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剣の誓いは時を超えて 〜騎士、フェンシングで世界を制す〜  作者: 南蛇井


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13/33

それぞれの決意(予選開始直前)

――東京都内、有数の規模を誇る体育館。


天井は高く、巨大な梁が影を落とす。足元には磨き抜かれたフロアの光沢が広がり、冷房の効いた空気の中に、すでにどこかで始まった試合の剣先が交錯する鋭い音が響いていた。


レオ、蓮、そしてキャプテンを先頭に、部員たちは揃った歩調で入場する。白と青の部ジャージが揺れ、その後ろに並ぶ他校の旗やユニフォームの色が視界を鮮やかに塗り替えていく。


熱気。

それは歓声や足音だけではない。試合を前にした者たちが放つ、混ざり合った緊張と昂揚――まるで見えない炎が会場を満たしているかのようだった。


レオはその炎の中心で周囲を静かに観察し、心の中で呟く。

(戦場とは違う匂い……だが、剣を持てば負ける気はしない)


横では蓮が無言のまま、丁寧に手入れしたエペの握りを確認していた。動きに無駄はなく、その横顔には一切の迷いがない。


キャプテンは歩みを緩め、全員を見回す。口角をわずかに上げ、短く言う。

「ここからだ。全員、やるぞ」


その一言に、チームの空気がさらに引き締まった。

彼らはもう、ただの高校生ではなく――試合を前にした戦士たちだった。



――試合会場の隅、待機席に腰掛けながらも、部員たちの視線はそれぞれ別の一点を見つめていた。


サブレギュラーの一年生・城戸は、まだ使い慣れないマスクの内側で唇を結ぶ。

(来年は、あの列に立つ……。先輩たちの背中を超えて、必ず)

彼の視線の先には、アップを始めたレギュラー陣。汗を光らせながら剣を振るその姿は、まるで壁のように高く見えた――だが、越えられぬ壁ではない。


三年生の女子部員・美咲は、試合表を見つめたまま小さく息を吐く。

(これが最後……一本でも多く、私の剣で勝ちたい。それが後輩の勇気になるなら、十分だ)

そう思いながら、マスク越しに一年生たちへ視線を送る。目が合った城戸が慌てて姿勢を正し、美咲は微かに微笑んだ。


「――よし」

キャプテンの一声が合図のように、全員が立ち上がる。足音が揃い、胸の奥の熱がひとつに重なる。


この瞬間、彼らは同じ方向を向いていた。

勝つために。

守るために。

そして、それぞれの小さな“誓い”を叶えるために。



会場の一角――黒と金のコントラストが異様な存在感を放っていた。

私立《凰英館高校》の選手たちだ。黒地のユニフォームに、背中を裂くような金のライン。そして胸には、獣が爪を振り下ろす刺繍。まるで「牙を剥く」ことこそが彼らの流儀だと告げているようだった。


その中でもひときわ目立つのは、三年生の城ヶ崎隼人。

一歩踏み出せば、床板がわずかに悲鳴を上げる。踏み込みと打突――その全てに、相手の防具ごと貫くような重量が宿っている。腕の筋肉は、エペではなく戦斧を振るう戦士のそれだった。


その横に立つ二年生・早乙女凛は、対照的な存在だ。

腰の低い構えから、風を裂くような連撃とフェイントを繰り出す。瞬きすら許さぬ速さで間合いを変え、気付けば死角から突きが迫る――その動きは疾風の剣。


二人に共通しているのは、剣を交えている瞬間の表情だった。

口元には笑み。瞳には獲物を前にした獣の光。

彼らにとって試合は、勝敗以上に「戦いそのもの」が悦びなのだ。


レオはその空気を一瞥し、心の奥で呟く。

(……こいつら、血の匂いを知ってやがる)



会場の反対側――静謐な白と藍が、乱雑な熱気の海に一筋の冷流を走らせていた。

《蘭陽学園》の選手たちだ。


白地のユニフォームに、肩から腕へ流れる藍のライン。整列の姿は軍隊を思わせ、わずかな足運びや礼の角度すら寸分の狂いもない。観客席のざわめきすら、この統制感の前では自然と静まっていく。


彼らのほとんどは剣道経験者。その構えは低く、腰がどっしりと据わっている。わずかに膝を緩めた姿勢からは、容易には崩れぬ城壁のような威圧感が漂っていた。

間合いの取り方は独特――じり、と近付くその歩みは、攻めが遅いと錯覚させる。だが、実際には一歩の爆発力が常識外れで、その瞬間に鋭い突きが牙を剥く。


中でも主将・八重樫誠司は別格だった。

「守りの壁」と呼ばれる彼は、相手の攻撃を受け流すのではなく、完璧に封じた上で反撃を打ち込む。しかもその反撃は、全国でも指折りの速度と精度を誇る。


レオは遠目にその構えを見て、唇をわずかに歪める。

(……あれを崩せるやつが、どれだけいる?)


蓮は隣で、表情ひとつ変えずに言った。

「面白くなってきたな」



体育館に張り詰めた空気を切り裂くように、アナウンスの声が響いた。


「――それでは、選手はコートに入場してください」


観客席から押し寄せる歓声。校名を叫ぶ声、連打のような拍手、そしてカメラのシャッターが小さな稲光のように瞬く。

その熱の渦を抜け、レオは静かに歩を進める。無言でエペのグリップを握り直し、手に伝わる感触を確かめた。


隣を歩く蓮は、深く息を吸い込み、わずかに目を細める。呼吸が整った瞬間、その瞳には雑音を遮断したような澄んだ光が宿る。


コートの端で全員が円陣を組む。キャプテンが短く、しかし力強く言い放った。

「――俺たちは勝ちに行く。全員でだ」


一言で、全員の顔つきが変わった。迷いも恐れも削ぎ落とされ、そこにあるのは獲物を狙う戦士の眼光。


コート中央に差し込むライトが、並んだ剣先に反射する。

その煌めきが一瞬、刃を掲げた古の騎士たちのように見え――次の瞬間、笛の音と共に戦いの幕が上がった。




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