フォルクハルトとフリューゲル
ルリユール<Langue de chat>は、製本及び痛んだ本の修復を致します。店内には素材の見本の他、製本後の本の見本もございます。本の試し読みも出来ますので、詳しくは店員にお訪ね下さい。
その頃ヴァイツェアでは。
237フォルクハルトとフリューゲル
〈Langue de chat〉では親しい者には遠距離でも貸本をしてくれる。
ヴァイツェアのフォルクハルトには、イシュカがエンデュミオンに頼み定期的に本と孝宏の焼き菓子を送ってくれていた。
今日はその定期便が届いている筈で、フォルクハルトは両親との夕食を済ませて部屋に戻るのが待ち遠しかった。ゆっくりと母親のイングリットがティーカップをソーサーに下ろすのを見届け「お先に失礼します」と立ち上がったフォルクハルトを父親のハルトヴィヒが呼び止めた。
「フォルクハルト、最近裏の菜園には行ったかい?」
「いえ、行っていませんが」
そもそもフォルクハルトはハルトヴィヒの領主の仕事を手伝っている。このところ週の殆どの朝から夕方までフォルクハルトの執務室に居るのだ。
それに母屋の裏手にある菜園は、木立を隔てているので、館からは見通せない。
「裏の畑は母上の菜園でしたよね?」
「そうなんだがな」
ちらりとハルトヴィヒが隣のイングリットを見るが、彼女はつんとした表情を変えなかった。
何を思ったか今年になってイングリットが菜園を始めたのだ。イシュカの母親である側妃エデルガルトが花を育てているから触発されたのかもしれないが、お嬢様育ちのイングリットは飽きっぽい。最近彼女が菜園に出向いている様子はなかった。
「何かあったんですか?」
「いや、裏の菜園を手入れしている者が居るらしいのだが、使用人ではないようなのだ」
「はあ」
つまりイングリットが飽きて放置していた菜園を、誰かが手入れしていると。森の中に建つ領主館だが、不審者に対して反応する仕掛けはそれなりにはある。それが反応しなかったらしい。
恐らく気紛れに菜園に出向いてみたイングリットが気味悪がり、たいした事はなさそうだと判断したハルトヴィヒが、フォルクハルトに調べを振ってきたと言う訳だ。
「解りました。では、明日菜園を朝から見張ってみます」
最近館に籠りきりだったので、外の空気も吸いたい。これ幸いとフォルクハルトは話を切り上げ、食堂から退散した。
翌日フォルクハルトは〈魔法鞄〉に軽食と飲み物と本を入れ、畑が見える木立の一つに登った。森林族の子供なら木登りは大抵習得済みだ。
フォルクハルトは収まりの良い場所を見付けて腰を下ろし、眼下の菜園を見下ろした。
昨夜の内に、水だけはやりに来ていた使用人に話を聞いたが、彼が来る頃には畑の手入れは済まされ、水も撒かれ、食べ頃の野菜や果物が、籠に入って道具箱の上に置かれているらしい。籠は上げ蓋式の道具箱に入っていた籠だった。
太陽が出る前から見張っていたフォルクハルトは、うっすらと辺りが明るくなってきた頃、菜園に近付いてくる葉擦れの音に気が付いた。
(来たか)
カサカサと繁みを揺らして森から出てきたのは、黒褐色の南方コボルトだった。
(コボルト!?)
ヴァイツェアにコボルトは棲息していない筈だ。
(そういえばイシュカの手紙に、リグハーヴスにハイエルンからコボルトが来てるって書いてあったな)
本や菓子と共に手紙をやり取りしている兄弟である。ちなみに文通している事をハルトヴィヒには言っていない。何となく。
コボルトは菜園の雑草を抜き、道具箱から取り出した籠に食べ頃の野菜や果物を採集し、水の精霊魔法で畑に水を撒いた。
それから〈時空鞄〉から取り出した鍋に収穫した野菜や果物を少し取り、裏の白い巻き尻尾を振りながら森の中に戻っていく。
(いつの間に住み着いたんだろうな……)
そろそろと木から下り、フォルクハルトはコボルトを追い掛けた。コボルトは気の良い妖精で害はないが、他に仲間が居るのかどうか確かめなければならない。本来ハイエルンの固有種なので、他領に出てくるのが珍しい筈なのだ。
そっとコボルトを追い掛けて行くと、大体行きそうな場所に見当がついた。森の中に木立が開けた小さな広場があるのだ。あそこなら夜営が出来る。子供の頃のフォルクハルトの秘密基地だった場所だ。
果たしてフォルクハルトの予想通り、コボルトは広場に入っていった。
広場には木の棒を数本まとめて上部一ヶ所で束ねて広げた物に、刺繍の入った防水布を巻き付けたテントが建っていた。テントは一人用の大きさで、コボルトが単独で行動しているのだと解る。
フォルクハルトは繁みの陰からコボルトを窺った。
「んんー」
鼻歌を歌いながら、コボルトは水の精霊に頼んで鍋の野菜と果物を洗い、果物は別の木鉢に分ける。
石を数個組んだ簡易竈に乗せた鍋に、トマトやズッキーニ等の野菜と腸詰肉をまな板も使わずナイフで刻み入れ、固形スープとハーブをぽいぽいと放り込み水を注ぐ。
〈時空鞄〉から取り出した黒パンは、旅用なのか少し固い物らしく、「うーうー」と頑張ってナイフで切っていた。
調理用の大振りの匙で鍋をかき混ぜ蓋をして、煮込み始める。コボルトはとても器用だった。
(さて、どうしようかな)
コボルトは無害なので居て構わないのだが、一応ハイエルンには報告しなければならないだろう。
(それに……)
フォルクハルトは灰色の曇り空にうっすらと隠れている太陽を見上げた。これから天気は崩れてくるだろう。時折ヴァイツェアでは、短時間に叩き付けるような激しい雨が降る。恵みの雨でもあるのだが、あのコボルトのテントでは心許ない。
(どうやって声を掛けるべきか)
うーんと悩んでいると、コボルトが鍋から離れてとてとてとフォルクハルトの近くにやって来た。フォルクハルトを見上げてにぱっと笑う。
「おはよー」
「……おはよう」
どうやらフォルクハルトが居るのに気付いていたらしい。耳や鼻は獣型妖精の方が機能が高い。
ばれていたのなら仕方がないので、フォルクハルトも広場に入る。
「スープたべる?」
「君の分が足りなくならないか?」
「だいじょぶ」
話し方からして、まだ若いコボルトのようだ。
フォルクハルトは〈魔法鞄〉から防水布を取り出して朝露で濡れた下草の上に敷いた。
布巾で包んだ白パンに柔らかいチーズを塗り、葉野菜と薄く切ったサラミを挟んだサンドウィッチと、お茶の入った魔法瓶を取り出す。
「はい、どうぞ」
コボルトが木の椀に刻み野菜がたっぷり入ったスープを注いでフォルクハルトに木匙と一緒に差し出した。
「有難う。こっちに座ったらどうだ?」
「わう」
コボルトもスープの椀と木匙を持って、防水布に座る。
「パンあるけど、かたいやつ」
「旅用のは水分を減らすからだな。良かったらこれ食べな」
フォルクハルトが勧めたサンドウィッチを掴み、コボルトは「やわかい!」と嬉しそうに齧りついた。
「うまー」
フォルクハルトが作ったサンドウィッチなのだが、お気に召したようだ。
コボルトのスープも、トマトの酸味のある味だったが美味しかった。
おやつに孝宏のクッキーと魔法瓶のお茶を分けると、これまたとても美味しそうにコボルトは食べた。
「ハイエルンから来たのか?」
「わう。そとにでられるようになったから、あそびにきた」
「ここ、うちの裏庭だって気付いてた?」
「もりだよ?」
「解り難いんだけど、あの荒れた菜園の木立の向こうに建物があるんだよ」
ヴァイツェアの植物は育ちが良いのである。樹木も北国に比べて遥かに大きい。
「だれもそだててないのかとおもった」
「うちの母親が飽きてたみたいだから、手入れしてくれて有難いよ。君が食べても問題ないし」
コボルト一人が食べる量などたかが知れている。
「それから、もう少ししたら雨が降ると思うから、うちに来る? ヴァイツェアは強い雨が降るんだよ」
「いいの?」
「良いよ。俺の兄もコボルトやケットシーと暮らしているから、慣れていると言えば慣れているし」
「へえー、みなみの? きたの?」
「兄のところのは北方コボルト。だけど、リグハーヴスには両方棲み着いたって聞いてる」
話しながら、フォルクハルトとコボルトは食器や鍋を洗って片付けた。テントも解体してコボルトの〈時空鞄〉の中にしまい込む。
そうこうしているうちにも、空はどんよりと黒ずんできていた。冷たい風が吹き付けてくる。こうなると間もなく雨が降る。
「急ぐから抱っこするよ」
「わう」
コボルトを抱き上げ、フォルクハルトは急ぎ足で館へと戻った。道具箱の上にあった収穫物入りの籠も回収し、裏口から館の中に飛び込んで直ぐに、雨粒が落ちてくる音が聞こえてきた。
「間一髪」
「かんいっぱつ」
コボルトとフォルクハルトは顔を見合わせ、笑ってしまった。
「まあ、若様濡れませんでしたか?」
自分の部屋に戻ろうとしたフォルクハルトに、声を掛けてきたのは乳母のマティルデだった。痩せている者が多い森林族の中ではふっくらとした印象のマティルデは、飽きっぽいイングリットに代わってフォルクハルトの面倒を見てくれた恩人である。
「大丈夫だ、マティルデ」
「おはよー」
フォルクハルトの腕の中から、コボルトがマティルデに右前肢を挙げた。
「おはようございます。若様、この子はどうなさったんですか?」
「裏の菜園の手入れをしていたのはこの子だったんだ」
「まあそうだったんですか。コボルトなら不審者避けの術も反応しませんねえ」
害意がないので、反応しないのだ。
「少し冷えたから風呂に入ってくるよ」
「そうなさいまし」
「これ今日の収穫。この子が採ってくれたやつ」
「美味しそうだこと。お台所に届けますわ」
マティルデは籠を抱えて台所へ行った。フォルクハルトはコボルトと自分の部屋へと向かう。
まだ朝早いので、使用人の気配しかしない。フォルクハルトは領主家族が住む棟にある自室へ入った。
森林族は大木に家を作っていたりもするのだが、領主館は比較的普通の建築物である。但し長寿の為一族が多く、渡り廊下で枝割れした棟や離れが幾つもある。
他種族と合わせて一定期間で領主は交代になるので、隠居生活が長いのだ。ハルトヴィヒの父親、つまりフォルクハルトの祖父母も健在である。
森林族はあまり森から出たがらないため、森の中で目立たないもののヴァイツェアの人口は街より森の集落の方が多い。
ハルトヴィヒはイシュカの生存を確認した後、フォルクハルトと同じ棟にイシュカの部屋を作った。が、今のところ部屋の主に一度も使われていないので、リグハーヴスの雪が溶けたらこちらに遊びに来ないかと誘うつもりだ。
「コボルトも風呂に入るか? あー、名前はあるのか? 俺の名前はフォルクハルトだ」
「やくそうやのさんばんめのむすこ」
「それ通り名だよな?」
バスルームに入って服を脱ぐ。床に立つコボルトも自分でシャツとズボンを脱いだ。畑の手入れをしているから少し土が付いている。
コボルトを抱き上げてバスタブに一緒に入り、温かなシャワーを浴びる。
「あわわ、あわわー」
石鹸で泡を立てて遊ぶコボルトと自分の身体を洗い、シャワーで流してからバスタブにお湯を溜める。水の精霊に頼んだので、あっという間にバスタブにお湯が満たされる。
「オイル何にしようかな」
「カモミールがいいな」
「カモミールね」
手を伸ばせば届く棚にあった黄緑色のオイルが入った小瓶を取り、バスタブのお湯に少し垂らす。
ふわりと林檎のような香りがバスルームに広がった。
「いいかおりー」
バスタブの縁を掴んで、ぷかぷか浮いているコボルトの背中には、白い毛で翼のような模様があった。全身が黒褐色と言う訳でもないらしい。この個体は四肢の先と鼻先も白っぽい。
「フリューゲル」
「なあにー?」
「背中に翼があるんだなと思って」
「フリューゲルがうまれたときからあるもよう」
「そっか」
じっくり温まってから、浴布で身体をざっと拭いて、自分の髪とコボルトの毛を風の精霊に頼んで乾かす。
「ふぁあ……」
早起きしたので眠い。フォルクハルトはパジャマ代わりの裾の長いシャツに袖を通し、ベッドに上がった。勿論コボルトも一緒だ。
「寝るか」
「ねる」
敷布の間に潜り込み、毛布を肩まで引き上げる。朝御飯も食べているので、お腹も満たされている。
コボルトもフォルクハルトの隣に潜り込んできた。
「ふかふかー」
野宿が続いていたのか、嬉しそうに身体を敷布に擦り付けている。満足するまで身体を擦り付けてから、フォルクハルトにぴたりとくっついた。柔らかな毛に包まれたお腹が、もこもこと腕に当たる。
ピスーピスーと、コボルトが鼻息を鳴らしながら熟睡するのは早かった。野宿では深い眠りは中々取れなかったのだろう。
(ヨナタン位かな?)
話し方や顔の幼さから、大体の年齢を予想する。親離れをするのが妖精は早い。しかし主にはとても甘えるのだと、フォルクハルトは知っている。
「おやすみ」
鼻先をくすぐるコボルトの耳の先は、一緒にバスオイルを使ったのでフォルクハルトと同じ匂いがする。
用事があるなら誰かが起こしに来るだろうと、フォルクハルトは朝寝を決め込んだ。
「若様、若様」
「マティルデ……?」
肩を揺すられ、フォルクハルトは目を覚ました。
「もうお昼になりますよ! 起きないと夜眠れなくなりますからね!」
「子供じゃないんだから……」
ぼやきながらフォルクハルトは起き上がった。
「わうー?」
隣でむくりとコボルトも起き上がる。後頭部の毛が少し跳ねている。
「若様、お召し物を洗っておきましたよ」
「有難う」
バスルームに置いたまま洗うのを忘れていた。
きちんと畳まれたフォルクハルトとコボルトの洗濯物を、マティルデがベッドの足元に置いていく。
「コボルトの服は若様がお小さい時を思い出しますね」
うふふ、と笑いながらマティルデがコボルトの跳ねた毛を撫で付けてやっている。確かに幼児の大きさだ。
「御前様に若様がコボルトをお連れしたとお伝えしましたので、そわそわなさっていますよ。執務室でお待ちです」
「そう……」
ハルトヴィヒ自ら起こしに来なかっただけ良かった。
フォルクハルトは顔を洗って髪をとかし着替えた。その間にコボルトも服を着る。
「父上のところに行こうか」
「わう」
ゆっくり歩くフォルクハルトの隣を、カチカチ爪音を立てながらコボルトが歩く。階段はフォルクハルトが抱いて下りた。
「父上、フォルクハルトです」
執務室のドアをノックする。一呼吸おいて「どうぞ」とハルトヴィヒの返事があった。
ドアを開けると、ハルトヴィヒが執務机の椅子から立ち上がった。フォルクハルトと足元のコボルトに視線が上下に動く。ハルトヴィヒはコボルトに笑い掛けた。
「こんにちは、私はハルトヴィヒ・ヴァイツェアだよ」
「フリューゲル!」
ハルトヴィヒにコボルトはしゅっと右前肢を挙げた。
「ん?」
フォルクハルトは首を傾げてしまった。先程このコボルトは「薬草屋の三番目の息子」と名乗った筈だ。思わず問い直す。
「フリューゲル?」
「フォルクハルトがフリューゲルってつけたからフリューゲル」
「んん? 俺が名前着けちゃって良かったのか?」
「わう」
ぴとっとフリューゲルがフォルクハルトの脚に抱き付いた。可愛いので頭を撫でてやる。
その姿にハルトヴィヒが吹き出した。
「フォルクハルト、お前にその子が憑いたんだよ」
「ええ!?」
そんなに簡単に憑くとは思わなかったフォルクハルトは驚いてしまった。
「ハイエルンに報告が必要だな。フリューゲルは魔法使いかい? 職人かい?」
「フリューゲル、まほうすこしつかう。でもはたけしごとしたり、ごはんつくったりするのがすき」
「そうかい」
にこにことハルトヴィヒは微笑んで、フリューゲルの頭を撫でた。
「家事コボルトだね。フォルクハルトの補佐をしてくれるだろう。まだ子供みたいだから、好きにさせておくと良い」
「はい」
そもそも妖精は自由なので、結構好きなように行動するものである。
「フリューゲルが憑いたってイシュカに手紙を書かないとな」
「イシュカ? だれ?」
「俺の兄さんだよ。そのうち会えるよ」
「わう!」
ぴょん、とフリューゲルが跳ねて両前肢を挙げる。可愛い。
「フリューゲル、お昼だけどお腹空いたか?」
「ちょっと」
「じゃあ軽いの用意してもらおうか」
「かるいの!」
フリューゲルを抱き上げ、ハルトヴィヒを見たフォルクハルトはぎょっとした。じとりとした眼差しでハルトヴィヒがフォルクハルトを見ていたからだ。
「何ですか?」
「お前達は手紙をやり取りしているのかい?」
「してますよ、近況とか」
「ずるい! 父さんは我慢してたのに! 急に現れた父親から頻繁に手紙が来たら邪魔かなって遠慮してたのに!」
「いや、手紙を出したければ、出せば良いじゃないですか」
イシュカなら嫌がったりせずに受け取るだろうに。こうなると思ったから文通を黙っていたのだ。
「私も今晩から書くぞ!」
「……そうして下さい」
執務机にあった書類を脇に寄せ、引き出しから手紙用の紙と封筒を取り出したハルトヴィヒを置いて、フォルクハルトはそっと部屋から退出した。
側妃エデルガルト似のイシュカを、ハルトヴィヒは可愛がりたいのだ。しかしイシュカは既に成人している。今更甘やかす事も出来ずに、歯がゆい思いをしているのだ。
だから、手紙くらい書けば良いのだ。真面目なイシュカなら、きちんと返事を書いてくれる筈だ。
「フリューゲル、お昼ご飯食べたら、館の中を案内してあげるよ。敷地内なら何処に行っても大丈夫だけど、メダル作らないとな」
コボルトは元々服を着て生活しているので、主が憑いた場合はギルドカードやメダルを持たせるのだ。
「きらきら?」
「魔銀で作るからきらきらだね」
「わうっ」
嬉しげに吠え、フリューゲルはフォルクハルトの肩に額を擦り付けた。
「ヴァイツェアの街にも行ってみような。ハイエルンとは景色が違うと思うぞ」
「たのしみー」
フリューゲルの尻尾が揺れて、フォルクハルトの身体にパタパタと当たる。
無邪気に喜ぶフリューゲルに、弟が居たらこんな感じなのかなと思ってしまう。イシュカもヴァルブルガにこんな感覚を覚えているのだろうか。
「あ、ハイエルンにも手紙書かなきゃいけないんだった。冒険者ギルドで良いかな」
ハイエルンからコボルトが移住した場合は、報告しなければならないのだ。フリューゲルは男の子だし、次期領主のフォルクハルトに憑いたので、返還を求められる事はないだろうが。
「フリューゲルもお手紙書くか?」
「かくー。でもまだペンうまくつかえないの」
「鉛筆でも良いよ。色鉛筆もあるよ」
「おえかきしていい?」
「いいぞー」
フォルクハルトがコボルト移住連絡書に添付したフリューゲルの絵手紙の『はたけでいちごしゅうかくした。フォルクハルトとたべた。おいしかった』『フォルクハルトとまちにいった。みんなやさしい。かくれなくてもいい。たのしい』に、ハイエルンのギルド員が涙する事になるのだが──当人は楽しくお絵かきしただけだったのは知られていない。
山や森伝いにハイエルンから移動して来たフリューゲルです。
解放令が出て出歩いても大丈夫になったので、リグハーヴスやヴァイツェアに遊びに出るコボルトが増えました。フィッツェンドルフはまだ安定していないので避けてます。
妖精はルッツ位の年齢が一番自由に動きます。
ルッツ、ベルン、フリューゲルが揃うと結構大変かも。自由過ぎて。
ハルトヴィヒは息子たちが文通しているのを知りませんでした。
仲良しで良いと思いつつ、自分も手紙書きたかった模様です。エデルガルトは普通にイシュカに手紙出してます。