽に不快感が増していく。
「ああくそっ、腹立つ!」
思ったよりでかい声が出た。
その時だった。
足元のアスファルトが青白く光り始めた。
「は?」
なんだ、これ。
「カツキ!」
アスファルトに足元が沈んでいく中、アイツが俺の手を取っていた。
「手、離せよ!」
あたりを見回すと、他の奴らも地面に沈んでいっている。
唯一アイツだけ、アイツだけが地面で踏ん張れている。
本当になんなんだよ。
「離せって!!!」
勢いをつけて手を払おうとした途端、思いっきり身体が沈んでいく感覚に襲われた。
──怖い。
そんなことを考えたせいだろうか。
手を払おうとしたアイツの手を、力強く握りしめてしまっていた。




