イシュカとヴァイツェアの街(下)
ルリユール<Langue de chat>は、製本及び痛んだ本の修復を致します。店内には素材の見本の他、製本後の本の見本もございます。本の試し読みも出来ますので、詳しくは店員にお訪ね下さい。
ヴァイツェア観光後編です。
281イシュカとヴァイツェアの街(下)
ヴァイツェアの服飾ギルドの建物は、古式ゆかしい黒森之國様式でいながら、美しく手入れをされていた。建物に絡んだ蔦は青々としているし、窓辺に置かれた花鉢からは赤やオレンジの花が零れそうだ。そして、窓はやはりここでもぴかぴかに磨かれていた。
「立派な店構えだな」
「ヴァイツェアでも老舗なんだ」
建物を見上げたイシュカに答え、フォルクハルトは服飾ギルド兼布屋の扉を開けた。
リリン、とドアの上部に付けられた真鍮製の小さなドアベルが鳴った。ドアベルは釣り鐘型の花の形をしていた。
服飾ギルドの中は、リグハーヴスのギルドと似ていた。入ってすぐのロビーにはカウンターがあって、ギルド職員が用事を聞く場所となっている。買い付けの為の店は、ロビーの奥にあるらしく、矢印のついた案内板が天井から吊るされていた。
服飾ギルドのギルドカードを持っているのはヴァルブルガとヨナタンだが、ヴァイツェアのギルドで仕事を請け負っている訳ではないので、ぞろぞろと店の方へと移動する。
当然ヴァイツェアで顔が知られているフォルクハルトは、ギルド職員や客に会うたびに挨拶をされていた。そしてイシュカ達はフォルクハルトが連れている見慣れない客として、ちらちらと視線を受けていた。
ふん、とエンデュミオンが鼻を鳴らし、フォルクハルトを前肢で招いた。
「フォルクハルト、三十分くらい貸し切りに出来ないか? 落ち着いて見せてやりたいからな」
「それ位なら頼めるぞ」
フォルクハルトはギルド職員に頼み、丁度他に客もいなかった事からすんなりと貸し切りにして貰った。
「ようこそいらっしゃいました。ギルド長のペルニラです」
イシュカ達に挨拶したのは、森林族の女性だった。淡い金髪の髪を三つ編みにして後頭部でまとめていて、薄い菫色の裾の長いワンピースを着ていた。ギルド長になるくらいなので、それなりの年齢だと思うが、見かけはイシュカ達と変わらない。
「イシュカ・ヴァイツェアです」
「これはお初にお目にかかります、緑雨の大君」
ペルニラはイシュカに対し、淑女の礼をとった。ヴァイツェアでの地位では、イシュカの方が上になる。
「今日は俺の家族が布や糸を見せて貰いたくて時間を頂きました」
「どうぞ、ごゆっくりご覧ください」
ペルニラはイシュカ達に微笑んだ。流石商売人である。それぞれが妖精を抱いている一行というのは、これ以上ない程に珍妙だったりするのだが。
「ヴァル、ヨナタン、見たい物があったら近くまで行くぞ」
「うん」
「……」
ヴァルブルガが頷き、ヨナタンがしゅっと右前肢を上げる。
「森蚕の布が見たいの」
「でしたらこちらの棚をどうぞ」
ペルニラに示された棚には、色の濃さは微妙に違うが、光沢のある淡い翡翠色の反物が並んでいた。
孝宏は隣にいたフォルクハルトを見上げた。フォルクハルトはイシュカと同じくらい身長が高いので、孝宏は少し見上げてしまうのだ。フォルクハルトが抱いているフリューゲルが、ふんふんと孝宏の匂いを嗅ぐ。
「森蚕は翡翠色が普通なんですか?」
「そうだよ。ヴァイツェアの森で育てられる森蚕は緑色なんだ」
『天蚕、つまりヤママユガの種類なのかな』
『そうだな。倭之國にも似た種がいる筈だ』
黒森之國語での言い方が解らなくて、孝宏は日本語で呟く。それにエンデュミオンが答えた。
「なんて言ったんだい?」
「倭之國にもいる蚕に似ていると孝宏が言ったんだ」
「多分倭之國には、白い蚕と緑色の蚕がいると思いますよ。輸入しているかもしれませんけど」
「確かに倭之國からは白絹を輸入しているが、良く知っていたね」
『帝の日常着は白い直衣の筈ですから』
「帝が日常的に着る服に白絹が使われるそうだ」
「帝……? 帝って倭之國の王の事だよね? なぜ孝宏が知っているんだ?」
他國の王の普段着など、あまり知り得ない情報だ。
「俺の元いた国の、ずーっと昔の時代の生活様式だからです。あと倭之國には親戚がいまして」
「親戚? でも孝宏は──」
エンデュミオンがニヤリと笑った。
「倭之國にもいるんだ。孝宏を見たら解るだろう」
倭之國特有の容姿をしているだろう、とエンデュミオンは言葉には出さずにフォルクハルトに示した。そして孝宏とフォルクハルト、フリューゲルにしか聞こえない声音で囁く。
「孝宏の親戚は、帝の正妃と英之國の大使だ」
「はあ!? それじゃ向こうには二人?」
「そう言う事だな」
「待て、これ陛下はご存知なのか?」
「ん? どうだったかな」
エンデュミオンは首を傾げた。
「俺の身内の事ですし」
孝宏もなんで國王に知らせるのかと、不思議そうな顔をしている。エンデュミオンはすっかり忘れていたに違いない。
「いや、うん、あとで父上と相談する」
他國の王族の親戚が〈異界渡り〉として國内にいるのである。情報が多すぎる、ではなく、孝宏に何かあったら國際問題になる。國際問題になる前に、エンデュミオンが暴れるだろうが。これをマクシミリアン王が知らずにいるのは非常に拙い。
フォルクハルトはふかふかしているフリューゲルの後頭部に顔を押し付けた。一寸ばかり、癒されたかった。
フォルクハルトが懊悩している傍らで、イシュカはヴァルブルガとヨナタンに付き合い、布地を見ていた。
お針子と織子の二人は真剣な顔で森絹を吟味している。
「森絹は緑なのが素の色なのか。じゃあ砂漠蚕は何色なんだ?」
「砂漠蚕は繭の色が黄色いんだ。だから反物にすると、光沢のある黄色や暁色になる。〈暁の砂漠〉の族長が使うショールは、中でも色の濃い繭を選んで織られたものだよ。黒森之國の蚕の繭は、元々色が付いているから、染めるのなら倭之國の白絹の方が発色が良いんだ」
テオが森絹と砂漠蚕の反物を指差しつつ、イシュカに説明する。
お針子は好みの色の絹が欲しい時は、悉皆屋に注文して白絹を染めて貰うらしい。森絹や砂漠蚕は繭の色の差で、色の濃さの違う布が出来ると言う。
「砂漠蚕は独特の効果があるから、染めの研究がされて、今は結構発色良く染められるようになったんだけどね」
「そうなのか。確かに、ヴァルの上着も綺麗な色に染まっているな」
ヴァルブルガがマリアンに誂えて貰った日除け用の上着は、濁りの無い赤色だ。
くあ、とスリングに入っているシュネーバルが欠伸をした。
「シュネー、眠いなら寝て良いぞ」
「う」
もそもそとシュネーバルがスリングに潜って行く。そっとスリングを捲って確認すると、チョコレート色のコボルトの編みぐるみを抱き枕にして寝る体制に入っていた。ちなみにテオに肩車をして貰っているルッツは、布には興味がないのだが、大人しくしていた。ただし、尻尾がせわしなくぱたぱたと動いている。
「これを頂くの」
ヴァルブルガは選んだ反物を幾つか指差した。砂漠蚕と森絹を数本ずつ選んでいる。ヴァルブルガはマリアンに買い付けを頼まれていた。ヴァイツェアに帰郷出来ないマリアンに、旅行に行くから買い付けして来るとヴァルブルガが請け負ったのである。
リグハーヴスの布問屋にも森絹と砂漠蚕は入って来るが、輸送料が含まれるのでヴァイツェアで買うよりも高いのだ。
「それから最新の布見本も欲しいの」
「それはお客様がお使いに?」
「〈針と紡糸〉のマリアンにあげるの」
大きな緑色の瞳で、ヴァルブルガはじっとペルニラを見詰めた。
「さようでございますか。マリアンはリグハーヴスにいるのですね。腕の良い職人でしたのに、ヴァイツェアを出なければならなくて不憫でしたわ。領主家の方がいらっしゃるのに失礼ですけど」
イシュカは苦笑した。マリアンがヴァイツェアを出たのは数十年前の筈だ。それを最近のように話す森林族の感覚が、やはり長寿種族だ。
「いいえ。ですが当人同士にわだかまりはないんですよ。もうフラウ・マリアンはリュディガーと結婚しましたし」
「そうでしたわね。お幸せになってなによりですわ」
ペルニラは壁に作り付けになっていた引き出しから、正方形に切り取られた布が束になって綴じられた物を次々と取り出した。
「最近は織模様の入った布地も流行りですよ。布の動きで模様が浮かび上がります。それから、最近のコボルト織も面白いですわ。縞模様以外も織られるようになって」
絹織物の半分程の大きさの布見本は、コボルト織だった。
「わうー」
「おっと、危ないよ、ヨナタン」
ヨナタンが目を輝かせて、カチヤの腕から身を乗り出す。
「こちらにどうぞ」
裁断用の大きなテーブルにヴァルブルガの選んだ反物や布見本が置かれる。そのテーブルの端にヨナタンは座って、コボルト織の布見本を手に取った。
ヨナタンは基本的に親しい人以外からは注文を受けないので、マリアンと服飾ギルドにしか布見本を渡していない。その為この布見本は、ハイエルンのコボルト達が織ったコボルト織の布見本だ。伝統的な色糸を沢山使った縞柄の他、小花模様や鳥、動物を織り込んだものがある。
コボルト解放令のあと、強制されなくなったコボルト達が、ヨナタンのコボルト織を知って織り始めたのだろう。コボルトは物々交換の為、ヨナタンがクヌートとクーデルカに蜂蜜などの買い付けを頼む時には、代金代わりに反物を渡しているのである。
尻尾を振って見本帳に見入っているヨナタンに、ペルニラが引き出しからもう一つ見本帳を取り出した。
「コボルト織の見本帳は二つお渡ししましょうか?」
「有難うございます」
カチヤがすかさず礼を言った。コボルト織に関しては、ヨナタンは譲らない。
「わう」
ヨナタンはいそいそと自分の肩掛け鞄に貰った見本帳をしまい、代わりに自分が織ったコボルト織の見本帳をペルニラに差し出した。見本帳の表紙の生成りの布にはヨナタンの名前が刺繍されている。
「ヨナタンが織ったコボルト織の見本帳です。ハイエルンの服飾ギルド以外にはギルドには渡していないやつです」
カチヤがヨナタンの行動を補足する。ヨナタンは必要最低限しか話さないのだ。
「まあ、宜しいんですか? 貴重なものを」
「これ、もらったから」
ぽん、と肩掛け鞄をヨナタンが叩く。
「あ、物々交換……」
見本帳に見本帳を返したので、ヨナタンにとっては同等の交換なのだろう。
ヴァルブルガとヨナタンは、布の他に絹糸や魔石釦も買い付け、会計をして貰った。地味に小金持ちのヴァルブルガが支払いをし、〈時空鞄〉にしまい込む。
「またのお越しをお待ちしております」
「お世話になりました」
ペルニラに見送られ、イシュカ達は服飾ギルドを出た。
「次はどこに行こうか」
「おやつ!」
服飾ギルドを出て元気になったルッツが、テオの肩の上から主張した。テオがルッツの肢を軽く叩く。
「おやつかー。氷菓子でも食べに行く?」
「あいっ」
食べた事があるらしいルッツが元気よく返事をする。
「氷菓子? どんなの?」
「ヒロが夏に氷を削ってシロップ掛けてたけど、あれに似ているよ。果物だけのジュースを凍らせて、それを削ったものだよ。氷魔法使える人が店を開いたんだ」
「ほう」
エンデュミオンが面白そうにニヤリと笑う。エンデュミオンは生活魔法を工夫する魔法使いが結構好きなのだ。
「あれは美味しいな。ヴァイツェアでは年中氷菓子があるんだ。店によって色々違うんだけど」
フォルクハルトも同意する。
「確かにこう暑いとな」
イシュカは掌で太陽の光を遮り、道の先に目を細める。すでに季節は秋になっているのに、リグハーヴスの夏並みの陽射しなのだ。
「俺達が知っている店で良いかな」
テオとルッツがヴァイツェアに来るたびに寄ると言う屋台は、街の噴水広場の一角にあった。ここは街の人の憩いの場らしく、屋台が幾つも出ていて、屋台の近くにはテーブルと椅子が並んでいる。
「立派な噴水だね。この真ん中のって竜? 極東竜に似てる」
孝宏が指差した円形の噴水の中心には、薄い砂色の石で掘られた竜が螺旋を描いて空に顔を向けていた。その背に翼は無い。
「これは砂竜だよ。〈暁の砂漠〉にいる竜。滅多に出てこないし、出てくる時は砂嵐が起きる。だから〈暁の砂漠〉の外に卵が流出しなかったんだけどね」
「へえ。確かに砂の中にいるなら翼は邪魔か……」
テオが吹き出す。
「そんな事いう人初めてだよ、ヒロ」
「えっ、そう? でも竜なら人化出来るんだから、街の中に混ざっていても解らないんじゃない?」
「確かにね。実際のところ人化した砂竜に会ったって言う人は殆どいないんだけどね。〈暁の砂漠〉に伝わってはいるけど」
「説話集には無かった気がするよ」
「〈暁の砂漠〉以外の人は、人化した砂竜に会っていないからだよ」
説話集に記録されているのは、〈暁の砂漠〉以外の黒森之國の民が遭遇した奇跡などである。あれは基本的には昔の聖職者が体験した出来事が主体だ。
〈暁の砂漠〉の民が聖職者になったのは特殊な事情であり、そもそも昔は自治権を認めて貰っていなかったのだから、國民ともみなされていなかった。
「そうなんだあ。〈暁の砂漠〉の記録読んでみたいな」
「孝宏、古いものなら、エンデュミオンのギルド金庫にあった気がするぞ。あとで目録を見てみようか」
「うん」
喋りながら、氷菓子の屋台に到着する。
「わあ、涼しい」
氷菓子の屋台の周りはひんやりと涼しかった。
「ふうん? 氷の精霊に随分気にいられているんだな」
エンデュミオンが周囲に視線をめぐらす。エンデュミオンには氷の精霊が見えるのだろう。
「いらっしゃい」
屋台に居たのは砂色の髪の青年だった。イシュカ達を見て、琥珀色の瞳を細めてにこりと人好きのする笑顔になる。
「氷菓子を十人分お願いします」
「はい、少々お待ち下さいね」
青年は屋台の保冷庫からオレンジ色の塊を取り出し、金属製のボウルの中に入れる。ボウルに同じく金属製の蓋をし、風の精霊へ力を貸してくれるように頼む。するとボウルの中でシャリシャリと氷が削れて行く音が聞こえてきた。
「よし」
音が途絶えるのを待ち、青年が蓋を開けるとボウルの中にはふんわりと削れたオレンジ色の氷が山になっていた。
「わあ、凄い」
木製のマグカップのような形の器にこんもりと氷を盛り、その上にオレンジ色の果肉が混ざったソースを掛け、匙をつけて渡してくれた。
屋台の前のベンチに座り、皆でおやつにする。
「シュネー、おやつだよ」
「う? おやちゅ?」
イシュカがスリングを突くと、シュネーバルが顔を出した。
「シュネー、あーん」
ヴァルブルガが自分の器から氷を匙で掬い、シュネーバルの口に入れてやる。シュネーバルは氷を飲み込み、前肢で頬を押さえた。
「おいちーねー」
気に入ったらしく、シュネーバルは口を開けてヴァルブルガに催促している。一人分は食べきれないシュネーバルは、皆から一口ずつ分けて貰い満足していた。
「あ、これマンゴーだ」
「熟れていて甘いな。うーむ、昔はこんな食べ方をしなかったな」
「テオ、これは南の果物なんですか?」
「そうだね、温かくないとならないかも」
「おいしーねー」
「……」
「フリューゲル、食べないと溶けちゃうよ」
「わっう」
皆でわいわいと喋りながら食べる氷菓子はとても美味しかった。
食べ終わった器と匙は、屋台の脇の水を張った桶に入れるらしい。テオとイシュカが集めた器を戻しに行く。
「ご馳走様でした」
「お気に召していただけたならなによりです」
青年の琥珀色の瞳の中心にある瞳孔が、一瞬だけ縦長に伸びた。目の前の青年の存在感が一気に膨れ上がる。
「暁の息子と、緑雨の息子に〈祝福〉を。小さな幸運にも」
青年がスリングから顔を出していたシュネーバルの頭を撫でる。
「あなたは──」
息を詰まらせながらのテオの問いに、青年はそっと唇に人差し指を当てた。
「産土を離れる汝らに、我からの〈加護〉を」
「──有難うございます」
イシュカとテオは揃って頭を下げた。
真顔になって戻ってきた二人を見たエンデュミオンは、屋台の青年を一瞥した。
「あれは、砂竜だろう?」
イシュカとテオは黙って頷いた。その顔に、知っていたなら教えて欲しいと書いてあったが。
「テオー」
ベンチで待っていたルッツがすぐさまテオによじ登り、ごしごしと頭を擦り付け始める。ヴァルブルガもすっとイシュカに両前肢を差し出して、抱っこを要求した。
例え〈祝福〉や〈加護〉であろうとも、ケットシーは独占欲が強いので嫉妬する。
それぞれのケットシーに匂い付けされる二人の傍らで、フォルクハルトは屋台の青年を凝視していた。
「え、何? 砂竜? なんで屋台やってんの?」
「フォルクハルト落ち着け。きっとやってみたいからやっているだけだから」
フォルクハルトの腕を叩き、エンデュミオンは器を洗い始めた砂色の髪の青年を見やる。
青年は顔を上げ、エンデュミオンにパチリと片目を閉じて見せた。
きっと砂竜としては若い個体なのだろう。テオやイシュカに〈祝福〉を与えたのなら、人にも友好的なので、放っておいても問題はない。
「なあ、父上に報告する事多すぎるんだけど!」
「はっはっは、アルフォンスに比べたら大した事ないぞ」
「笑い事じゃない!」
エンデュミオンにすれば笑い事である。気の良い竜が人化して、街に遊びに来ただけなのだ。エンデュミオンやギルベルトが、アルフォンスに掛けている迷惑の方が遥かに多いだろう。
「わっうー」
フリューゲルがフォルクハルトを慰めるように抱き着いた。
「フォルクハルト、がんばれ」
「頑張るけどね……」
じっとりとした眼差しを向けてくるフォルクハルトを振り切るように、エンデュミオンは話を切り上げる。
「さて、次はどこにいくんだ?」
「ルリユールの見学かなあ。ルッツとヴァルブルガが落ち着いたらだけど」
「そうですね」
ルッツとヴァルブルガにしたいようにさせているテオとイシュカを、孝宏とカチヤが諦め顔で見ていた。
嫉妬深い妖精二人が満足するまで、もう暫くその場から動けなかったのは言うまでもない。
布屋さんでお買い物。
ヴァルブルガもヨナタンも目利きです。マリアンをけなされたら怒る気満々だったヴァルブルガです。
氷菓子屋さんは砂竜でした。他の竜の棲み処と違って命懸けになるので、訪ねて来る人もおらず暇な砂竜さん。
実は人化して、時々オアシスに遊びに行ったりもしていたりします。気付かれていないだけ。
砂竜は現在のところ人族を主にしたりはしていません。
砂竜の守護範囲は〈暁の砂漠〉がメインで、ヴァイツェアも一応含みます。
例え竜の祝福でも、違う匂いが付いたら嫉妬するルッツとヴァルブルガです。
現在『エンデュミオンと猫の舌1』(文庫)を販売中。詳しくは活動報告をご覧ください。
10月末頃まで販売ページを開けている予定です。