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みらいひめ  作者: 日野
序章/竹取・石作篇 らいと版
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三.白山にあへば光の失する(18) らいと

 残りは後日談みたいなものである。いや当日の話もあるが。


 俺たちは時間を「遡って」元通りの世界で買い物の続きをした。アリクイのぬいぐるみは二回で獲れた。その日の夕食はミヨ宅で食べた。女子二人でカレーを振る舞ってくれると言うので、ご馳走になったのだ。俺たちはゆっくり夕食を楽しみ、食後にはトランプなどで遊んだ。平和だと思ったよ。


 皿の片付けは、俺とミヨでやることにした。他の二人はリビングで仲良く——、まあ普通に話したりテレビを観たりしていた。俺は食器を洗い、ミヨがタオルで水気を切った。


「ミヨ、そう言えば戦いの最中、俺に傘を渡したか?」


 俺が平皿を渡しながら言うと、ミヨは唇を曲げた。今日はお気に入りの青いエプロンを選んだらしいが、よく似合っている。


「傘なんか知らないわよ。そんなことがあったの?」

 あれ、ミヨしかいないと思ったのだが、結局何だったんだろう。


「そっか。でも今回はギリギリだった。マジで死ぬかと思ったよ」

「そう? 私は全然心配してなかったわ」

 ミヨは俺の弱音にも笑顔を見せる。お前だって泣きそうになっていたくせに。


「そ、それはアンタが目を覚まさなかったからよ。でもね、負けるとは思わなかった」

「え、そうなのか。ほい」


 俺が鍋を手渡す。これが最後。ミヨは鍋を拭きながら言う。


「私にはね、十年? 十五年? 先の未来が見えてるのよ。それは私もシュータも出て来る映像なの」

 俺とミヨは未来でも関わりがあるのか。しかも十年以上あとに。


「どういう未来なんだ?」

「それは……えっと。私とシュータが、二人で――」

「二人で?」


 ミヨは俺の目を見つめた。やがてミヨの方が根負けして「ふふっ」と吹き出す。


「ヒミツ。幸せなこと」

 そう言って俺の肩にぶつかって来た。んだ、それ。


「私はこの未来が消えない限りは、大丈夫って信じているから。シュータも頑張ってね」

 なぜ俺が頑張るんだ? 俺の「わからねえ」という反応を見て、ミヨは楽しげに笑った。



 八時過ぎにノエルと共に家を出た。女子二人に見送られて寂しく帰る。暗い住宅街。夜道。蝙蝠や蛾が飛んだり、ヘッドライト点きの車がたまに通ったりする。ノエルが会話を切り出した。と言うか、吐き出した。


「はあ。疲れたー。ヤバいっす。精神の疲労が凄まじい」

 ノエルは美月のハグを貰ってないからな。俺の心はバッチリ回復してるぜ。


「まあ、疲れるよな。二度とやりたくない」

 ノエルは隣を歩く俺を見上げる。そして小悪魔のような笑みをした。


「シュータ先輩はどう思いました? 今日の美月先輩と伊部さんの説明」

 今日も相変わらずわかりにくかったな。頭がいいんだろうよ。


「俺は不自然だと思いましたね。伊部さんは冷静すぎた。美月先輩も怪しい。だって今までの超能力者は誰でしたか? 全員が美月先輩の身近な人っす」

「今回で『たまたま』と言うには苦しくなったな」と俺。


「ええ。もし世界に異常が来したのなら世界中で異常が起きていてもいいのに」


「気付いてないだけの場合もある。それに、美月が世界の異物だから、美月を中心に異変が起きるのは自然とも……説明できる」と笑ってみた。


「うん。たぶんそう説明されるでしょう」

 ノエルはいつもの女子のような童顔とは打って変わって、鋭い眼光をしている。そう疑いすぎるのも良くないと思うね。俺たち仲間、だろ?


「そう言うシュータ先輩も隠し事していませんか?」

 さあ、何のことだろう? ノエルは俺にも笑みを見せた。


「今まで登場した能力を挙げます。時間移動しても記憶が消されない。未来予知。瞬間移動。情報改ざん。最強の人体。皆わかりやすい能力だけど、最初の一個が目立つ。シュータ先輩、俺は先輩の能力がおかしいと考えてるんですよ。他の全部は、まるで人間が考え出して与えたかのような能力なのに、先輩の能力は微妙だ」


 俺に言われても。ま、いいじゃん。美月を見つけ出すのに役立ったんだし。


「はい。まさに美月先輩を発見するためにあるような能力ですね」

 おいおい。仲間割れを促すような発言はやめろよな。


「でも俺は、時間移動に記憶が巻き込まれないというのは、みよりん先輩と同じで副産物だと思っているんです。ですから、シュータ先輩、ヒントくらいいいでしょう?」


 いやそんなこと言われても何も無いぞ。


「駄目か。俺は今日で手の内は出し尽くしました。瞬間移動を使う武術が俺の武器です。でもそこまで頑ななら、話を変えましょう。さっきの誰かが考えたような能力の話です」


 俺は理論の話は付いて行けないな。ポケットに両手を入れた。


「カオス理論でしたが、もう破綻したと思います。美月先輩が来たことで世界の秩序を保つために、色々あって超能力者が誕生した。これはおかしい。だってぶっ飛んだ能力は存在するのに、背が縮んだとか、山が高くなったとか、一日の時間が長くなったという小さな変化は無い。俺たちの能力は昔から持っていたような記憶が植え付けられていますが、実際は最近に恣意的に与えられたんだと考えています」


 ふん、そうかよ。いつの時代も陰謀論は元気だな。


「だからと言って、すぐに害が生まれるわけではないだろ? 今は仲良くしようぜ」

「ま、そうっすよね」


 ノエルは再び子供っぽい笑顔を見せた。俺は()()()()、誰かとアフタートークをすべきだと思った。誰だったか。頭を捻って思い出そうと努める。


「く、く、くら……」


「暗いっすよねー。夏になればもう少し明るいのかな」

 違う。人名だ。喉元まで出ている。誰だったか。


「クラークっすか? ボーイズ・ビー?」


 アンビシャス。違う違う。お前のせいで記憶が引っ込んじまったじゃないか。まあいい。疲れたから、家まで瞬間移動で送ってもらおう。

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