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リグハーヴスの年始め

ルリユール<Langue de chat>は、製本及び痛んだ本の修復を致します。店内には素材の見本の他、製本後の本の見本もございます。本の試し読みも出来ますので、詳しくは店員にお訪ね下さい。

年の初めから大忙し。


 229リグハーヴスの年始め


 〈Langueラング de() chat(シャ)〉の年始めはのんびりと始まる。

(目が覚めちゃったなあ)

 まだ部屋の中は薄暗いのに、孝宏たかひろはすっかり目が覚めてしまった。

 外では雪が降っているのかもしれない、やけに静かだ。

 大晦日ズィルヴェスタァの夜には皆でご飯を食べて、イシュカとテオは酒も少し飲んで、少し夜更かしするからだ。

 孝宏はまだ酒を飲まないが、エンデュミオンは飲めるのでイシュカとテオとヴァルブルガと飲んでいた。

 孝宏は酒を飲まないカチヤと残りの妖精フェアリー達とお茶やシロップを飲んでいた。

 ぴーぴーと鼻を鳴らしているのが気になって、ベッド脇の子供用ベッドを覗き込む。

「鼻詰まってないよな?」

 仰向けに寝ているアハトの小さな鼻を確認するが大丈夫そうだ。

「に……」

 もぞ、とアハトが布団の中で四肢を動かし目を開けた。ばっちり孝宏と目が合う。

「ちゃー」

 そして両前肢を孝宏に向かって伸ばして来た。まあ、そうなるだろう。

 孝宏はアハトを抱き上げ、隣で寝ているエンデュミオンとの間に寝かせた。

「良い子だね、もう少し寝ようか」

「に」

 お腹を軽く撫でるうちに、アハトは再び寝始めた。寝起きでも泣かない時は泣かないので助かる。

 昨日はヴァルブルガにシュネーバルが付いていっていた。今頃お気に入りのヴァルブルガのお腹を抱き枕にぐっすり眠っている頃だろう。

「に……」

 ころ、と寝返りをしてアハトがエンデュミオンに抱き付く。ぐいぐい額を胸に擦り付け満足そうだ。しかし、それでエンデュミオンが目を覚ましてしまった。

「……ん? アハト?」

「さっき起きちゃって」

「ああ」

 エンデュミオンは肉球でアハトをそっと撫でた。孝宏はエンデュミオンを撫でてあげた。きゅうっとエンデュミオンの黄緑色の目が細くなる。

「雪降ってるかも」

「少し冷えているな」

 窓の方からひんやりとした空気が流れて来る気がする。鉱石暖房を点けてはいるのだが、夜は少し温度を下げるのだ。

「もう少し寝るか」

「そうだね」

 掛け布団を肩まで引き上げる。年始めは店も休みだし、寝坊しても良いのだ。もう少しゆっくりしようと決めた二人だった。


「あー、降ってる」

 イシュカは窓の外を見て呟いてしまった。北のリグハーヴスなので、雪が降るのは当たり前だが。

「イシュカ、雪積もってる」

 シュネーバルをつれてバスルームに行っていたヴァルブルガが部屋に戻って来た。

「雪かき要るかな?」

 少ない雪だと住人が雪かきせずとも騎士団員が路地の雪を避け、固めておいた雪を魔法使い(ウィザード)召喚師サモナーが溶かす。しかし、一気に沢山降ると騎士団員の手には終えなくなるので、住人も総出で雪かきになる。

 イシュカは顔を洗って着替え、居間に向かった。ヴァルブルガは孝宏の部屋にシュネーバルをつれていった。シュネーバルの服は孝宏の部屋にあるのだ。

おはよう(グーテンモルゲン)、イシュカ」

「おはよう」

 居間には孝宏の部屋で寝ていた面々が居た。アハトはグリューネヴァルトを追い掛けてハイハイしているが、エンデュミオンが見ているので大丈夫だろう。

 テオとルッツはまだ起きてこないだろう。カチヤとヨナタンはそろそろ起きてきそうだ。

「昨日お酒飲んでたから、お粥煮てるけど食べる? 身体温まると思うよ」

「うん」

「うー!」

 ととととと、と足音を立ててシュネーバルが廊下を走ってきた。その後からヴァルブルガがやって来る。

「シュネー、走ると転ぶよ」

「うーうー」

 イシュカの脚にしがみつき、シュネーバルが首を振る。

「転んで痛い思いをしないと覚えない年頃かな?」と孝宏が言うが、痛い思いをしないで学習して欲しい。

「おはようございます」

「おはよー」

 カチヤとヨナタンも起き出してきた。

親方マイスター、雪が結構降ってますね」

「うーん、雪かきになるかなー」

「前に街総出で雪かきになったもんね」

 唸るイシュカに孝宏が遠い目をした。

「え、そうなんですか!?」

 カチヤは街ではなく囲壁の外の村出身である。

「ヒロもしたんですか?」

「俺は戦力外だよ。スコップが凄く重いんだもん。持てなくて炊き出ししてたよ」

 孝宏は黒森之國くろもりのくにの成人男性と比べると一回りは華奢なのだ。街の誰も孝宏にスコップを持たせようとはしなかった。

「ねえ、雪凄くない?」

 そこに、寝ているルッツを抱いたテオが蜜蝋色の髪に寝癖を着けたまま居間に入ってきた。

「凄いんだよなあ。出動掛かるかも」

「うちからは俺とイシュカだよね」

「孝宏とカチヤは炊き出しだな」

「顔洗ってくる」

 テオは膝掛けとテオのカーディガンで包まれたルッツを座布団の上に寝かせ、バスルームに行った。

「雪かきするならお肉もいるよね。昨日のお肉も付けよう」

 孝宏は台所に行ってお粥の鍋を確認し、隣のコンロに乗っていた小鍋も温め直す。

 テオが戻ってきてから深皿に白粥を盛り、上にとろりとした餡掛けを掛けて昨日の残りのローストビーフや葉野菜を刻んで上に乗せる。

「ルッツ、ルッツ、雪かきになるかもしれないぞ」

「にゃうー」

 身体を揺すって起こすエンデュミオンに、ルッツはテオのカーディガンに顔を埋める。

「ゆきかき……」

「テオが出掛ける前に一度起きておけ」

 以前テオが出掛けるのを知らずに寝ていて、寝起きで泣いたのはルッツである。

「テオー、どこー?」

 半分目を閉じたまま、ルッツがテオを呼ぶ。

「はいよ。起きたらご飯食べるか? ルッツ」

「あいー」

 半分寝たままのルッツをテオが抱き上げ、子供用の椅子に座らせる。

「お粥だから冷まさないと熱いよ」

「あいー」

 こしこしと前肢の甲で目を擦り、漸くルッツがちゃんと目を開ける。

「テオ、ゆきかき?」

「多分ね。ルッツは埋まっちゃうからお留守番だよ」

「あいー」

 残念そうにルッツの耳が伏せる。

 皆が椅子に座り、食前の祈りを唱える。

「今日の恵みに、月の女神シルヴァーナに感謝を」

「きょうのめぐみに!」

「お粥、熱いからね」

 孝宏はエンデュミオンに冷まして貰ったお粥をアハトに食べさせる。

「に!」

「自分で食べる?」

 子供用のスプーンを孝宏はアハトに握らせた。そろそろ自分で食べる練習をし始める頃だ。

「にー」

 ぎこちなくスプーンを使いアハトがお粥を口に入れた。

「お、アハト上手い上手い」

「に!」

 誉めるとご機嫌で食べてくれる。

 もう少し歳上の妖精になると、自分で熱い物は食べ頃に冷まして食べるようになる。

 朝食を食べ終わる頃、少しずつ窓の外が賑やかになってきた。

「雪かきだなあ」

 イシュカとテオは苦笑いして、外套や手袋を取りに行った。

『どの位積もってるんだろ』

 孝宏は階段を下りて、店の窓から外を覗いた。

『うはー、膝まであるや』

 窓の外に近所に住む男達が出ているのが見える。彼らの膝までならば、孝宏なら膝を越えてしまう。

『雪に沈まなければまだ楽なんだけど』

『雪に沈まなければ、か』

 付いてきていたエンデュミオンが独りごちる。前肢でむにと顎を擦り、ポンと前肢を合わせる。

『孝宏、エンデュミオンはグラッツェルの所に行ってくる』

『へ? うん、いってらっしゃい』

 エンデュミオンはその場から〈転移〉した。


「うおおお……」

「にゃあああ……」

 グラッツェルとゼクスナーゲルは二人で窓の外を見て震えていた。

 目を覚まして窓の外を見たら凄い事になっていたのだ。世界が白かった。

 雪が少ない王都育ちのグラッツェルと寒がりのゼクスナーゲルにとっては、中々の脅威だ。

「これどうすんの?」

「そとでれない」

 窓硝子が曇る程外を凝視する二人の後ろで、ポンッと音がした。

「起きてたか、二人とも」

「エンデュミオン。凄いんだけど!」

「いやあ、久し振りに降ったなあ」

 エンデュミオンはぽしぽしと頭を掻いた。

「街総出で雪かきするから、明日には外に出られるだろう」

「雪かきか」

「グラッツェルは止めておけ。明日起き上がれなくなるぞ」

 明らかにグラッツェルは痩せていて、鉄のスコップを振り回せる体格ではない。

「グラッツェルは雪かきする人に生姜ジンジャー蜂蜜ホーニック入りのミルクティー(ミルヒテー)を振る舞う位で充分だ。あと護符アムレットを作ってくれないか」

「何の護符?」

「〈魔法箱〉の中に魔窟水洞蛙まくつすいどうがえるの魔石があったろう?」

「いや、まだ目録すら見てないし。魔窟水洞蛙の魔石の護符って水面に浮くやつだろ?」

 地下迷宮ダンジョンで浮島に行く時や、貴族などが水遊びする時に使う〈浮水ふすいの護符〉だ。

「雪も溶けたら水になるだろう?」

「あ、そうか。作ってくるよ」

 グラッツェルは二階の工房へ駆け上がった。

 工房に入り、衣装箱から錬成陣が銀糸で織り込まれた大きな黒い布を取り出して床に広げた。

 それから部屋の隅に置かれていた、見掛けは葡萄の彫刻がある衣装箱の蓋を開ける。これが〈魔法箱〉なのだ。

 ぽっかりと黒い空間に手を突っ込み「魔窟水洞蛙の魔石」と心の中で呟くと、手に皮袋が触れた。取り出して皮袋の口紐を緩める。

「当たり」

 皮袋の中には小指の爪ほどの大きさの緑青色の魔石が沢山入っていた。

「あとは土台だな」

 錬金術の道具が入っている衣装箱から柊の木で出来た護符の土台を一袋取り出す。これはギルドタグと同じ大きさだ。護符は大きすぎても邪魔になるので、グラッツェルはこの大きさで作っている。

「まずは一つ試してみよう」

 作り方は知っていても作った事はなかった。魔窟水洞蛙の魔石は手に入れにくいからだ。

 錬成陣の上に魔石と木のタグを一つ、それと〈魔法箱〉にもう一度手を突っ込み「迷宮アメンボの足」と呟く。手に触れた瓶を取り、迷宮アメンボの足も一本錬成陣の上に置く。

「よし!」

 グラッツェルは錬成陣の端に両手を置き、魔力を流した。

 錬金術師アルケミストは生活魔法程度しか使えないが、錬成陣には魔力を流せる特性がある体質の者がなれる職業である。

 パリパリッと音を立てて錬成陣に銀色の光が迸り、上に置かれた素材が錬成される。

 光が収まった後には、木のタグに緑青色の魔石が填まった護符が残っていた。

 グラッツェルは錬金術の道具の中から硝子の器を取り出して、水の精霊(マイム)に頼んで少し水を溜めて貰った。

「どうかなー」

 水の上に護符をそっと乗せる。護符は水に浸からず、僅かに浮いていた。

「出来た!」

 グラッツェルは〈浮水の護符〉を持って一階に下りた。

「エンデュミオン、出来た──あれ?」

 居間に知らない青年が居た。騎士団員の制服を着ていて、肩に翡翠色の木竜が止まっている。

「お邪魔してます。騎士団のアレクシスです。この子はカペル」

「アレクシスが窓の外で埋まったんで、中に入って貰ったんだ」

「やっつけの板だったから折れたんだよ」

 板を靴にくくりつけて雪の上を歩いていたらしい。

「おちゃどうぞー」

 ゼクスナーゲルがマグカップを持って台所からやって来た。アレクシスに渡したあと、もう一つカペルの分のマグカップを持って来る。

有難う(ダンケ)

 既にテーブルの上にはマグカップが二つあった。エンデュミオンとゼクスナーゲルの分か、と思ったグラッツェルは「あれ?」となった。

「ゼクスナーゲル、どうやって淹れたの?」

「おゆわかした」

「コンロ、高くなかった?」

「いすにのって、さぎょうだいでわかした」

「あー、魔法陣マギラッドだ。布に魔法陣を刺繍したんだよ。こら、後で見せて貰え」

 直ぐに立ち上がろうとしたのを見破られてしまった。その間に、ゼクスナーゲルはグラッツェルの分のお茶を持ってきてくれた。

「それで出来たんだな?」

「うん、ちゃんと水に浮いたよ」

「ではアレクシスを実験台にしよう」

「おい」

「きぅー」

 カペルが翡翠色の皮膜のある翼で、ぺしぺしとエンデュミオンを叩く。

「失敗してもアレクシスが雪に膝まで埋まるだけだぞ、カペル。大丈夫だ、グラッツェルは腕の良い錬金術師アルケミストだから」

 まずは皆で生姜と蜂蜜入りのミルクティーを飲む。ゼクスナーゲルの淹れたミルクティーはとても美味しかった。

「あ、美味しい」

「ふふ」

 マグカップを抱えたゼクスナーゲルが、嬉しそうに尻尾を立てる。

 ミルクティーを飲み終わってから、グラッツェルはアレクシスに〈浮水の護符〉を渡した。

「紐で首から提げてもらうか、落とさないようにポケットに入れてください」

「うわ、こんなに小さい護符初めてかも。俺が知っているのはもっと大きいですよ」

「邪魔になるかなと」

「これ良いですね」

 騎士服の胸ポケットに護符を入れ、外套を着たアレクシスが、「失礼して窓から」と雪の上に下りた。

「凄い! 沈まない!」

 アレクシスはちゃんと雪の上に立っていた。その場で跳び跳ねてみても雪に埋まらない。

「これ騎士団に二十個位欲しいです! 買ってくれるように団長に頼むんで!」

「それくらいなら魔石があるだろう。エンデュミオンも何個か欲しい」

「作ってきます!」

 グラッツェルは工房に走った。

 錬成陣の上に三十個分の素材を置いて一気に錬成する。

 一つずつ水に浮くか確認してから、居間に戻った。

「出来ましたよ」

「え、速っ」

「ある程度の数はまとめて錬成出来るんですよ。水に浮くか確認してますよ」

 グラッツェルは〈浮水の護符〉二十個を確認して貰い、綿の袋に入れてアレクシスに渡した。

「これ、裏に文字書いても大丈夫? 番号とか」

「それ位なら平気ですよ」

「値段は一つ半銀貨五枚だぞ」

「安い、よな?」

「素材をエンデュミオンがグラッツェルに直接売って、それをグラッツェルが直接騎士団に売るから、その分少し安いかもな」

 間にギルドを挟まない分手数料が発生しない。ギルドとしては間を通してほしいだろうが、今回は構わないだろう。

「この程度の護符ならこの位の値段だろう。不死鳥フェニックスの羽根を使った護符なら流石にもっと高いぞ。でもそれを買うのなら、クレスツェンツの一回だけ助かる〈生命の指輪〉の方がお買い得かもな」

 不死鳥の羽根の護符は使いきりではないので高い。

「錬金術師ギルドは魔法使いギルドで代行かな?」

 大事そうに腰のベルトに護符の袋を結びつけながら、アレクシスが言った。それで、グラッツェルは忘れ物に気が付いた。

「あ、まだギルドに異動届出してなかった!」

「王都行ったんだろうに」

「いやあ、何か面倒な事になりそうで」

 呆れた顔のエンデュミオンに、グラッツェルは弁明する。

「エンデュミオンが代理でやって来てやろう。魔法使いギルドにも二つ護符を売ってくる」

 余った護符はエンデュミオンがその場で買い取り、代金をグラッツェルに渡した。

「俺は見回りしながら騎士団に戻るから、振り込みは明日以降になります」

「解りました。お気を付けて」

 雪の上をアレクシスが走っていく。カペルも一声鳴いて、すぐ上を飛んで行く。

「エンデュミオンは魔法使いギルドに寄ってから、〈Langue de chat〉に帰る」

「冒険者ギルドには良いの? 護符」

「奴等は力が有り余ってるから要らんだろう。地下迷宮ダンジョンも閉まってるし、運動不足解消に雪かきするだろう」

 中々酷い事を言っているエンデュミオンである。事実、街に残っていた冒険者達は炊き出しがあると知り、かなりの人数が雪かきに参加していた。

「グラッツェルは無理せず、通りかかった人にお茶を振る舞ってやれ」

「紙に書いて窓に置いておけば良いかな?」

「そしてそこにゼクスナーゲルが居れば完璧だ」

「解った」

 エンデュミオンが帰った後、グラッツェルは板に『温かいお茶あります』と書いた紙を貼り、窓に立て掛けた。

 ゼクスナーゲルは台所で粉や砂糖、卵、干し果物等を混ぜて天板に流してオーブンで焼くだけのケーキを作り、鍋で生姜と蜂蜜が入ったミルクティーを作った。

「ん、んー」

 鼻歌を歌いながら、ちくちくと白い布に橙色の糸で魔法陣を刺繍するゼクスナーゲルだが、グラッツェルの持ち物の中には無いものだった。

「布とかどうしたの?」

「さっきエンデュミオンがくれた」

「えーと、〈保温〉の魔法陣?」

「そうだよぅ」

 速い運針だが綺麗な刺繍で魔法陣を描き終え、牙で糸を切る。

「できた」

 いそいそとゼクスナーゲルは鍋の下に〈保温〉の魔法陣が刺繍された布を敷いた。

 台所にあったのは赤い糸で縫われた〈熱〉の魔法陣だった。鍋やフライパンが上にある時だけ加熱されるらしい。

 木の盆の上にこの家にあるカップを集めて置き、窓の外を雪かきする人が通り掛かるのを待つ。

 ゼクスナーゲルが窓の縁に前肢を掛けて、じーっと外を眺めていると暫くして冒険者らしき男達が綱が付いた橇に大きな木箱が取り付けられた物を引っ張りながら、スコップを振るい始めた。

 その内、彼らの一人とゼクスナーゲルの視線が合う。

「……」

 ちょいちょいとゼクスナーゲルが前肢で招き、グラッツェルが窓を開けた。

「温かいお茶(テー)焼き菓子(クーヘン)ありますよ。一休みしませんか?」

「おー、助かるわー」

 スコップを雪に刺し、ぞろぞろと冒険者達が窓の外に集まる。ぎりぎりコップの数が足りた。

 適当な大きさに切った焼き菓子を盛った皿をゼクスナーゲルが差し出す。

「はい、どうぞぉ」

「凄い、うまそう!」

「ゼクスナーゲルがやいた」

「やばい、御利益ありそうなんだけど」

 ゼクスナーゲルの焼いたケーキは、冒険者達に大人気だった。

 それからも家の前を雪かきする人が通りかかる度にゼクスナーゲルが呼び止め、お茶とケーキを振る舞った。

 グラッツェルとゼクスナーゲルの初めてのリグハーヴスでの年始めはこうして終わった。

 〈Langue de chat〉でも雪かきに、炊き出しに大忙しで、「明日こそゆっくりしよう!」を合言葉に一日を終えたのだった。


 〈浮水の護符〉の恩恵に預かった騎士団からは、他にどんな護符が作れるのかと問い合わせが来て、グラッツェルを慌てさせるのだった。

あけましておめでとうございます。


年初めから大雪でキャーなリグハーヴスです。

スコップはシャベルなのかもしれないんですけどね、正式には。

グラッツェルも初めてのリグハーヴスの年明けを、錬金術して始めました。

30個もまとめて錬成できるのは結構凄いのですが、自覚のないグラッツェルです。

そして、普通にゼクスナーゲルが料理をしているのを、流れで認識しています。

直接手でこねる物はグラッツェルに頼みますが、へらで混ぜられるような物なら作ります。


今年ものんびり土曜と祝祭日更新で、宜しくお願いします。

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