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第八話 ⑤


 また、レオンのお人好しが出てしまったわ。


「なっ……妃!? エミリアが、デュランタの!?」


「ハンスお兄様、レオンは優しい人なのよ。私が不遇な思いをしていると思って、助けようとしてくれているだけなの。でも、私はその優しさに付け入るつもりはないから、安心して」



「エミリア、何度も言うが俺は本気だ」



「大丈夫よ。レオン、あなたの気持ちだけで十分嬉しいから」


 するとデニスさんがなぜか吹き出した。


「デニスさん?」


「す、すみません。えーっと、思い出し笑いです。お気になさらないでください」


 そして隣に座るマリーは、苦笑いを浮かべていた。


 一体、どうしたのかしら。


「それにしても、お前とデュランタの第一王子が、どうして旧知の仲なんだ? 接点などないだろう」


 あ、どうしよう。理由を考えていなかったわ。


「え、えーっと……」


「それは俺とエミリアの秘密だ。な、エミリア」


 ナイス! レオン!


「そうよね。レオン、二人だけの内緒なのよね」


「……おい、うちのエミリアにちょっかいをかけるな」


 ハンスお兄様が、レオンを睨みつける。


「ハンスお兄様、レオンに失礼なことを言わないで! レオンは私を助けようとしてくれているだけなのよ!」



「まあ、エミリアはこう言っていますが、俺は本気ですし、昨日は俺の両親である国王夫妻にも紹介済みです。お義兄さん」



「誰がお義兄さんだ。ちなみに私はエミリアの実の兄じゃない。従兄だ」



「知っています。エミリアから教えて貰っていますから」



 二人の目の前に、バチバチ火花が見えるような気がする。


 この二人、相性が悪いみたい……。


「お兄様が戦争で大変な思いをしている時に、私はグースカ眠っていたのね。ごめんなさい」


「お前は重傷を負っていたんだ。ただ眠っていたわけじゃない。気にしなくていい」


「そうですよ! 目覚める確率は十%もないと言われていたんです」


 マリーが涙をにじませ、私の手を握る。


「えっ! そうなの!?」


「はい……」


 は、初耳だわ……。


「こうして後遺症もなく、普通の生活を送れていることが奇跡みたいなものだ。だからエミリアは本当に気にしなくていい。これは私が自分の意志で行っていたことだ」


「……っ……ありがとう、お兄様……私、ずっとお兄様に嫌われているって思っていたの。でも、違ったのね」


「私がお前を? そんなわけがないだろう。努力家のお前を誰よりも尊敬している。どうしてそう思ったんだ?」


「だって話しかけても素っ気ないし……」


「そ、それは、すまない……単にそれはどう接していいかわからなかっただけだ。私は器用な方じゃないから、話せば不快な思いをさせて嫌われてしまうと思って……私はお前に嫌われたくなくて、話しかけるのも、深く関わるのも我慢していたんだ」


 こんなに大切に想って貰っているなんて、知らなかった。


 話してみないとわからないこともあるのね。


「それにお前は、いずれジャック王子の元へ嫁ぐとわかっていたから、これ以上気持ちが育つのは辛くなると思っていたんだ」


 ハンスお兄様からずっと嫌われていたと思っていたけれど、私のことを好きでいてくれたなんて……。


「でも、意識不明のお前を見て後悔した。どうして今まで我慢してきたんだろうって。だからもう、これからは我慢しない。エミリア、私はお前が好きだ」


 なぜかレオンが「な……っ!?」と驚いた様子だった。


 そうよね。私も驚いているもの。


「私、ハンスお兄様のことを誤解していたわ。ずっと嫌われていると思ってから悲しかったけれど、でも、好きだって言って貰えて嬉しい。お兄様が私のお兄様でよかった!」


「あ、ああ」


「私たち、本当の兄妹じゃないけれど、私はハンスお兄様を本当のお兄様だと思っているわ。これからも私のお兄様でいてね」


「……あ、ああ……」


「そして嫌うなんてことは絶対ないし、本当の妹だったら、遠慮するなんて変でしょう? 私たち本当は従兄かもしれないけど、心は真の兄妹よ。仲良くしましょうね」



 ハンスお兄様の手を取り、ギュッと握る。


「……………………あぁ…………」


 なぜかハンスお兄様は、生気の抜けたような顔をしていた。


 あら? どうしたのかしら。……あ、ずっとデュランタで気の張った生活をしていたのだもの。お疲れなのよね。


「すごいな。速攻で振られちゃったよ」


 デニスさんがボソッと小さな声で何か言ったけれど、聞き取ることができなかった。


「これは、悠長なことは言っていられなさそうだな」


 レオンがため息交じりに呟く。


 なんのことかしら……あっ!



 窓の外を見ると、日が暮れ始めてきていた。


 街を見て歩くのは三時間って約束だったから、残り時間はわずかだわ。レオンはこのことを言っているのね。


 昨日は夕食の時間以外は、デュランタを空けていた間に溜まっていた政務に励んで、今日も出かける直前まで政務をしていた。この三時間は、ようやく作ってくれた時間だ。


 レオンだって息抜きをしたいのではないかしら? 馬車の中で私たち兄妹の話に付き合わせているというのはあんまりだわ。


「今日はレオンが街を案内してくれていたの。お兄様も一緒に見て回らない?」



「無理しなくていいですよ。お義兄さん 」



「だから、お義兄さんと呼ぶなと言っているだろう。そして貴様、お義兄さんを強調していないか?」



「気のせいですよ。エミリアから真の兄妹だと思われているお義兄さん」



 レオンはにっこり微笑んで、何度もお義兄さんと呼ぶ。



 そういえば、レオンのお兄様……デュランタ国の第一王子は、どんな方だったのかしら。あの王妃様の血を継いでいるのだもの。きっといい人よね。



 馬車を降りて、私たちはまた街を散策し始めた。


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