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みらいひめ  作者: 日野
序章/竹取・石作篇 らいと版
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 一.黄金ある竹を見つくる(14)らいと

「アイじゃねえか。って、なんで竹本さんと一緒に」

 また説明するのかよ、面倒だな。何度も教えているだろうが! 冨田がこちらに来るのを待って話す。


「竹本さんを学校案内していたんだ。以上」

「なんかいきなり怒ってねえか?」

 怒ってない。竹本は安堵の表情で、「どうも」と挨拶した。冨田はニヤニヤが止まらない。それはお前のための笑顔じゃなくて、世界の秩序を憂う気持ちから出た笑顔なんだからな、と言ってやりたい。ち、なんで俺はこんなことで嫉妬しているんだろうね。


「それより冨田、お前今までどこにいたんだよ。向こうの校舎に用事なんてあったのか?」

 冨田は頷いた。俺は特別棟なんかほぼ使わないのだが。


「パソコン部の坂元ちゃんと話してたんだ。ほら、パソコン室があるだろ?」

 知らん。


「確か、五階の教室ですよね」

 竹本がそう言うと、冨田は「そうそこ」と指差した。なんで去年から在籍している俺の方が教室に詳しくないのだろう。すげー不思議。


「アイは学校に対する興味・関心が無い、悲しき帰宅部員だからだぜ」

 うん、否定する言葉が見当たらない。竹本は微笑んでいた。


「ちなみに坂元って誰だ?」

 冨田はすぐに教えてくれる。


「一組の女子だ。パソコン部の新部長。ほら一組と言えば、あの変人かつ美人で有名な『みよりん』がいるクラスだよ。そのみよりんの友達」


 そんなこと言われたってお前のチャラ田データには興味も無い。他クラスの女子のケツを追い掛ける暇があったら、もっと有益なことに時間を費やしたらどうだ。


「みよりん、さん……。外国の方ですか?」

 竹本が尋ねた。冨田は真顔で「天然か?」と俺に訊いてくる。百パー純粋に天然ボケでございます。


「正式名称はアララギ・ミヨっていう女子でさ、変な部活で奇天烈なことやってることで有名だ。ただ見た目は何とも言えない美人さん! 中身のせいでホント近寄りがたいだけなんだよな……」

 ふん、無様に玉砕するがいいさ。確か告白13連敗中だっけ? 俺ならまず不登校になるね。


「ところで、俺はチャリンコでせっせと帰るつもりだが、アイは竹本ちゃんとデート続行するつもりか、ああ?」

 冨田は圧を伴って問いただす。俺たちも帰るということにするか。そろそろ福岡が事故現場に到着する時間だ。じゃ、歩きながら例のことを済ませるとしよう。


 俺たちは三人で本棟の階段を下りる。俺から持ちかけた。


「なあ、冨田。竹本さんと連絡先を交換してやってくれないか? 最初は俺がクラスの連絡グループに入れてあげようと思ったんだけどさ」

 冨田は「思うな。勝手に」とキレる。お前に譲ったんだからいいじゃねえか。


「でもよ、俺でいいのか? アイじゃなくて」

 俺は電源が入らないスマホの黒化画面を見せつけた。この暗黒面を見ればわかるだろ。充電が無いんだよ。


 今、気が付いたけど、世界がリセットされているのに充電が復活しないのは、竹本のスマホのメモと同じで、俺のスマホの内容も保護してくれているからなのか?


「間抜けだなぁ。ま、いいぜ。俺が竹本ちゃんを招待してやろう」

 ウキウキで冨田はスマホを取り出した。竹本は操作に慣れていないため、恐る恐る連絡先を教えていた。ふん、くだらない構図だな。一階の廊下を歩きながら交換を続けている。くれぐれも転ぶなよ。


 ――ちなみに、なぜ「『今日中』に冨田と竹本が連絡先を交換すること」が条件かというと、「今日中」という制限が無ければ、わざわざ事故を引き起こしてまで俺たちを学校に連れ戻し、冨田と連絡先を交換させるなどという回りくどい手段を取らなくて済むからだ。


 だってそうだろ? 明日でもオッケーなら、誰に言われずともクラスメイトたち(冨田だけじゃなく、もちろん俺も)はこぞって竹本と交換しようとするだろう。今日の放課後を逃したからといって、竹本の連絡先を知る機会が永久に失われるわけじゃない。


 どうしても今日じゃなければならなかったのだ。理由はわからない。


 けど、俺の推測では「俺と竹本が直接連絡先を交換する」ことは、世界にとって何か不都合なんじゃないかと思っている。俺のスマホは放課後に充電が切れた。もし明日の朝まで待ってくれれば、フル充電で竹本と直接スマホを見せ合って交換できる。が、先に冨田が交換を済ましてしまえば、俺は冨田経由で竹本のアカウントと繋がることになるだろう。


 結果的に、俺は竹本と直接連絡先を交換できない運命なのだ。


 なんで世界はそこまで惨酷なのだ、と思うが、あの世界さんのやることなんだから、何か意味があるに違いない。もしこれが本物の〈主軸〉であれば、福岡が事故に遭って、俺たちを学校におびき寄せる意味がなくなる。さあ、どうなるか。


「お、あれ岡ちゃんじゃない?」

 冨田が昇降口の方を指差す。リュックを背負った福岡が、ダッシュで下駄箱へと向かっていた。おいおい、ちょっとどういうことだ? 事故は起きないんだよな。


「相田さん、大丈夫ですよね……?」

 わからん。福岡が普通に帰れればそれでいいんだ。でも、やっぱり心配だ。ちょっと荷物置いて行くから、任せた。俺は走って校舎を飛び出した。靴を履く余裕も無い。


「おい、待て福岡! 車に気を付けろ」

 俺らしくもない大声で呼び止めた。福岡のお団子頭がこっちを振り向く。既に校門を出た後だった。頼むから事故が起きるな。


「あああ、相田くん⁉」


 視界の右隅に軽乗用車のライトが映った。ダメだ、事故は防げない! 自動車は校舎の方に突っ込んでくる。福岡は呆然と立ち尽くしてしまう。何度も何度も福岡を事故に遭わせて、俺は本当に何をしているのだ。大事な友達をちっとも守れていないじゃないか。だからせめて一回くらい、俺が代わりになってやる。


 俺は手を伸ばし、福岡を車道側に突き飛ばした。来るなら来い、俺だって一回くらい痛い思いをしないと割に合わない。――瞬き。

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