國王への謁見
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〈人柱〉が増えると、危険人物も増える訳です。
452國王への謁見
〈転移〉した場所は、区切られた森の入口である、魔法陣の前だ。魔力が多いエンデュミオン達〈柱〉には、くっきりと魔法陣の裏側が見えている。
「あれ? エンデュミオン、これ描き直した?」
「ああ、間違っていたから。出入り出来るようにな。あと時の流れも直した」
「助かる。区切った時は急いでいたから、一発勝負でさ」
あはは、とイサが笑う。
一発勝負でこんな魔法陣を構築しないでほしい。
一先ず魔法陣を抜けて、〈聖職者の穴〉に出る。イサとピルグリムがきょろきょろと辺りを見回す。
「変わってないなあ」
「……変わってない」
「そりゃそうだ。ここが見付かったのは、つい最近だ」
「嘘ぉ!」
イサの声が響く。そしてイサとエンデュミオンが顔を顰めた。動物型妖精は耳が良い。自爆である。
「本当だ。最近学院の考古学研究している者達が見付けた。だが、あの通路の暗号が解けたのは、孝宏がいたからだぞ? 砂之國の文字をローマ字読みで倭之國語ってなんだ」
「あー、孝宏って塔ノ守だもんな。どこで会ったの?」
「〈黒き森〉のケットシーの里に落っこちて来た。最初に見付けたのがエンデュミオン」
「よろしく頼むね」
「ああ。ここが丁度〈聖職者の穴〉の出口だが、面倒なのでそのままマクシミリアンの執務室に行こう」
「はい?」
「……へ?」
とっとと片付けてしまいたい。エンデュミオンはさっさと転移陣を展開した。イサとピルグリムが何か言っていたが、構わず〈転移〉する。
ぱっと出たのは、マクシミリアンの執務室の前室だ。丁度待っている者はいなかった。これ幸いと、執務室の扉の奥に声を投げた。
「エンデュミオンだが、マクシミリアンとツヴァイクはいるか?」
ガチャッ! と勢いよく執務室の扉が開いた。
「エンデュミオン!?」
「やあ、ツヴァイク」
顔を出したツヴァイクに、エンデュミオンは右前肢を上げる。ツヴァイクはエンデュミオンを見て、イサとピルグリムを見て、掌で頭痛を堪えるように額を抑えた。
「エンデュミオン。見た事がない色のコボルトと、ウィスパーがいるんだが?」
「説明するから。無害無害」
前肢を振って、エンデュミオンはツヴァイクの横をイサとピルグリムを連れて通り抜けた。執務机で決裁をしているマクシミリアンに声を掛ける。
「やあ、マクシミリアン」
「お前は何を連れて来たんだ……」
エンデュミオン達を見たマクシミリアンは諦めたのか、持っていた万年筆に蓋をして執務机に置いた。
「よっこいせ。イサ達も座るといい」
エンデュミオンは勝手知ったる応接用のソファーによじ登る。イサとピルグリムも素直にソファーに落ち着いた。妖精は基本へりくだる事はない。
「エンデュミオン、〈賢者の穴〉の調査をしていたのではないのか?」
執務机から向かいのソファーに移ってきたマクシミリアンが、疑わしそうな眼差しでエンデュミオンを見る。エンデュミオンは頷いて、風の精霊に頼んで部屋の外に声が漏れないように〈結界〉を張った。
「調査した結果がこれだ。出口用の魔法陣は見付けて、きちんと機能しているのを確認したんだが、他にもう一つ魔法陣があってな。区切られた森に繋がっていたんだ。それでこの二人は、コボルトの方が五番目の〈柱〉である碧羅の賢者イサ・トウノモリ=グリフィス・レニで、ウィスパーの方が三番目の〈柱〉である嵐の魔女ピルグリム=グリフィス」
「〈柱〉だと!?」
「え、現役の〈人柱〉!?」
マクシミリアンとツヴァイクの目が、これ以上ない程大きく瞠られる。
「区切られた空間にいたから、エンデュミオンも知らなかった」
「〈柱〉……〈柱〉って……増えるものなのか?」
呆然とマクシミリアンが呟いている。王家としては〈柱〉の復活は悲願ともいえるものだろう。それが一気に二柱増えるとなると、まあ解らないでもない。
「マクシミリアン、現実逃避しないでくれ。わあい〈人柱〉が増えたー! くらいでいいんだぞ? 面倒だから非公開にしておけば」
「そんな気軽に喜べるか! 面倒なのは、確かにな。グリフィスとは昔のハイエルンの小領主の姓ではないか?」
流石、現王マクシミリアン、知識として知っていたらしい。
「そうみたいだ。実は区切られた空間の中に、小さな古代の森がある状態なんだ。区切られた時から殆ど時間が経過していない。イサとピルグリムの他にも数人暮らしている。それで、その区切られた森を、一寸どこかに移植したくてな」
「簡単に言うな。小さな森とはどのくらいだ」
「大体一キロ四方。元々あったハイエルンの土地は無理だろう? 鉱山もあるし、昔の場所から集落も移動しているようだし、誰かが住んでいたら困る」
「そうか……」
「そうなると、植生がほぼ同じで土地が空いている、リグハーヴスに移植するのが無難だ」
リグハーヴスは土地だけはある。
「……アルフォンスに許可をもらえよ?」
「助かる。ちなみに、闇竜の幼体もいるんだが、契約主を考えるとすぐに竜騎士に登録は出来ないかな」
「子供か?」
「そんな感じだ」
マクシミリアンはどさりとソファーの背に身体を預けた。そしてイサとピルグリムを見て、「あっ」という顔になった。何かに気付いたらしい。
「イサ・トウノモリ? もしやタカヒロの血縁か?」
「うん」
イサは頷いた。
「イサは孝宏の親戚で間違いないよ。古王國時代の聖女召喚でこっちに来たんだけど、女神シルヴァーナにこの姿にしてもらった。ピルグリムはウィスパーだけど、魔物とは違うかな」
「ピルグリム、主な素材はなんだった?」
エンデュミオンは本人なら知っているかと、素材を聞いてみる。ぽそりとピルグリムが答えた。吹き抜けるような囁き声は、なかなか慣れない。
「……ウィスパーの色違い魔石と満月の下で汲んだ精霊水、妖精鈴花の蜂蜜」
「ああそれ、エアネストと同じ状態だな。精霊水で育つと聖属性を持つから、性質は魔物じゃないんだよ。妖精に近い」
現在魔物のウィスパーは地下迷宮か、〈黒き森〉やヴァイツェアの樹海の奥にしかいない。そしてそもそも害のある魔物でもない。
「もしかして、あの区切られた森に野生のウィスパーがいるのか?」
「……いる。あと極楽鳥とかの魔物が少し」
ウィスパーは害がなく人を襲わないが、極楽鳥は錬金素材にもなる稀少な小型の魔物だ。
「森から出ないように〈結界〉は必要かな。その辺りはイサとグリムでやる」
「森が移植されたら、保護地区として勅命を出す。イサ達は管理者という事でいいか。対外的には、エンデュミオンがやらかして古代の森を生やした、でいいのか?」
「ああ、それでいい」
「いいのか!?」
「……いいの?」
「大魔法使いエンデュミオンという名前はな、こういう時に使うんだぞ」
エンデュミオンはイサとピルグリムに胸を張った。イサの耳がパタンと伏せた。呆れられたというよりも、エンデュミオンの過去の仕事量を察して引かれたようだ。
「どれだけ一人で頑張ってきたんだよ。これからはイサとグリムも手伝うからさ。ところで他の〈柱〉ってどうなってるんだ? エンデュミオン」
「〈人柱〉になっていない所は、〈準柱〉にして妖精達や魔法使い、聖職者が管理している。魔導書を引き継いでいても、〈柱〉になっていない者もいるし」
ヴァルブルガの凍土という称号も、あれは本来二番目の〈柱〉なのだ。〈柱〉自体はケットシーの里の〈準柱〉として管理しているので、ヴァルブルガは凍土の魔導書と称号のみを引き継いでいる。つまりヴァルブルガは本来呼称としては大魔女になるのだが、魔女としか自称しない。このあたりはイサとピルグリムも同じだろう。彼らも本来は大賢者と大魔女だ。
「エンデュミオンは、レニ達がどこにいるか知ってる?」
「いや、レニは行方不明だ。イサ達みたいに空間を区切って引き籠っている可能性もある」
「そうかあ」
レニという名前を持つコボルトの一族は、珍しい血統魔法を持っていた。その為に徴兵された過去がある。そのレニの名前を貰っているイサには、確認しておかなければならない事がある。
「イサ、レニに習ったのは調薬だけか?」
「うん。血統魔法は無理だよ。習ったのはレニの調薬」
そのレニの調薬が問題なのだ。
「アムリタ、作れるだろう?」
「うん。素材があればね」
「おい……」
あっさりと頷いたイサに、マクシミリアンが絶望的な声を出す。気持ちはわかる。〈柱〉が増えたら、危険人物も増えたのだ。
アムリタとは、不老不死薬だ。
「イサ、頼むから市場に出さないでくれるかな。恐ろしい事になるから」
黙り込んだマクシミリアンの代わりに、ツヴァイクがイサに頼んだ。イサがピルグリムと顔を見合わせる。
「あれ? もしかして、アムリタって今は存在しない事になっている?」
「……レニがいないんだから、作る人いないんだよ、イサ」
ピルグリムが囁く。
イサがエンデュミオンにくるりと向き直る。
「エンデュミオンは?」
「エンデュミオンが作れるのは、蘇生薬までだぞ。アムリタはレニしか作り方を知らないから」
「うわあ。イサ危機一髪じゃん。秘密にしておこう」
同じ塔ノ守でも、孝宏より反応が軽い。
「そうしてくれ。それにしても神殿戦争時代はそんなにアムリタを使ったのか?」
「生きていれば、怪我を直して戦場に送り返せるからね。それでも首を切られたら大抵死ぬんだけど」
大抵、と言ったのは、ヴィンフリートの例があるからだろう。恐らくヴィンフリートもアムリタを飲んでいる。そして何故か死ななかった。
「アルフォンスにどこまで話そうか、マクシミリアン」
「アルフォンスの身体の為にも、『偶然見付けた古代の森を街の近くに移植する。王の許可を得ている』だけにしておいてくれるか。〈柱〉が増えた件は仕方がないか」
「解った。よし、じゃあリグハーヴスに行くか」
腰を浮かし掛けたエンデュミオンに、「待って」とイサが止めた。マクシミリアンの顔をじっと見る。
「一寸聞きたいんだけど。今の王朝ってシュヴァルツヴァルト?」
「そうだが」
「じゃあ、騎士ヴィンフリートを忘れるな」
それだけを、イサは言った。そしてエンデュミオンに「いいよー」と笑う。
「じゃあな、マクシミリアン、ツヴァイク」
エンデュミオンはさっさとイサとピルグリムを連れて〈転移〉した。
あとで何か聞かれたら、「シュヴァルツヴァルトの命の恩人だ」と教えるくらいはしてやろう。
よもや千年近く誰にも見付かっていなかった〈聖職者の穴〉です。
イサとピルグリムにとってヴィンフリートは大切な家族なので、一言言いたかったのです。
やらかし行為を被っても大した事がなさそうなエンデュミオンは、つまり何回もやらかしているんだな、という……。




