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第31話 ウオズ評定

 魔獣討伐を終えリヒト達討伐軍は城へと帰還した。

 リヒトをはじめとした幹部の者達は、怪我人こそ多く出てしまったが出兵した者全てが帰還できた、と言う事がこの上なく嬉しかったらしい。

 その上で魔獣を撃退できたのだ。

 凱旋となった城とその周辺では大騒ぎになっていた。


 もっとも。

 魔獣そのものは結果的にムサシによって排除できた訳で、ジパングの兵としての実績は無いに等しいという現実に、出兵した者達は素直に喜べないというのも本当の所なのだろう。

 それはムサシにもリヒトにもひしひしと伝わっている。

 そんな苦い初陣をレビューする、と言う事で城には出兵した者全てと他の主だった面々が集結していた。


 「さて、集まりましたな。ではこれからウオズでの討伐に関して評定を執り行う。」

 「進行は某、フォスが務める。」

 「うむ、では始めてくれ。」

 「ははッ!」


 評定は、まず接敵前にイトイガワに到着した所からの顛末を詳細に公表した。

 そしてウオズでの魔獣との邂逅、戦闘へと話は進む。


 「魔獣に対しての兵の動き、とりわけ各個の動きと全体の連携はほぼ作戦通りにできていたと言えます。」

 「よろしいですか?」

 「はい。」


 今回討伐隊には参加していなかったヴァロが、誰もが思ったであろう事を質問する。


 「聞き及ぶ限りでは戦術としては申し分ないとお見受けしますが、それでは何故我が軍が苦境に立たされたのでしょうか?」

 「それは……」

 

 その理由は明白ではある。

 が、それを口にするのは些か自己嫌悪に苛まれてしまう事にもなるし、兵の評価も下げてしまう事にも繋がりかねないとフォスは思う。

 とはいえ、そんな現実を直視しない事には次につながらない事も、ここに居る者全てが理解している。


 「此度の魔獣、あれは我ら人間がどうこうできる存在ではない、という事でした。」

 「どうこう……できない……」


 ざわつく場には、改めて魔獣という脅威を思い知ったという感が蔓延する。

 これまで何度か魔獣を退けた、討伐できたという実績も有りはするのだが、どちらかと言うと多大な犠牲を払い、最終的に魔族や龍族の助力によって難を逃れた、という事実の方が多い。

 それを実感しているからこそ、今回の上位クラスとヴァ―リオが言ったあの魔獣は、もはや手出しできない存在なのだろうと皆理解した。


 「そ、それではあのクラスの魔獣に対しては……」

 「我らは為す術が……」


 評定の場は重苦しい空気が漂う。

 確かにジパングの兵、軍はムサシによって見違えるほど強化された。

 先日の下位レベルの魔獣なら簡単に対処できるであろう程に。

 それでもなお、今回の魔獣に対しては防戦一方どころか完全に負けていた。


 「しかし、です。」

 「ヴァーリオ?」

 「打開策が無いとは言い切れません。と言うよりも、だからと言って何もしないのでは我が兵の存在意義も無くなってしまいます。」

 「そ、その通りではあるのだが……」

 「無いとは言い切れない、というのは、何か手立てがあると?」


 有ると言えば有る、のだが、それが可能か否かはわからない、と前置きした上でヴァーリオは言う。


 「手が届かなければ、届く所まで高めれば良い、という単純な話です。」

 「どういう…事だ?」

 「ここからは俺が説明します。」

 「ムサシ殿?」


 ムサシはヴァーリオの言う打開策の一つを話し始めた。


 「今回、本隊に随行したシノビ衆、だけでも無いのですが、特別な力の片鱗を窺わせた者が数名いました。」

 「特別な力?」

 「恐らく、ですが、その者は訓練によってその特別な力を得る事ができるのではないか、と感じたんです。」

 「ムサシ様、特別な力とは一体?」

 「俺自身、満足にそれを行使できませんし、その根源たる部分は理解していません。ですが……」


 ムサシは懇々と説明する。

 その特別な力とは、エイルや白蘭、酒呑童子や天中坊が使っていた術の事だ。

 エイルに教えてもらったその“魔法”という術の中には、人間の身体能力を各段に引き上げる事のできる術も存在し、実際にエイルにかけてもらった事が有る。

 白蘭にもそれを聞き、陰陽術という魔法とはまた別の術においても、同様の効果が得られるものがあるのだそうだ。

 ただ、残念ながら酒呑や天狗の扱う妖術については、物の怪以外の存在では行使できないというのも教えてもらった。

 なぜなら、人間には妖術の根源となる要素、つまり妖力は持ちえないから、なんだとか。


 要するに、そうした術によって個々の能力を引き上げる事で、少なくともあの魔獣の肉を斬り骨を断つことはできるだろう、というのがムサシの考えだ。

 実際にあの魔獣を斬ったムサシだからこその根拠もある。

 ただし、とムサシは続ける。


 「その術の会得に関しては、ごめんなさい、俺にはできないんです。」

 「そ、そうなのか……」

 「それは何故なのですかムサシ様!」

 「端的に言って、俺もそれを完全な形で行使する事はまだできないから、なんです。未熟者なんです。」

 「未熟だなどと……」

 「そこで、ですが。」


 ヴァーリオが話を繋げる。


 「今のムサシ様には他者へ伝授する事はできませんが、代りとなる方が居ないという事もないのです。」

 「ヴァーリオ殿、それは!?」

 「魔族、あるいは龍族の者が居ます。彼らはいわゆる“魔法”という妖の術を自在に行使できるのです。」

 「魔族か……」


 ジパングという島国は、特に魔族との繋がりが強いらしい。

 その理由は定かではないが、ヴァーリオがその出自を隠しているとはいえここに居る事そのものがその証明でもある。

 まして、リヒトは魔族の王、魔王との交友も持っているという。


 「なるほどな……」

 「殿?」

 「皆の者!此度の討伐の評定はこれまでだ!」

 「リヒト?」

 「結論を申す。我がジパングの兵はまだまだ実力を付けねばならぬ。その一点に尽きる。以上だ!」


 簡単というか投げやりにも聞こえるが、実際それに尽きる。

 あれこれと起きた事実について理由、とりわけダメな点に言い訳を付けていく事が評定ではないのだ。

 事実を客観視し次につなげる為に改善点を洗い出す、それが評定の意義なのだ。

 責任転嫁やダメ出しに終始する評定や会議になど、何の意味もない事はさすがにリヒトも理解している。

 というよりも、このジパングの人達はそういうものなのだろう。

 どことなく、あの大阪でのそれぞれの将の言動も似たようなものだったとムサシは思った。


 「これにて解散!」

 「ははッ!!」


 「さて、ムサシ、ヴァーリオ。」

 「はい?」

 「はッ。」

 「この後私の部屋へ来てくれ。飯を食いながら話そう。」


 こうしてウオズ評定は終わり、ムサシ達はリヒトの部屋へと向かった。

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