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デスげーむのモテあそびかた  作者: ヒキコモリタイナー
デスげーむの始まり方
3/9

セカイの法則のモテあそび方

作戦はいたってシンプルだ。

手紙を他人に擦り付ける。

ほんと、それだけ。


「糞ッ、なんだったんださっきの爆発は?」


「どういうことだよ、ログアウトできないじゃないか?!」


「落ち着け、それは散々さっきから騒がれている。」


爆心地から程遠い箇所。

どういうわけか我々はゲームの世界に取り込まれた際、

いくつかの大きな集団ごとに少しの距離を置いて配置されている。

ここは運よく先程の災害(まあドラゴンの襲撃なんだけどね)から免れた一塊。


というか私のいた集団以外は無傷に等しいほど何事も無かったわけだが。

ナニコノ理不尽。


まあそんな集団のいる一角のうちの一つに私は来ているわけだよ。


距離にして5キロほど。

なかなかの距離を歩かされ1時間は経過している。

馴れない運動と先程の襲撃による疲労により準備は万端だ。


ところどころ衣類が煤けて法衣の端の一部が焦げている私に注目が集まりだして少し、

疲労に任せておもむろに、その場にうつ伏せに倒れこむ。

そうすると精悍な青年が私にこう声をかける。


「お、おい!

 大丈夫か?」


ほらね。

なので私はこう答える。


「・・・私は一体?

アナタは、冒険者様なのですか?」


「え?一体どういう意味。」


乾いた地面の埃っぽい空気が舞い上がるのでここで咳き込んで見せる。


「ゴホッ、ゴホッ!」


「おい、しっかりしろ。

そうだ、確かここに水が―」


そうして腰にぶら下げた水を彼は渡してくれるので覚えておくとイイゾッ!

長い遠足に労いの一杯を。

水を一口二口と嚥下していき、名残惜しつつも弱々しい声で次のセリフを。


「・・・すみません・・・・冒険者様。

コレを・・・頼まれて・・・くれませんか?」


そうして振るえる手で封筒を差し出してやれば完璧だ!


「これは?」


ヤツはこう聞いてくるので


「ある人から・・・頼まれたのですが・・・・

私はどうやら・・・・・ここまでのようです。

ブラックキャロルの、ダニエラさんに・・・頼みま・・」


そうして差し出された封筒が受け取られ、受け渡しを確認した後力なく地面にふせば

行き倒れて死んだ人が完成する。


「おい?どうした!?

しっかりしろ!おい!!」


するとこの瞬間、トラップ発動!

何処からか聞こえる聞き覚えのある咆哮。


― な、なんだ?!


周りは不可思議な鳴き声に混乱している。

だがその間にも自体は進行して行き・・・


「うわぁぁぁぁあ!空から何か―」


「そこのアンタ!伏せろォ―」


巨大な生物が此方目掛けて滑空してきて・・・

突如


轟音


巨大な影


身をすくませて、動けないでいる青年


咄嗟に立ち上がり、青年をかばう様に押し倒し倒れこむ私


ナニカが服に引っかかる感触


猛烈に襲い掛かる浮遊感


突然にして遠ざかる大地


小さくなる人々の光景




私は今、空を飛んでいる。



空を飛ぶナニカに連れ去られている。

つまりそれは先程我々を襲撃していたドラゴン。


飛竜のつめの先に引き下げられているンダ!


それは先程私にもたらされた手紙の引き渡され方のように

今度は私が引き渡し、そして連れさらわれる側となっている。

私が望んでいた展開はコレなのだ!



え?普通に受け渡せばいいじゃないかって??

じゃあ君はいきなり来た見ず知らずの人間の頼みを

こんな切羽詰った状態で引き受けられるだけの器量をお持ちなので?


こんな状況下では大概の人は断るのだ。


だから私は思った。
















強 引 に 押 し 付 け る し か な い !









しかし、強引にいくなら、それこそ受け取って貰える可能性はさらに低くなる。

破られたり、捨てられたりしたものでは目も当てられない。


手紙を引き渡す際には強引に受け取らせて、

引渡し以降の展開に関与しないようにするためにはどうすればいいか?

あるじゃないか、お誂え向きの展開が。


―キャオオオオオオ―――――


五月蝿い飛竜の鳴き声が頭上で響き渡る。

オッサンもこの声を聞いたのだろうか?

まあ知る由も無いか。



Q:強引に押し付けられた頼みごとを押し付けるにはどうすればいいですか?

A:先程押し付けられたように強引に押し付けてみるのはいかがでしょうか?


Q:なるほど、わかりましたー!

  って出来るかッ!


A:出来るんですっ♪



これは私が持つ力に気が付いた後の何週目かに試して、成功した方法。

以降、序盤の面倒なこのイベントは大抵この方法でスキップしている。



この世界はゲームを模した異世界である。

ゲームは忠実に再現され、現実化した。


そのゲームでは魔法が使えていた。

そのゲームでは魔物が存在していた。

そのゲームでは腕っ節の強さが求められていた。

そのゲームには現実には存在しえない魅力が備わっていた。


でも使える魔法には限度がある。

魔物の強さには限度がある。

腕っ節の強さには限度がある。


物事には代償がつき物だ。

だからこそ、人はそこに目標を抱き、目的を持つことが出来る。

故に、自らが生み出した仮想も現実に即している。

魔法だの魔物だの、そんなものは現実には出来ないことをするための付加価値でしかない。


浮世は思い通りに行かない

だから、そこには無い違う天秤で浮世を計りたい。


そんな人の思いを体現した一つの世界。

ここはそんな世界。


私はそんな上手くいかない世界の理を、天秤を、今から強引に捻じ曲げる。


>set stam_0 20


懐のメモ紙を取り出し、そう記述。

書き込んだ用紙を切り取って、

私の法衣のフード部分に突き刺さっている竜の爪に貼り付ける。


すると


突如として勢いをなくしていく竜の羽ばたき


疲労に喘ぐかのような荒い呼吸の音


徐々に下がっていく高度


胸元にしまい込んでいたメモ紙


>set replace_0 npc


そう書かれていたメモ紙を細かく破り捨て

手帳の新しいページに次のように記す。


>set g_0 20


先程まで、赤っぽい霧のように霞んでいた視界もクリアになっている。

上空からの風景はとても綺麗だ。

高度も下がってきており、足元の状況もだんだん鮮明になっていく。


・・・そろそろだな


かろうじて法衣のフードに掛かっていた爪は、フードの布が破けることによりはずれ、

空を飛んでいた私の体は無造作に宙を舞うこととなる。

咄嗟に爪に手を伸ばすが、抵抗むなしく貼り付けられた紙をクシャクシャに握り締めただけだった。


当然の如く襲う浮遊感。


なので


先程書き込んだメモ紙を被る


すると


まるでパラグライダーで飛ぶかのような緩やかな勢いで地面に落下していく私の体。

普通ならものすごい勢いで落下するだろうが、それは月面に着陸した宇宙飛行士のように

地面に向かう速度はとても緩やかなものだ。


この世界の物の落下速度がそうなのじゃないかって?

言っておくが普通なら現実世界のような速度で、あくまで普通に落下する。

普通なら、ね。


私は自身の存在の所属情報を書き換えた。

私は竜が持つ現在のスタミナの残量を書き換えた。

私は自身に加わっている重力の値を書き換えた。


私はその間、この世界の住人にとっては死んだはずのオッサンだった。

竜はあの瞬間、突然のように疲労し、着地することに精一杯だった。

私はこの時間、落下が常に緩やかなものとなった。


それらの異常は、その手前に行われていた一連の動作によってもたらされた。


私が所持している一冊の手帳。

まだ何事も記されていない白紙の手帳。



私がその手帳に特定の文字列を書き込むと、世界の法則は捻じ曲がる。

当然の理屈を無視して、あるべき法則を、代償を無視して。



竜は悠然と飛び回り、去っていった。

私はゆったりと地面に足を伸ばし、着地した。



人はその行いを、こう評するだろう。


「チート」


私がこの世界で与えられた、唯一無二の超然とした力だ。







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