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優しい記憶

 出来る、やれると信じて飛び込んだ。全力出走ったと思ったら、気がついた時にはもう目の前にアレクシアがいる。ニヤリと笑ったその表情を見た瞬間に腕を掴んで捻るように倒す。キマったと思った。現に足元にはアレクシアがいる。


「や……、出来た……?」


「油断禁物!」


 力を抜いた瞬間、アレクシアに逆に腕を掴まれ、投げ飛ばされた。壁に叩きつけられ、その衝撃がかなり響いた。普通であれば気絶、またはそれ以上の衝撃だったが、クローラのおかげで意識障害も起こっていない。それでも、少しショートしたのか身体が少しの間動かなくなった。


「やり過ぎだって、アレクシア。クローラ壊したらいくら掛かると思ってんだ。」


「ごめんごめん、初めて動かすのにこんなに動けるなんて思って無かったよ。カイ、やるじゃん。あ、喋れる?」


「あ"ぁ……。だい"、じょう"ぶ。」


 声も少し機械的な部分が現れており、どれほどの衝撃だったのかよく理解できる。アレクシアは手を差し伸べてくれ、その手を取って立ち上がった。


「とりあえずクローラから降りるか。それからまた話そう。」


 ウィルにそう言われ、そのままシュミレータールームを出た。自分自身の身体が横たわる隣の部屋に戻り、クローラを再び吊るされた状態に戻す。じゃあ戻すよと、ウィルに言われたと思えば次に視界に映ったのは天井と微かに見える巨大な装置だった。その装置を外して起き上がると、先程まではなんとも無かったにも関わらず、目眩を起こしてそのままベッドに倒れ込んでしまった。それでもまだ視界が回っている。


「大丈夫か?一時的なものだからそのまま動かないで、少し休んでろよ。」


「初めてのクローラ操作の後はそんな感じだよね。話はまた後でにしよっか。ちょっと待ってて。」


 ウィルとアレクシアは部屋を出ていった。こんな情けないような姿をいつまでも見られるのは苦痛だが、誰もが通る道ではあるようだ。ただ、一人この部屋に残った時のこの静寂が、少し淋しく感じた。最近は特に自分自身に関心を持って、仲間のように接してくれている誰かと過ごした時間は殆どなかった。一人になるまでの彼らと出会ってからの時間が、どれほど楽しかったか、嬉しかったか身に沁みた。それでも気分が悪いと目を閉じていると、すぐに二人は戻ってきて飲み物を渡してくれた。


「飲めそ?」


「あ……ありがとう。」


 起き上がってその温かい飲み物を受け取ると、先程よりはかなり良くなっていた。本当に一時的な酔いの症状らしい。前を向くとアレクシアとウィルが穏やかに笑いかけてくれている。どうして、こんなに良くしてくれるのか。また思い出の中にしまっていた、彼の姿を蘇らせてしまう。


『何してんだよ、一緒に行こうぜ。』


 そう言って誰とも関わろうとしなかった俺の手を引いてあちこち連れ回してくれたロードの姿が、彼らに重なった。嬉しいようで、寂しいようで、密かに涙が零れそうになっていた。

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