第一話 ⑤
「エミリアお嬢様、今日はとてもいいお天気ですよ。庭の薔薇が綺麗に咲いていたので、持ってまいりました。いい香りでしょう?」
マリーの声がする。もう、朝? 私、いつの間にベッドに入ったのかしら。
ぼんやり目を開けると、サイドテーブルに綺麗な薔薇を飾るマリーの姿が見える。
あら……?
前よりも髪が伸びて、なんだか大人びた顔をしていた。一日でこんなに変わる?
「おはよ……う」
いつものように挨拶をしたら、なぜか小さな枯れた声しか出なかった。
「エミリアお嬢様!?」
マリーが口元を押さえ、驚いた表情で私を見ている。
え、何? どうしたの?
「エミリアお嬢様……っ……ああ、神様、ありがとうございます! エミリアお嬢様、マリーは信じていました! エミリアお嬢様は必ず目を覚ましてくれるって!」
マリーは私の手を握ると、大粒の涙をこぼす。
「ちょっ……ちょっと、何? どうしたの? 何かあったの?」
「覚えていらっしゃいませんか? エミリアお嬢様はカタリーナお嬢様とお出かけ中に、何者かに背中を刺されて……」
「あっ……! そうだわ。私、刺されたんだったわね。結構血が出たから驚いたけど、この様子じゃ出血量の割には大した事はなかったみたいね。全然痛くないもの。マリー、心配かけてごめんなさい」
本当に驚いたわ。あの衝撃で前世まで思い出しちゃったもの。
でも、このことは誰にも言わないでおきましょう。誰も信じてくれるわけがないもの……でも、カタリーナには話してみようかしら。あの子、こういうお話、好きそうだもの。
カタリーナの反応を想像すると、思わず口元が綻ぶ。
「とんでもない! 痛くないのは、時間が経って傷が癒えているからです」
「時間って……私、どれくらい眠っていたの?」
身体を起こそうとしても、力が入らない。
「ご無理なさらないでください……!」
マリーが支え起こしてくれた。自分の髪がやけに長いことに気付く。
あら……? 私、こんなに髪が長かった?
「三年……」
「え?」
「エミリアお嬢様は、三年も眠っていたんですよ……!」
――三年……!?
今目覚めたばかりなのに、目の前が真っ暗になって気を失いそうになった。
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