テオとルッツとチョコレートバーク
ルリユール<Langue de chat>は、製本及び痛んだ本の修復を致します。店内には素材の見本の他、製本後の本の見本もございます。本の試し読みも出来ますので、詳しくは店員にお訪ね下さい。
テオとルッツと冬のお仕事。
233テオとルッツとチョコレートバーク
冬の配達は命懸けだ。
何しろリグハーヴスとハイエルンは雪が深いし、時々猛吹雪に襲われる。だから、冬にはリグハーヴスやハイエルンの配達を断る配達人もいる。
テオとルッツの軽量配達屋は、地下迷宮の中以外は何処へでも配達に行く。今のところ王宮や大聖堂、聖都の聖堂へは頼まれた事はないのだが、地下迷宮の管理小屋や〈暁の砂漠〉のオアシスへの配達を依頼される事はある。
〈暁の砂漠〉に関しては、テオが軽量配達人をしていると実家にバレてからは、時々配達を兼ねて養父のロルツィングに呼ばれていたりする。
ギルドを通して荷物を受け取る時もあるが、依頼人の家に荷物を貰いに行く事もある。
今日の配達は足を痛めた軽量配達人仲間からの依頼だった。彼のお得意様宛の荷物を代理で配達してくれと頼まれたのだ。
「こんな時季に悪いんだがなあ、あっちも辺鄙なところに住んでいて、頼まれているのが食料品なんだよ」
包帯が分厚く巻かれた足を擦りながら、テオより歳上の配達人が木箱に手を置く。傷が痛むのか顔色が悪い。屋根の雪下ろしをしていて、梯子から落ちたらしい。
「住んでいる場所はここなんだが、行けるか?」
「リグハーヴスとハイエルンの間ですか。ここって、谷間じゃありませんか?」
手渡された手書きの簡略地図と相手先の名前を見て、テオはルッツと顔を見合わせた。
「ああ、谷間の鍛治師だ。人狼のな。崖の通路を行かなきゃならんから、慣れた者かそれこそ妖精憑きしか行けんよ。それでお前さんに頼みたいんだ」
「ルッツ、いけるよー」
テオの足元に居たルッツが両前肢を挙げる。
「だそうですので、引き受けますよ」
「助かるよ。あの辺りは天候の分かれ目があるから無理せんでくれな。丁度その辺りに避難小屋があるから、空が荒れてきたら小屋でやり過ごした方が良いぞ」
「解りました」
テオは依頼書と地図を腰に着けた鞄に入れた。
「えい」
ルッツは〈時空鞄〉に木箱をしまい込んだ。
「ケットシーは〈時空鞄〉持ちか!」
「ええ」
驚く男に、テオは笑ってルッツのオレンジ色の錆が入った頭を撫でる。実はテオも〈時空鞄〉を使えるが、公にはしていない。聖属性以外の属性を全て使えるというのは、かなり珍しいのだ。〈暁の旅団〉だとちらほらいるのだが、一般的な人族には余り居ない。
「あし、いたいのなおす?」
ルッツがくりくりとした琥珀色の大きな目で見上げて来た。
「ルッツが足の痛みを取れるみたいですけど、どうします?」
「〈治癒〉も出来るのか! 痛み止めも効かなくて眠れなくてなあ。痛みだけでも取れないかな?」
「あいっ」
ルッツは男の包帯だらけの足に肉球を当てた。ぽわっと緑色の光が強く光る。結構重症だ。
「おれてたよー」
「はあ、楽になった。折れてりゃ痛い訳だな」
「もしかして魔女に診せてないんですか?」
「この村に魔女は居ないんだよ」
ちなみにここは、リグハーヴスの囲壁の外にある村の一つである。
「リグハーヴスの街にケットシーの魔女が居ますから、〈Langue de chat〉宛に精霊便を出せば往診にきてくれますよ」
「そうなのか……。覚えておくよ」
「あのね、はれてるのなおるまで、おしごとおやすみしてね」
ルッツが男の足を肉球でなでなでする。
「〈治癒〉しても折れた場所は脆くなっていますから、暫く無理しないで下さい。痛みが出たら魔女のヴァルブルガに往診依頼を。これを渡しておきますね」
テオは〈Langue de chat〉のショップカードを男に渡す。
「あと気持ちが落ち着く香草茶を置いていきますから、眠る前に飲むと良いですよ」
「何から何まで悪いなあ」
「困った時にはお互い様ですよ。配達が終わったらまた顔を出します」
テオはルッツから〈薬草と飴玉〉で買った香草茶が入った紙袋を受け取ってテーブルに置き、男の家を辞した。
「俺達の配達地域とは正反対だな」
「あいー」
テオとルッツは、リグハーヴスとハイエルンの境にある谷側には、お得意様が居ないのだ。どちらかと言えばもっと民家のある地域が多い。
この谷には鍛治に使える素材があるか、特殊な鍛治をしているかのどちらかだろう。もしくは先祖がそこに入植しただけと言う可能性もあるが。
「ハイエルンとの境まで〈転移〉して、そこから歩きかな。どちらにせよ、避難小屋に一泊だな」
行った事がある場所なら兎も角、初めての場所では油断しない方が良い。普段なら馬を使うが、ただでさえ遅れている配達なので、行った事があるリグハーヴスとハイエルンの境までは一気に進めてしまう。
「よし、行こうか」
「あいっ」
テオはルッツを抱き上げ、〈転移〉して貰った。
ハイエルンの街は背後に雪を被った高い山が見える、リグハーヴスよりも大きいものだ。
山から切り出した石で作られた建物も多く、どっしりとした印象がある。
特産は鉱山があるので鍛治であり、山の麓には鍛治師が集まる集落がある。
そしてリグハーヴスと同じく〈黒き森〉を有し、森には人狼と妖精犬が太古から棲んでいる。故に〈黒き森〉地域に関しては、人狼に先住権がある。
先だってのコボルト解放令の中で、ハイエルン公爵は〈黒き森〉地域における人狼の自治を一部認め、コボルト達の保護を託している。
そんなハイエルンの石造りの囲壁に囲まれた街から離れた、とある林の中をテオ達は歩いていた。
「おっと、結構埋まるな……」
「あいー」
雪が降ったばかりらしく、膝までのブーツを履いているテオの足跡しか雪に残っていないが、木が切り払われているので道なのは間違いない。両脇に立つ木の枝に鮮やかな赤い布が所々結びつけられているのも、道である印だ。
ルッツを肩車しているので後頭部は温かいが、段々と気温が下がってきたのを感じる。
「ルッツ、これからの天気どう? 変わりそう?」
「もうすぐふぶきになるよ」
「ありゃ。避難小屋近くにあるかな」
ルッツの天気予報は外れないので、早めに安全地帯に辿り着きたい。
ズボズボと雪に足跡を付けながら歩く。
ハイエルンとリグハーヴスの境といっても結構範囲が広いのだ。谷に出るには林の中を抜ける道を進むのが迷わない順路だ。
「あの小屋かな」
葉が落ちた枝の間から、三角屋根の小屋が見えた。煙突から煙が上がっていないので、誰も居なさそうだ。
そもそもテオの前に足跡がないので、当然とも言える。
配達人仲間が書いた地図を照らし合わせると、半分位の距離は来ているだろう。配達人は地図作成能力とある程度の戦闘能力、道に迷わないと言う特性がないと出来ない仕事だ。
小屋の近くに立つと、窓から見える室内は薄暗く、やはり無人だと解る。こういった避難小屋では、人がいる場合は窓辺にランプを置く事が多いのだ。
テオは足で戸口の前の雪を掻き分け、ドアを押し開いた。誰でも使える小屋のため、鍵は掛かっていない。
「数日は誰も使ってなさそうだな」
料理の残り香もしない上、室内の空気も冷えきっている。それでも室内は清潔で、定期的に近くの村から管理人が来て掃除はしているようだ。
テオは壁際のベッドの一つに毛布を敷き、寝袋を広げた。〈時空鞄〉持ちはあれこれと荷物を持てるのが良い。
「寒いからルッツはここにいて」
「あい」
寝袋にルッツを入れて上からも毛布で包む。ルッツは行火を持っているので、寒くはないだろう。
テオはまず暖炉の分厚い灰の中から、熱鉱石を掘り出して空気に触れさせた。直ぐに黒っぽかった熱鉱石が赤々と色を変えていく。
石造りの流し台にある水瓶は空っぽだったので、手っ取り早く水の精霊に頼んで水を満たした。
小屋の中にあるドアはバスルームへのドアだろう。夏でもなければ、寒くてトイレ以外の用途には使えないが。避難小屋は基本一部屋なのだ。居間兼食堂兼寝室といったところだ。適度に狭くなければ、すぐに暖まらない。
テオは手を洗い、流し台の上に張った紐に干してあった布巾を濡らして絞り、簡素なテーブルを拭いた。
それから〈時空鞄〉から携帯用の鍋とスープの材料を取り出した。
鍋の中に乾燥野菜と削った干し肉、固形スープと水を入れ、暖炉の熱鉱石の上に置かれた長方形に格子組みされた鉄製の五徳の上に載せる。
暫くして湯が沸き固形スープが溶け出すと、小屋の中にコンソメの香りが漂う。
テオは〈時空鞄〉から小型の鋳物製浅鍋も取り出し、そこにハムとチーズが挟んであるサンドウィッチを二切れ載せて五徳の端で温めた。
その頃には小屋の中も少し暖かくなっていた。
携帯用の木製マグカップにスープを注ぎ、木匙を突っ込んでテーブルに置く。これは少し冷ましてルッツ用だ。
テーブルの近くから三本足の椅子を二つ暖炉の側に運ぶ。丁度良い高さの横長の台があったので、それを簡易テーブル代わりに使う事にした。
冷ましていたルッツのマグカップと、熱いスープを注いだテオのマグカップ。携帯用の皿に入れたサンドイッチを台に置く。
「ルッツ、ご飯にしよう。寒くない?」
「へいき。でもおなかすいた」
寒い中行動するので、食事はしっかり食べなければならない。時々ナッツや孝宏が作って持たせてくれたシリアルバーを食べてはいたが、雪の中を歩けば腹も減る。
ルッツを毛布の中から出して、椅子に座らせる。テオも隣の椅子に座り食前の祈りを唱える。
「今日の恵みに。月の女神シルヴァーナに感謝を」
「きょうのめぐみに!」
膝の上にマグカップを置き、木匙でスープを掬って口に入れたルッツの尻尾がぴんと立つ。
「おいしーねー」
「うん、美味しいね」
テオにしてみれば、美味しいと食べるルッツの姿がおかずのようなものだ。好き嫌いがはっきりしているが、大抵の物は美味しそうに食べる。
ルッツの膝の上はマグカップでいっぱいなので、時々テオがサンドウィッチを口元まで運んでやる。サンドイッチは、孝宏が温めても美味しい具材を選んで挟んでくれたものだ。
カタカタと風が窓に当たり始めた。
「吹雪いて来たか」
霜が白く張り付く窓から外を見ると、梢の上に見える雪混じりの灰色空も夜に向かっていた。そろそろ陽が落ちるし、これから一気に暗くなるだろう。
テオは小屋に備え付けのランプの光鉱石を点し、窓台に置いた。幾つかランプがあったので、一つはテーブル代わりに使っている台の上に置く。
食事のあとマグカップを洗い、一瓶持ってきていた牛乳を温めて注ぎルッツに渡す。
「チョコレート入れる?」
「チョコ!」
嬉しそうにマグカップを出してきたので、孝宏に渡されていたチョコレートバークを更に割って入れてやる。ナッツ等は匙で掬えばいい。
「ぐるぐるー」
木匙で牛乳を混ぜ、チョコレートを溶かすルッツの隣で、テオもチョコレートバークの欠片を口に入れる。少し苦くて甘いチョコレートの上にナッツや干し果物を刻んだものが載せてある。
孝宏曰く、『雪山にはチョコレート』らしい。彼のお陰で、テオの行動食は種類が豊富だ。
食後は食器等を洗い、歯を磨き、暖炉の前でルッツを膝に乗せて本を読んだ。その内、ルッツがうとうとしだしたので、外套を脱がせて先に寝袋に寝かせる。
時間にしてはまだ夜の始まりだが、子供のケットシーは良く眠るので問題ない。
テオはまだ眠くなかったので、白湯を飲みながら暖炉の前で本の続きを読んだ。ルッツに音読する前の予習だ。
(誰か来たか)
薪と違って殆ど爆ぜる事のない熱鉱石なので、ルッツの寝息が聞こえる静かな小屋の中に、雪を踏みしめる音が聞こえた。
控え目なノックの後、ドアが開いて雪まみれの男が一人入ってきた。中年の平原族で、暫く髭を剃っていないのか、濃い色の無精髭を生やしている。
「……相小屋良いか?」
「構わない。そちらのベッドをどうぞ」
男は毛布や寝袋が広げられたベッドを一瞥し、反対側の壁際にある板が剥き出しのベッドへ向かった。小屋のベッドにはマットレスはついていないのだ。
既に小屋の中は充分暖まっていたので、男は外套を脱いで雪を払った。
背負っていた背嚢から、紙袋と金属製のマグカップを取り出し、暖炉に近付いてくる。
携帯用の食器は加熱出来るように金属製の物も多い。テオが木製の食器も持っているのは、ルッツの為である。金属製の食器を膝に置かせたら火傷をしてしまうので、大工のクルトに頼んで使いやすい大きさの物を作って貰ったのだ。
「白湯ならあるけど」
五徳の端に、テオはお湯の鍋を一つ残していた。飲用と部屋の乾燥予防の為だ。
基本的に食料は各自で用意するのが、旅人の常識である。勿論、余裕があれば困っている人には分けるのだが。
「頂くよ」
テオは男のマグカップに白湯を注いでやった。
こういった場合にはテオは丁寧な言葉遣いはしない。相手がどんな人物なのか解らないので、立場をはっきりさせない為だ。例え相手が上位の者だとしても許容される行為である。
実のところ、テオは〈暁の旅団〉の成人した第一位継承者であるので、族長に次ぐ立場と見做されるのだが、普段は忘れる事にしている。
男は紙袋から干し肉と硬パンを取り出して食べ始めた。硬パンは旅行用に日持ちさせるため、水分量を減らして焼きしめたパンだ。〈時空鞄〉や〈魔法鞄〉を持たない旅人が、荷物を減らす為に求める。
「……」
テオは黙って本の頁を繰る。何度か読んでいるフリッツとヴィムの本だが、ルッツは飽きずに寝る前にテオに読んで貰いたがる。今日借りて来たのは、フリッツとヴィムが地下の國に行く話で、明日谷に降りるのを予見したような選択だった。
「熱心だな。説話集か」
「まあ、そんなところ」
表紙の題名が読めなかったと言う事は、男は殆ど文字が読めないのだろう。テオは本を閉じ、背嚢に入れるふりをして〈時空鞄〉にしまった。
「……そのケットシーはあんたのか」
「ああ、俺に憑いている。俺の相棒だよ」
「妖精ってのは、どうやったら憑くんだ?」
「さあ、俺も解らない。選ぶのは妖精側だから。人が選ぶのものではないんだそうだ」
「そういうものか……」
男は持っていた硬パンの残りを口に入れ、冷めかけた白湯で流し込む。そして薄青い瞳でテオを見た。
「幸運妖精を知っているか?」
「色が白くて、幸運を分けてくれる妖精という話は知っている」
当たり障りのない答えをテオは口にした。よもや一緒に暮らしているとは、赤の他人に言えない。
「あれは本当に幸運を分けるモノなのか?」
男の瞳に一瞬影が過ぎった。不穏なものを感じ、テオは男をじっと見詰めてしまった。
ハッと男が吐き捨てるように息を吐いて笑う。
「ハイエルンではたまに幸運妖精の目撃情報があるんでな」
「コボルトに生まれやすいとは聞くね」
ケットシーで幸運妖精が居るとは聞かない。元々白い個体のケットシーもいるが、目の色で白子かどうかは区別出来る。
「俺がリグハーヴスで他のケットシーに聞いた話では、幸運妖精自身が幸福でないと、幸運は分けて貰えないそうだよ。それもささやかな幸運だって。幸運妖精が不幸であれば不幸を呼び込むんじゃないかな」
「そんなものか」
「同意も無しに攫ってこられた幸運妖精が、攫って来た者に都合良く幸運を与える訳ないよね。妖精は呪うものだよ」
どれだけ離れた場所にいても妖精は呪うのだ。攫われた幸運妖精の血族も合わせて呪うだろう。ルッツが起きていれば、この男が呪われているかどうか解るのだが、生憎お休み中だ。
「妖精を手放して呪いを回避するには、元の場所に帰すか幸福にしてくれる人へ預けるかしかないだろうね」
元の場所へ帰すのは相当に難しいだろう。妖精と人狼達が待ち構えているだろうからだ。
「なるほどなあ……」
「ハイエルンはコボルト解放令も出たし、人狼も本格的にコボルト保護に乗り出すだろうね」
人狼は平原族に比べると本気での強さは比べ物にならない。〈暁の旅団〉の民だとほぼ互角だが、〈暁の旅団〉は妖精と友好的に付き合っている。
いつの間にかカタカタと音を立てていた窓から月の光が差し込んでいた。吹雪が晴れたらしい。
男は空になったマグカップの水を切り、硬パンの残る紙袋と一緒に背嚢に入れた。そして乾いた外套を着こむ。
「夜明けまで待たなくて良いのか?」
「ああ。ここで晴れたらこの先も晴れているんだ。少し急ぎでな」
「気を付けて」
「そっちもな」
小屋から出て行く男が青い月光に照らされ、一瞬黒い靄に包まれたように見えた。
パタン、とドアが閉まる。深い雪を踏む足音が遠ざかって行く。
(やはり呪われていたか)
あの男はハイエルンのどこかで、幸運妖精を攫った事があるのだろう。コボルト解放令が発令する以前のハイエルンでは、コボルトの集落から幼いコボルトを攫う人族の冒険者が多くいた。
今現在はコボルトの集落は人狼の集落と合併しているので、コボルトを攫おうとすれば人狼達に袋叩きにあう。
「テオー」
もそもそと寝袋からルッツが起き上がった。
「どうした、ルッツ」
「ねないの?」
「そろそろ寝ようかな」
鍋とマグカップを片付け、テオは五徳の端に干し肉を一切れ乗せる。それからブーツを脱いで寝袋に潜り込み、ルッツを腹の上に乗せた。
「だれかきてた?」
「ちょっとね、休憩に来てた人がいたよ」
「あったまりにきたの?」
「そうだね」
頭を撫でてやっている内に、ルッツが再び眠り出す。テオは静かに息を吐いた。
月光の助けがあったとはいえ、テオに見える程呪われていれば、あの男は平穏な人生は望めまい。何かしら厄介事に巻き込まれるだろう。時には命に関わるような。
あの男の顔をルッツに覚えさせれば跡を追う事も出来たが、テオはあえてそうしなかった。攫われたコボルト達で無事な者はとうに解放されているし、あの男に次はなさそうだった。この避難小屋を使って、夜も明けないうちに移動出来るならば、この辺りに長く住んでいるという事だ。深追いすると、こちらも危険だ。
「……火蜥蜴」
コロンと熱鉱石を頭でどかし、暖炉の灰の中から一匹の火蜥蜴が顔を出した。棲み付いているのは気付いていたので、干し肉を進呈したのだ。
はむ、と干し肉を咥えた火蜥蜴はポッと尻尾の先から火を出した。肉屋アロイスの上等の干し肉だ。美味いだろう。
「怪しい奴が来たら教えてくれると嬉しいな」
チ、チッと囀るように鳴いた火蜥蜴が、五徳の上で丸くなる。見た目は火蜥蜴の炙り焼きなのだが、当人としては熱鉱石で暖を取っているだけに違いない。
見張りを火蜥蜴に頼み、テオは目を閉じた。
明日は谷下りだ。朝御飯は火蜥蜴の分も合わせて三人分だな、と思いながら。
一度行った場所には〈転移〉出来るので、冬の配達に重宝されているテオとルッツの軽量配達屋。
天気が良ければ普通に馬も使うんだけど、雪で道がふさがっていてもお届け物にいけます。
軽量配達屋なので、集落に行く事が多いテオとルッツです。
ロルツィングはテオとルッツに会いたくて、時々お仕事を頼みます。布地の配達とか。
孝宏はテオとルッツがお仕事行く時は、お弁当を作ります。保存出来るので、数食分のサンドウィッチやお握りなど。味噌玉とかも持たせていそうです。シリアルバーやチョコレート、キャラメルなどは行動食やおやつとして持たせています。
ちょっぴり良い干し肉や干し果物を持っていると、フリーの妖精にお願い事を頼みやすいです。