ホーンと三頭魔犬
ルリユール<Langue de chat>は、製本及び痛んだ本の修復を致します。店内には素材の見本の他、製本後の本の見本もございます。本の試し読みも出来ますので、詳しくは店員にお訪ね下さい。
三頭魔犬、登場です。
266ホーンと三頭魔犬
(腸詰肉の匂い……)
ふんわりと鼻先に美味しい匂いが漂ってきて、ホーンは目を覚ました。
棒を三本合わせて布を巻き付けたテントの天井を見上げ、ピスピスと鼻を鳴らす。
間違いない、今日の朝御飯には腸詰肉がある。エーリカが買い物をするアロイスの肉屋の腸詰肉はとても美味しいのだ。ここはさっさと起きるべきだろう。
むくりと布団に起き上がり、奥歯が見えるくらい大きなあくびをする。
このテントは布に拡張魔法が付与してあるので、外から見るより広い。布団と私物を入れる〈魔法箱〉が置いてあるだけだが、身体の小さなホーンの私室としては充分だ。
枕元に置いてあった角笛を首に掛け、垂れ布が巻いてある入口からテントの外に出る。
ホーンのテントはエーリカの寝室の一角にある。緑色の丸いラグマットの上にテントが置いてあるので、芝生の上にあるように見える。
ててて、と寝室から居間に出る。
「おはよー、エーリカ」
台所に居るエーリカに声を掛ける。
「おはよう。もうすぐご飯出来るわよ」
「うん。顔洗ってくる」
エーリカの部屋のドアをホーンでも開けられるようにクルトに改造してもらったので、バスルームに入るのは楽々だ。玄関のドア以外は、上下にドアが分かれて開けられるようになっている。
「よいしょ」
角笛を背中に回し、歯を磨いて口をすすいでから、手拭いを濡らして顔と耳を拭う。一度手拭いをすすいで固く絞り、ホーンは角笛を丁寧に拭いた。
生まれた時から一緒にいる角笛は、ホーンの宝物なのだ。ホーンの命が終る頃に、次の角笛の子に託す物なので、一人の物ではないのだが今はホーンの物だ。
「うー」
ブラシで身体の毛をとかす。が、後頭部の毛がぴょんと跳ねているのが直らない。
「エーリカー」
「寝癖かい?」
「直んない」
「おやおや」
バスルームからエーリカの元へ行く。洗い物をしていたエーリカが濡れた手を手拭いで拭ってから、ホーンの後頭部を撫でた。
エーリカは水の魔法と風の魔法を使って寝癖を直すのが上手い。
「ほら、直ったよ」
「有難う」
ホーンは寝室に戻って、箪笥の一番下の段を引き、服を取り出して着替えた。リグハーヴスに来てからヨナタンが織った布で服を作って貰ったので、縞模様ではないコボルト織があって楽しい。
ズボンから尻尾を出して釦を留める。ふるふると尻尾を振ってみるが、〈針と紡糸〉の服はとても着心地がいい。
ぐうーっとホーンのお腹が鳴った。今日も健康だ。
「お腹空いた」
「ご飯だよ」
折よくエーリカがホーンを呼ぶ。
居間のテーブルには朝御飯が並んでいた。ふんわり黄色いオムレツに、ぷりぷりの腸詰肉、若菜とラディッシュのサラダ。桃のヨーグルト和え。ホーンにはミルクが多めのミルクティーパンは薄く切った黒パンだ。
「今日の恵みに。月の女神シルヴァーナに感謝を」
「今日の恵みに!」
食前の祈りを唱え、ホーンはオムレツにフォークを刺す。
「チーズ入ってる!」
オムレツはチーズ入りだった。コボルトは大抵チーズが好物だ。とろりととろけるチーズが入っているオムレツはご馳走だ。
掬ったオムレツを黒パンに乗せて齧りつく。少し甘い卵に塩味のあるチーズに酸味のある黒パン。
「美味しい」
小麦色の巻き尻尾を無意識に振ってしまう。エーリカはホーンの好きなものを良く作ってくれる。ホーンは特に嫌いな食べ物はないので、作ってくれるものは皆美味しく食べるのだが。
「ホーン、今日は陽の日だから、教会に行こうかね」
「うん」
陽の日には教会でミサがある。黒森之國の國民は殆どが、月の女神シルヴァーナを信仰している。
朝食を食べ終え、後片付けを終えてから、ホーンとエーリカはアパートを出た。
「クルトの所に寄ろうかね」
「うん」
早めにアパートを出たので、エーリカの息子家族の住む家に寄る。
クルトの家兼工房の前にあるベンチには、息子のデニスを抱いたクルトと、ホーンと同じ北方コボルトのメテオール、鯖白ケットシーのグラッフェンが座っていた。
「おはよう」
「おはよう。今アンネマリーとエッダが出てくるよ」
女性二人の身支度が済むまで、クルト達はデニスをあやしていたのだろう。歩き始めたデニスは目を離しておけない。今も手を伸ばしてメテオールの耳を触っている。馴れているのか、メテオールは耳をぱたぱた動かして遊んでやっている。
間もなくアンネマリーとエッダが家から出てきたので、皆で教会に歩いていく。
「にゃんにゃーん」
メテオールとホーンはご機嫌に歌うグラッフェンを真ん中にして、前肢を繋いで歩く。グラッフェンの飛び出し防止だ。人通りが多くなってきたら、グラッフェンはエッダに抱っこされるのだが。
リグハーヴスには主憑きの妖精が増えたので、教会のミサにも姿を見るようになった。
教会前広場には、各々に妖精を抱いた〈Langue de chat〉の面々や、主の隣を歩く元王様ケットシーの姿も見える。非番なのか制服を着た騎士団員の姿もちらほらとある。
「おはよう」とクルト達に声を掛けてきたのは、肉屋のアロイスだった。アロイスの妻のユリアが南方コボルトのフラウムヒェンを抱っこしている。
フラウムヒェンはとても臆病な子供だが優しい気質で、エンデュミオンの温室で一緒に遊んでいるのでホーンや他の妖精とも仲が良い。
「フラウムヒェン、おはよ」
「お、はよ」
ユリアの腕の中から、フラウムヒェンが小さな前肢の先を振る。リグハーヴスに来た時よりマシになったが、まだ痩せすぎだとホーンは思う。フラウムヒェンは体力がないのだ。
アロイスとユリア、職人のロータルに可愛がられているので、一年もすればもっと元気になるだろう。
教会の入口にいて信者を迎えていた司祭イージドールとシュヴァルツシルトに挨拶をして、聖堂に入る。街の女神教会はリグハーヴス内で一番大きい造りで、内部も美しい薔薇窓や彫刻が施されている。
空いているベンチにアロイス達と並んで座る。妖精達は主達の膝の上だ。
「あれは何処かの商人かね」とアロイスがクルトに囁くのが聞こえ、エーリカの膝の上に居たホーンは聖堂内に視線を走らせた。
少し離れた所に高価そうな服を着た親子がいた。リグハーヴスで明らかに高価な服を着ているものは限られる。なぜならリグハーヴスは冒険者の街だからだ。
冒険者は教会のミサに来るのに、こざっぱりとした服に着替えてくる礼儀はあっても、そもそも高価な服は殆ど持ち合わせない。
だから、リグハーヴスで領主以外で高価な服を着ていたとしたら、それはほぼ領外の者である。
「あれは……木工ギルドにいた商人かな?」
「そう」
クルトの疑問にメテオールが肯定する。
「ほう?」
続きを促すアロイスに、クルトは小声で言った。
「木工ギルドに賄賂を要求したらしくて、ギルド長に追い出されていたんだ」
「それじゃ、何処の工房でも仕事は受けないんじゃないのか?」
「そうなるな」
木工ギルドで拒絶されたならば、組合員に一斉に要注意人物として精霊便が送られたに違いない。いまだにリグハーヴスにあの商人がいたのは、ギルドに断られたあと工房を一つずつ回っているからかもしれない。
「きゅー」
「どうしたの? フラウムヒェン」
子供のコボルトが不安な時の鳴き方をしたフラウムヒェンを、ユリアが優しく抱き締める。
「震えているな、具合が悪いのか?」
ぷるぷると震え出したフラウムヒェンに、アロイスも顔色を変える。
「どうした?」
前方から投げかけられた声に顔を上げれば、前のベンチにいたらしいエンデュミオンが、孝宏の肩越しに顔を出していた。
「でぃー!」
「しーっ、グラッフェン、教会では大きな声は出さないんだぞ」
大好きな兄の登場に喜ぶグラッフェンに、エンデュミオンは前肢を口元に当てて注意する。慌ててグラッフェンがきゅっと口を閉じた。
「いや、急にフラウムヒェンが震え出したものだから」
「ふうん?」
ちらりとエンデュミオンは商人親子の方を一瞥してから、淡いピンクオレンジ色のショールを〈時空鞄〉から取り出してアロイスに渡した。
「フラウムフェンを包んでやれ。少しは落ち着くだろう」
「有難う」
アロイスとユリアにショールで包まれたフラウムフェンは、目を閉じてユリアの胸にぴたりとくっついた。
ホーンはじっとショールを見詰めた。〈鑑定〉が使えるので、リグハーヴス産の羊樹綿を極細に紡いだ糸のコボルト織で紅花染だと解った。しかも〈鎮静〉効果付きだ。リグハーヴス産の羊樹の布は聞いた事がないので、ヨナタンの試作品だろう。
「ホーン、後で杖を借りるかもしれん」
「うん、いいよ」
ケットシーは杖を使わなくても魔法が使える筈だが、エンデュミオンが使うと言うなら使うのだろう。
主席司祭のベネディクトが説教台に上がり、ミサが始まる。滞りなくミサは進んだ。ベネディクトが祈る時に、天上から銀の光が降り注ぐのは最早恒例なので、街の住人達は有難がっても騒いだりしない。驚いていたのは商人親子位だった。
ホーンもリグハーヴスに聖人が居る事に最初は驚いたが、〈女神の貢ぎ物〉であるイージドールが傍に居たので納得した。〈先見師〉であるホーンは、若いが一般的なコボルトよりも知識が多い。
ミサが終わると、イージドールとシュヴァルツシルトに一人ずつ焼き菓子を貰って聖堂を後にする。蝋紙の袋に入った一口大のシートケーキだが、前より美味しくなったというのが、信者の言である。
ホーンが以前孝宏に貰ったおやつの中に、似た味のシートケーキがあったので、彼が手を貸したのだろう。シナモン風味で刻んだ干し林檎と干し葡萄が入っているのだ。甘い菓子を誰もが買える訳ではないので、昼食後にお茶と共に頂くのを、毎週陽の日の楽しみにしている者も多い。
ぞろぞろと教会前広場から街の中心部へと散って行く住人達の背中を見ながら、エーリカに抱かれたまま移動していたホーンの耳に「〈人形〉がいっぱいだわ!」と言う少女の声が飛び込んで来た。
「前の〈人形〉はコボルトだったけど、今度はケットシーがいいわ!」と両親にねだる少女に、冒険者を含めた住人達の冷めた眼差しが向けられるが、気付いていないらしい。
ハイエルンでコボルトを〈人形〉としている事例がある事は、リグハーヴスの冒険者ギルドと商人ギルドを中心に注意喚起の通達がなされている。妖精の監禁は犯罪である。特に妖精擁護派のリグハーヴス公爵領では重罪である。例えそれが他領の住人であろうとも。
教会前広場に居た騎士団員同士が目配せをするのが見えた。騎士団員の一人が肩に乗せていた翡翠色の木竜が騎士団本部に向かって飛んで行く。
「馬鹿じゃないのか」
「ここリグハーヴスなのにね」
エンデュミオンと孝宏が振り返り、呆れた顔になる。イシュカのスリングから顔を出しているシュネーバルは何も解っていないようだが、抱かれているヴァルブルガが無表情なのが怖い。テオに肩車をして貰っているルッツの尻尾が、ヒュッヒュッと音を立てて何度も振り下ろされている。カチヤに抱かれているヨナタンが、小さく唸った。
「坊や」
リュディガーと一緒に近付いてきたギルベルトが、エンデュミオンににっこりと微笑んだ。思わずホーンは、尻尾を足の間に入れてしまった。元王様ケットシーが怒ると怖い。
「アルフォンスにあとで怒られるのはエンデュミオンなのに……」と文句を言いつつ、エンデュミオンは近くに居たコボルト達に指示を出す。
「全員で遠吠えしろ。あとホーンは角笛に魔力を籠めて吹け」
「ぁぅー」
「あおーん」
「あおーん」
一人が遠吠えするのを合図にして、教会前広場に居たコボルト達が次々と遠吠えしていく。そして遠吠えで呼び出されるように、コボルトの数が増えていく。
「はい、杖」
ホーンはエンデュミオンに魔石の嵌った杖を〈時空鞄〉から取り出して渡した。ホーンの杖は、金色の針が放射状に何本も入った透明な魔石が嵌っている。本来なら他人には貸さないが、エンデュミオンなら構わない。
「助かる。流石に魔法陣の大きさを指定しないと拙いからな。角笛を吹いて良いぞ」
孝宏の腕から下りたエンデュミオンが、石畳の上を軽い足取りで走って行く。
「うん」
いつの間にか教会前広場にはぽっかりと空白が出来ていた。動けるコボルト達が遠吠えをしながら、住人達を移動させていったのだ。
ぱぷー。ぱぷー。
数回いつもと同じ吹き方をした後、吐息に魔力を乗せて角笛を吹く。
パアアアアアァー!
ホーン自体がびっくりするほど大きな音が街中に響き渡った。
アアアアァァァァァ……シャリンシャリンシャリン……。
角笛の余韻の後に、平打ちした金属を束ねてを震わせるような不思議な音が聞こえる。
「来るぞ」
エンデュミオンの声が、やけにはっきりと教会前広場に響いた。
音を立てて冷たい風が吹き付け、雲一つなかった空が俄かに暗雲で覆われる。辺りは日没前のような薄暗さに包まれた。
エンデュミオンが石畳を杖の石突で叩いた。
コーン! と一つ音が鳴る。
「来たれ地下の門番! 今代の角笛の子ホーンが召喚する! 補佐する我が名はエンデュミオン! 大魔法使いを号し、〈柱〉の宿命を負う者なり!」
石突を始点に石畳に銀色の光が走り、魔法陣が描き出される。その魔法陣に向かって、暗雲から雷が落ちた。大きな音と同時に地面が震える。
「わうー!」
「にゃー!」
驚いたコボルトとケットシーの叫びが聞こえるが、人族は叫ぶ余裕すらない。
「うう、眩しい……」と呟く孝宏は、大物かもしれない。
チカチカする視界か戻った時、魔法陣の上には大きな三頭魔犬が鎮座していた。馬車二つ分くらいの大きさがある三頭魔犬に、ホーンはぽかんと口を開けてしまった。
「エーリカ」
ぺちぺちとエーリカの腕を叩き、石畳の上に下ろして貰う。
「大丈夫かい?」
「うん」
ホーンは走ってエンデュミオンの隣に行った。
「エンデュミオン!」
「ホーン、これが三頭魔犬だぞ」
「ほわー」
見上げる大きさの三頭魔犬は、体毛がつやつやとした漆黒で、瞳は中心に行くほど赤いオレンジ色だった。瞳の中心の赤色がチラチラと燃える炎のようだ。首が三つもあるから、身体はがっしりとしていて、四肢も太い。背中には蝙蝠のような羽が付いていた。
─この子が今の角笛の子?
─可愛いー。
─やだーあたし寝癖ついてるー。
三頭魔犬は乙女だった。
─エンデュミオン、暫く見ない間に小さくなったわね。
─ケットシーなのね。可愛いー。
─舐めて良い?
「舐めないでくれ」
舐めようとする頭の一つをエンデュミオンは前肢で押し返す。
「ホーンに喚んで貰ったのは、ハイエルンのコボルト問題があったからなんだ」
─あたし達の可愛いコボルトに?
─なんてこと。
─燃やす?
「燃やさなくても良いとは思うが。ハイエルンでは長らくコボルトに人権が無くてな、苦労しているんだ」
─燃やす?
─燃やす?
─燃やす。
「ハイエルンを燃やされると困るから燃やさないでくれ。領主のコンラートがコボルト解放令を出したんだが、いまだに囚われているコボルトが居るようだ。三頭魔犬にはそういったコボルトを連れて来てほしい。そしてどの家に、誰に監禁されていたのか、印を付けておいてくれ」
─燃やしたいわあ。
─燻らせたいわあ。
─塵にしたいわあ。
「罪を償わせるのは、領主のコンラートの仕事だからな。楽に殺しては駄目だ」
─そうね。
─一寸呪う位よね。
─うふふふ。
ニイと三頭魔犬の瞳が三日月のように細くなる。
「囚われていたコボルトを全員連れて来てくれたら、妖精達と遊んでいいから」
─いいの?
─やーん、頑張るー。
─ひとっ跳びして行って来るわ。
三頭魔犬は身軽に跳び上がると、商人親子の上を通り過ぎざま尻尾の先で叩き、宙を駆けて行った。三頭魔犬が尻尾で触れて行ったのは、商人親子だけだった。
「捕えよ!」
教会前広場に騎士団員が十数人駆けこんで来て、商人親子を拘束する。
「なんだね! 私たちが何をしたと言うんだね!」
喚く商人の前に、白髪の騎士団長マインラートが立った。
「ハイエルンにおいてコボルト監禁の疑いがあります。この件についての逮捕権は、ハイエルン公爵から他領の騎士団にも委任されておりますのでご同行していただきます」
「何かの間違いだ!」
「間違い?」
マインラートが商人の右手を掴み上げた。その手の甲には、三頭魔犬の影絵がべったりと付いていた。商人の妻にも娘にも同じように印が付いている。
「三頭魔犬はエンデュミオンの依頼で、コボルトを監禁していた犯人に印を付けるのでしたね。あなたたち以外に、この場で印を付けられた人はいません。お話を伺ったのち、ハイエルンへ送らせて頂きます」
商人親子が騎士団員に連れられて行くのを見送った後、エンデュミオンは魔法陣を解除した。三頭魔犬を再び送還する時に魔法陣を描けばいい。
暗雲が垂れ込めていた空も、元通り青く晴れ渡り、夏らしい爽やかな風に戻った。
「やれやれ。杖を有難う、ホーン」
「うん。三頭魔犬、戻って来る?」
「ああ。まだ監禁されているコボルトが居ればここに連れて来る。うーん、エンデュミオンの温室で預かればいいか」
ぽしぽしとエンデュミオンが頭を掻く。どこに寝泊まりさせるか考えていなかったらしい。エンデュミオンの温室であれば、毛布があれば快適に眠れるし、ケットシーの里に温泉に入りにも行ける。
野次馬していた住人達が帰って行くが、もう少しここに居なければならないだろう。
「俺一回帰って、お弁当沢山作ってこようかな」
孝宏がなにやら算段し始める。
「手伝うよ。ルッツ、ここにいるよね?」
「あいっ」
「ヴァルも怪我した子がいるかもしれないから居た方が良いか」
「うん」
テオもイシュカも孝宏を手伝いに一度家に戻るようだ。
「あたしたちもスープかなにか作ってこようかね」
「ええ、お義母さん」
「教会の台所を使ってください。道具はありますから」
エーリカとアンネマリーにベネディクトが声を掛ける。
「じゃあ材料持ってくるよ」
「俺も肉を持ってこよう」
アロイスも手を上げた。
「フラウムヒェンのような子が来るんだろう。栄養のある物を食べさせてやらんと。それにさっきの奴は……」
「ハイエルンで裁かれる。きっちりとな」
エンデュミオンがアロイスの膝をぽんと叩いた。
二時間後、背中に十数人のコボルトを乗せた三頭魔犬が教会前広場に降り立った。身体の大きさを自由に変えられるらしく、召喚された時より少し大きくなっていたが、コボルト達を石畳の上に下ろすと、三頭魔犬は馬車一台分位の大きさに小さくなった。
保護されたコボルト達は温かい食事の後、エンデュミオンが呼んで来た、アルフォンスの執事クラウスに身元調査を受けた。年齢は様々だったが、全員が表情に乏しかった。
彼らは暫くの間エンデュミオンの温室で療養する事になり、送還されるのを渋った三頭魔犬もコボルトの看護の間という限定付きで温室に留まるのだった。
乙女な三頭魔犬、姦しい。エンデュミオンと顔見知りですが、一応召喚する権利があるのは角笛の子なので、エンデュミオンは自分では召喚しません(召喚できるけど)。
場所指定しないと、でっかい状態で出てきたりするので、この範囲内ででてきてね、と魔法陣を書いています。
救助されたコボルト達は療養の後、自分の村に戻ったり、主を見付けたりします。




