次なる幸せ
占い事件から約半月。
レベンディス様と訪れたマルシェで購入したピアスを付けながら、あの時のことを思い出していた。
占いのテントに入って、まさかわたくしの指輪について聞かれるなどとは思いもよらず。しかも今思い出せば、星の王子様とかわたくし達の前に現れるとか……とても不思議な話をされていたような。
ライバルという言葉だけを拾って挙句子どものように拗ねるなんて、レベンディス様の可愛い部分を覗いたようでとても微笑ましかったけど……そういえば、占い師の方も最後「微笑まし――」で何を言いかけたのかしら?
「お支度が整いましたので、ご案内致します」
……あら? 考え事で準備が終わるなんて、そんなにボーっとしてたのかしら。これから王妃さまと親しい方をお招きしたお茶会へ向かうのだからシャキッとしなくては。
「ステフは?」
「えっ? あ、あの……先に会場へ向かわれると」
「もしかして、わたくし返事してた?」
「えぇ……」
そんな上の空になるほど疲れてるのか、考え事が深すぎて聞いてなかった? どちらにしても気をつけなくては王妃様にご迷惑を掛ける訳にはいかないわ。
高いヒールを静かに鳴らしながら着いたお茶会の席にはまだ王妃様もいらっしゃっていない。座席の確認と軽食の確認も問題なし、給仕の使用人たちの立ち振る舞いも大丈夫。その中にステフを見つけ声を掛けようとした所で、王妃様がいらっしゃった。
「ヴィオちゃん、いつも早くからありがとう。大丈夫そうかしら?」
「はい、皆様が準備を頑張ってくださいましたから」
「今日もよろしくお願いしますね。さっ、お客様が見えられたようだからお出迎えしましょう」
両手をパンっと鳴らした王妃様と共にお客様をもてなし、世間話や流行、最近の話題で話しが弾む中……どうもヒールが辛くなってきた。
もっと低いものにすれば良かったのかしら、いつもとそんなに変わらないのだけれど。「少し席を外します」そう告げて休憩しようと、近くのソファへ向かおうとした所で立ちくらみに見舞われ身体のバランスを崩してしまった――
「きゃー!」
誰かの悲鳴で重い瞼を少し開け、ぼんやりわたくしを見つめるサファイアの瞳。
「レ……ベンディ……ス様……」
「ヴィオもう大丈夫だ、心配いらないからね。母上、ヴィオレティは私の方で部屋に連れて行きます」
「よろしくね、あとで向かうわ」
抱えられたままリズムの良い揺れに瞼を閉じたくなる……。
「どう……してお茶会に?」
「指輪が知らせてくれたんだ」
降ろされたベッドに頭を沈め深く深呼吸すると、目の前に小さな小さな光が飛び回り始めた。
「見えるだろ? これが迷子の星なんだって」
「……もしかして、わたくしの指輪から……?」
「指輪から出てヴィオの体調の変化を教えてくれたんだ。今、主治医も呼んでるからもう少し待ってて」
「あの……わたくし、別に熱もないですし少し疲れていただけですから主治医様なんて――」
叩かれた扉からステフと主治医様が入って来られ、部屋から出ないと頑なに粘ったレベンディス様は見事にソファを勝ち取って座られたけど……相変わらず部屋の中をお星様がクルクル飛び回っていた。
「――なるほど、それは体調も優れませんね。身体を冷やさぬ様にする事と、ご飲食は少々変更が必要と思われます」
「そんなに悪いのか……?」
「いいえ殿下、悪くなるのはこれからでしょう」
「…………」
「何せ、お腹に新たな命が芽吹いていらっしゃるのですから。悪阻はもう少ししてからですね」
わたくし、てっきり……えっ今、主治医様……新たな命と……。
「それは……」
「おめでとうございます妃殿下。ご懐妊で間違いないでしょう、殿下も誠におめでとうございます」
「ヴィオ……」
気を遣って皆様が退出された自室はあっという間に静かになり、驚きと嬉しさを滲ませたレベンディス様がそっとベッド際に腰を下ろした。
「この……喜びを、どう表現したら――」
言葉を詰まらせ涙を浮かべながら、わたくしの手と共に当てたお腹には、まだ感じるには乏しい小さな命を二人で微笑んだ。
“加護をあげる、星の王子様”
微かな声が耳を撫で、小さな光はクルッと勢いをつけてわたくしたちの手を突き抜け身体の中に消えていった。
「消えた……」
目を見合わせ、取り出すこともできない光に願いを掛けた。
「どうか、この子を御守りください」
不安にならない訳じゃないわ。
でも、重ねた手の温もりとは別に中からほんのり温かさを感じるの……不安よりも護られる安心感を得たい。きっと大丈夫、そう思えるから。
「わたしたちの子はどうやら王子らしいね」
「ふふっ、星の王子様なんてとても素敵な響き……あの占いも示唆してたのかしら」
「確かに……あの占い師、王室のお抱えにしようかな」
「そんな事したら人生つまならないと思いません? わたくしは理想を抱いて現実を味わうくらいが丁度いいように思いますけど」
「ヴィオの言う通りだね。私も全てが分かる人生はつまらない」
理想を追い求めたわたくしのこれまでの人生は、本当に多くの方々に支えられて、見守られ、救われてきたわ。きっとこれからも、いえ、今まで以上に多くの支えを受けて行くんだと思う。
現実を目の当たりにした時、心が折れそうになったこともあったし、悔いた事も……もちろんあったけれど、レベンディス様のそばにいられるというゲームでは味わえなかったエンディングを迎え、そして新たなステージに立とうとしている。
「うぅぅ……痛い……うぅ――」
「もう少しですよ、次の痛みでもう一度力を入れますからね」
「ふ……ふぅ……」
強い母になれるかしら……
優しい母になれるかしら……
愛しい人の愛しい子を守り切れる母になれるかしら……
「はいっ、力んで!」
「うぅぅ! ……んんーーーーーー!」
星が一層輝く満点の夜空の下。
「……おぎゃ――あ――あ――」
「はぁ……はぁ……」
「おめでとうございますヴィオレティ様、可愛い可愛い男の子ですよ」
「わた……わたくし……の、子……」
「ヴィオありがとう、本当に……なんて可愛いんだ」
おくるみに巻かれレベンディス様の胸に抱かれた我が子を覗きながら、疲れた身体を布団に預けた。
レベンディス様の指差す、手の柔らかな甲には小さな金色に輝く星模様が刻まれている。
「これ、星の加護印かもしれないね」
妊娠が分かってからレベンディス様と星の加護について沢山の文献を調べた。過去、星の加護を賜った者を見つける事は出来なかったけれど、星に宿る力が何種類もあることを突き止めたわたくし達は、もしも赤ちゃんにアスタリスクが刻まれた時の参考にしようと書き記していた。
「美しい金星の印だ。確か金星の力は……」
「愛と調和、人との繋がりを大切にする素敵な星……。どんな星であってもこの喜びは変わらないけど、この子が愛に包まれ愛を返していける子になれたら……母として幸せです」
アース・ダンデリオン、星の加護がいつか発現し多くの人を導ける光になりますように。そして、沢山の愛に包まれます様に。
その後の話し。
カフェア殿下とラディ様もお子に恵まれ、プロステート城も賑わっているとアヤネ様からの手紙で知ったわ。そんなアヤネ様は、つい先日ロード様からプロポーズされ身の置き方を検討されているのだとか。
貴族籍でなくなってしまったアヤネ様だけど、魔法士の功績が認められ爵位を持つものと同等の位を得たみたい。ラディ様のお抱えとして任務されているようだから……ロード様のご実家であるダンデリオン王国に移るか悩んでいるのね。
手紙を読み終え、わたくしを呼ぶレベンディス様。
「ヴィオおいで」
「レヴィ……大好きよっ」
今日も愛に溢れたレベンディス様へ愛を込めて。
―END―
完結です。
沢山の閲覧を本当にありがとうございました。
何分、素人の拙い文章ではありましたが書いててとても幸せな気持ちでした。
また機会がありましたら違う作品でお会いしましょう。




