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まだ光の粒だったとき

 ーまだ光の粒だったときー


「まだ光の粒だったとき」天使は一人微笑みました・・・・・・


 フラスコ画の中に翼を置いてきた天使がまだ光の粒だった遥か昔、旧道沿いにあるライ麦畑には、現代と劣ることのない文化文明を持った国の大きなお城がありました。国家規模こそ小さなものでしたが、決して傀儡的バッタモン国家ではなく、どこからも独立する王国として平和な営みがあり、こつこつ塁を埋める程度であれ堅実な繁栄がありました。季節を通じ制限されることなく自由に使える豊かな地下水源がそこかしこにあり、用水路の整備もなされていました。歴代の君主は変わらぬ聞く耳を持っていて、農業労働者は少なくとも許しがたい不平不満を密かに抱えながら日々暮らしているわけではありませんでした。むしろ彼らは常々過去から学び新たな知恵を実践したので、代々肥えていく田畑は途切れず耕され続けました。家畜の飼料にも回せるだけの収穫があったほどだったのです。また市中には文化も花を開いていて芸術に限らず娯楽施設まで存在していました。

 夏至と冬至を理解していることとは別の話だったろうが、季節は滑らかかつ順調に移ろい、どのシーズンにも過剰に偏る天候はありませんでした。自然災害という概念がなかった彼らはもちろん人災という言葉も存在していません。

 人は人を想いやりました。芸術家は労働者に感謝を忘れず、労働者は芸術家をリスペクトしました。労働者は互いに労働を助け合い、芸術家は互いの作品を認め合っては競いました。大きなパンは大きく、小さなパンは小さく分け合うのでした。そのような人物へと誰もが育つよう親は子をしつけ、子は親を見習うのでした。例外なくどの家庭でも家族間の会話を大切にしました。


 さて、血の繋がりに固執する一族はお城のなかだけのことで、でもそれだって最終的には血の繋がりより当人同士の気持ちが優先されました。君主の性別も大した意味はありません。なるべく永く確かな安寧が続く国であろうとする唯一の方策だと信じていたからです。そしてそれは実際永く続いていました。まだ人間に対して手探りだった頃の「神様」の実験だったのかもしれません・・・・・・


 「・・・・・・でもあるとき羽根の生えた馬が生まれちまったんだ」天使は続けます。


 この大変に突飛な出来事を国家機密として扱うことにしたのは巷で同時に起きた、奇しくも同名の表現者が創作した、三つの異なる分野での流行が大きな、というか決定的な要因でした。

 「リト」という売り出し中の青年が唄う「馬の羽」というキッズソング。「リト」という無名な劇作家が書いた「馬の骨の羽」という戯曲。そして「リト」という有名な老画家の絶筆「白い羽の黒い馬」という題名をつけた油画。これらはほぼ同時に世のなかへ現れたのです。   

 市中では子供も大人もパッカ、パッカ、バッサ、バッサ唄うポップなメロディーと簡単な振り付けを覚えて口ずさみ、場末の劇場には羽毛の痕跡を残す巨大な馬の巨大な骨を盗掘するドタバタ悲喜劇に行列が絶えず、庭の栗木の下で倒れている父親を発見した、画商の一人娘が弔辞で述べた抽象的な黒い馬の作品をいよいよ公開すると歴代最高額の値が付き大きな話題となったのです・・・・・・そしてご用達牧場では実際に羽根の生えた馬が生まれたのです。全てひと月の間に起こったことでした。


 「三つの偶然までは誰もが許容できたから祝祭的な解釈で片づけられた。でも四つ目の偶然を知る限られた者には、この度こそが、巷で一連している出来事を祝祭たる決定的確証だと解釈する、ある意味での根性はなかった。季節に伴う空のご機嫌しかり、暗い影の足音を持たない国民感情もしかりで、あまりに永く安定していた、平和すぎる心優しい権力者連中は、いつしか何に対しても小さな異変にさえ過剰になっていたんだ。突然とはいえ三連チャンで現れた創作作品の「馬」ごときにお咎めや警戒を持つことなどさすがになかった。でも四度出現した「馬」は、よりによって自分たちの足元に生まれた「本物の馬」だ。彼らは酷く動揺しちまった。明日も太陽は東から昇るか? 極北にある動かない星は今夜も動いていないか? 地面に影を持たない輩や透明人間はいないか? 隠密に、狂ったように、実はそれらを望んでしまっているかのように人手をかけて観察し、監視した。つまり、恐るべきぬるま湯王国の中枢は、羽の生えた馬を知る者に絶対の口外を命じただけで、その誕生を解釈する言葉も勇気もなかった。だからなおのこと、厄介な「仔馬」を殺処分するなどさらさら無理な話だった。結局はその「馬」を城の後ろの馬小屋に閉じ込めた。それがここだ。この礼拝堂は羽根の生えた馬を隠す目的で建てられた馬小屋が始まりなのさ・・・・・・」




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