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第33話 ユラシア大陸へ

 魔王ゴライアスとの話から数日。

 ムサシは軍の練兵の傍ら、魔王の国であるデミアン王国へ行く準備を進めていた。

 聞けば、そのデミアン王国は北西にある大陸、現代でいうユーラシア大陸の中北部にあるという。

 とある理由によって、ムサシが居たあの時代、世界とは全く様相が違っているというのも、その準備の中で理解できた。


 とある理由。

 それは多くの人間や文明、文化、歴史を悉く破壊しつくしたと言われている大災害だ。

 具体的に何があったのか、という点では記録も残されていないらしく詳細は解らないのだという。

 ただ、その出来事が、この世界の在り様を一変させた、という言い伝えだけが残っている。


 後にムサシは理解する事になるのだが、それは数多の隕石がこの星に衝突した“メテオインパクト”という出来事だ。

 詳細は不明な所も多々あるが、結果としてそれによって人類の9割が死滅したとも言われているらしい。

 ムサシとしてはにわかには信じられない事ではあるが、事実としてそれが起こって今がある、と言う事らしい。


 そして。

 人間には理解できない事ではあるが、その出来事の後に龍族や魔族といった、人間とは違った生命体が台頭してきたのだそうだ。

 その根っこ、つまりは何故そのような生命体が発生したのかは、この世界の誰も知らないらしい。

 当の魔族や龍族でも。


 そんな人間とは違う生命体の魔族や龍族が扱う特別な術、魔法。

 もとより、身体能力と言う点では人間と魔族、龍族は天と地ほどの差がある。

 実際に魔王ゴライアスと会い、その差は実感できたことではあるのだが、実際にどの程度の差があるのかはまだムサシには解らない所ではある。

 魔族との相の子というヴァーリオの基本能力で、ある程度は推測できたのだがゴライアスのそれはヴァ―リオでさえ軽く凌駕するというのは理解できた。


 「と言う事で、だ。ムサシよ。」

 「リヒト?」

 「デミアンまでヴァーリオをお供として連れて行くがよい。何かと助けになるであろうし、な。」

 「あ、そ、それは有り難いけど……良いの?」

 「わははは、良いも何も、もはや君は我らの家族だ。ヴァーリオとて同じであるぞ。右も左もわからぬムサシを単身放り出すなどできないからな。」

 「ありがとうリヒト。でも……」

 「心配無用だ。というかだ、デミアンで得た事を早く我が国に持ち帰ってくれると助かるぞ。」

 「あ、ああ、そうだね。」


 こうしてデミアンへはムサシとヴァーリオ、二人での旅となった。

 聞けば船で大陸に渡り、そこから馬車で数日の旅程だという。

 途中、大国であるラディアンス王国と古参の大国エスト王国を経由するという。

 どれも聞いた事が無い国の名前だ。


 出立の準備も整った日の夕刻。

 明日一番で出発するムサシとヴァーリオを送る為の宴席が設けられた。

 リヒトの下に厄介になってからまだ半年も経ていないというのに、もはやムサシは昔からの仲間のようにジパングに溶け込んでいた。

 ムサシ本人のカリスマ性もあるのだろうが、何よりジパングの民の人懐こさがよく理解できる事柄ではある。

 もっとも。

 何と言うか、この世界へと来た時から感じている違和感も、それらを助長しているようにも思えた。

 端的に言って、悪意というかそういった人間の持つ闇、あるいは負の感情がとても薄弱なように思えるのだ。


 そんな思惑はあるにせよ、こうして旅立つムサシを送り出そうと集まってきてくれた人達の、屈託のない笑顔を見ていると、最初にリヒト達に出会えた事がとても幸運だったと実感できた。

 それにはリヒトへの感謝もあるし、何より自身を受け入れてくれたジパングの人達への感謝でもあるのだろう。

 はにかむムサシの表情は、宴席に居る者達に何とも言えない心地よい感情を植え付けたと言って良いだろう。


 「で、ムサシ様、お帰りはいつに?」

 「あー、すみません。解りません。」

 「いつでも帰ってきてくださいよ。ここはもうムサシ様の家なんですから。」

 「あ、ありがとう、フォスさん。」

 「あはは、やっぱりさん付けは無くならないのですね。」


 何とも言えない騒々しくも安らかな雰囲気の壮行会も終わり、夜が明けた。

 朝霧の中、ムサシとヴァーリオは見送りのリヒト、フォス、ヴァロ、ヒカリらに笑顔で挨拶をしてアルプスの地を発ったのだった。

 リヒトからは、どこの国であっても自由に通行できるジパング政府発行の『特別通行手形』なるものを貰った。

 これがあれば通関などお構いなしで各国へ出入りができるそうだ。

 もっともその手形とは、ジパングの王族という身分を証明するものであるのだとか。

 それもあってか


 「い、いいのですか?」

 「もちろんでございます。最優先でご案内させていただきます。」


 大陸へ渡る船にあっという間に載せてもらえる事になった。

 時期としては秋になっていて、穀物の輸出入などで船便に余裕が無い時期なのだそうだ。

 なので客船であっても貨物優先に用いられるから乗客は空きを待っている状況でなかなか乗船できないらしい。

 それに、その原因には先日の魔獣の影響も少なからずあるという。

 

 「何と言うか、申し訳ないなぁ……」

 「ムサシ様、気に病む事はありませんよ。これでも以前よりはマシなのです。」

 「そうなの?」

 「はい。数年前は船の数そのものが少なく、船賃も高価すぎて小舟で渡る旅人が多数いたのですから。

 それに比べれば数日待てば確実に乗船できるのですから、心配はないでしょう。」

 「へぇー……」


 実際に、日本海を小舟で渡ろうとするとかなり危険な航海となる。 

 太平洋に比べ日本海の中ほどは海流も風も強く、波も高いし荒れている状態が普通なのだそうだ。

 特に秋口から冬場はそれが顕著になる為、小舟で大陸へ、あるいは大陸からジパングへと辿り着ける確率はかなり低いらしい。


 とはいえ、ジパングの民、それから大陸の東海岸の民はそんな荒れた冬の日本海で小舟で漁をしているのだから、それを見た人からすれば海を渡れると錯覚してしまうのは仕方がない事なのだろう、とはヴァーリオの言葉だ。


 「冬場はですね、カニ漁が盛んでこの海のカニは絶品なんですよ。」

 「カ、カニ!」

 「ふふふ、ムサシ様、よだれ。」

 「じゅる、ご、ごめん。」

 「船が向かう港でも、そのカニは手に入りますが時期としてはもう少し後ですね。年明け前後が旬かと。」

 「何と言うか、そんな話を聞いたら待ちきれないよね!」


 そんな話をしているうちに、ムサシとヴァーリオが乗る船はジパングの北の玄関口、トヤマのヒミポートを出航したのだった。


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