2度目の花見
参加者が集まったので、予定通り花見が行われた。
「皆、飲み物持ったか? かんぱ〜い♪」
『かんぱ〜い!』
高らかに鳴るグラスの音色がよく晴れた青空の下に響き渡った。
今日は飲めや歌えの無礼講。これを咎める者はいない。誰も彼もが思い思いに羽根を休める。
「ユーリよ。此度の一件を聞いたぞ」
「ガイアス爺さん……」
酒が入って歓談タイムとなり、真っ先にガイアス爺さんがやって来た。
俺は素直に地面へ正座して怒られる事を覚悟した。
「ごめんなさい。今回の件は、言い訳の仕様もないです……」
「いや、別に責めている訳でない。寧ろ、同情しておる」
そう言うと俺を立たせて近くの席に一緒に座った。
「ルイから聞いたのだが……嫁から媚薬が充満した部屋に閉じ込められたそうじゃな」
「えっ? 媚薬!? それ初耳なんですけど!?」
「おや、知らなかったのか? というか、気付かなかったのか?」
「罪悪感でいっぱいで……全く……」
そういえば、いつもより折れるのが速かった気がするし、めっちゃ陶酔していた気がする。
「ほれ、そのことでリリアーヌが彼処で反省させられておるぞ」
「あっ、本当だ」
先程から見てないと思っていたら会場の端で正座させられている事に気付いた。
リリィの胸には「媚薬を旦那に盛って、すみません」とエルフ文字で書かれたプラカードまで下げられている。
そして、その前ではラファエラさんが説教しているらしく、リリィの表情はげんなりしていた。
「反省しているみたいなので、程々で許してやるが良い」
「そうするよ」
その時には、夫についてどう思っているのかを尋ねるとしよう。
「しかし……また厄介な者に目を付けられたな」
「マーシャのこと?」
「そうじゃよ。アレはルイでも手を焼いているからな」
マジか……。
ルイさんの様子からそんな気はしていたが、マジの様だ。
「お金が好きで、常に財を増やす機会を狙っておる。その為に無茶もするから目を離さない事だ。後、投資な。長命種故の着想は良いが、早過ぎて何度も失敗してる」
「………」
お金に余裕があるし少しくらいならと思っていたが考え直した方が良さそうだ。
それから話を変えてマリーがどれほど可愛いかを2人で語り合った。
酒が入って声が大きくなったらしく、本人が来て恥ずかしいと怒られてしまった。
酔いが回り始めた頃、設置されたステージでは各々の芸や歌が披露され始めた。
「数十年振りにメンバーが大勢揃ったので、皆で歌います!」
懐かしさで嬉しいのか、酔ったルイさんがマーシャたちを引きずってステージに登った。
『ひぃい〜〜っ!?』
それを見たガイアス爺さんやアダムス、年配の皆さんは青褪めて悲鳴を上げていた。
何やら思い出したくない過去の記憶が色々と蘇ったらしい。
俺もマジで興味が湧いてきたが、誰もが口を噤んで語ろうとはしない。
「ルイの所業? マリーの家出とか、長女の婿探しの旅とかが可愛く見えるレベルの放浪じゃったな。行く先々でーー」
ガッ!
「何を話そうとしてるのかしら?」
「るっ、ルイ!?」
ガイアス爺さんの頭を後ろから掴む笑顔のルイさん。
凄くいい笑顔なのに、何故か恐怖で震えが止まらない。
「ユーリ君。女の秘密は詮索してはダメよ?」
「イエス! マム!!」
俺は唯一語ろうとしてくれて、星になったガイアス爺さんに手を合わせるのであった。
「成仏しろよ」
「いや、死んでないわ!!」
森の奥からツッコミが返って来たが、きっと気のせいだと思うことにしよう。
次はギルさんたちがギルド関係者で集まっていたので移動してみた。
「はぁっ? 拾った?」
「おうよ!」
カトレアの手には息子だけでなく、女の子の赤ちゃんまで抱かれていた。
「巫山戯た事に散歩に行った森へ捨てられていたのさ! この娘は生まれながらに魔力が多いみたいで……無意識に暴走させちまうんだよ。だから親は手放したんだろうね。全く……会ったら頭蓋骨を折ってやる!!」
「止めてあげて!? それは流石に死ぬよ!?」
「むっ。仕方ない。両手両足だけにしよう」
「それなら許す」
「いやいや、止めてあげて下さい」
酷い親には鉄槌をと話していたらビリーさんに止められた。
「それでその子はどうするの? うちで引取ろうか?」
「安心して良いよ。拾ったからには面倒をみる。一人も二人も一緒!こういう時の為に乳は2つ付いてるのさ!!」
「「いや、違うと思う」」
一瞬、何処かの店主が見えた気がするけど気のせいだろう。
「それに女の子も欲しかったしね。肉体強化で部屋を破壊する程にやんちゃだけど……家を壊すなんて普通だろ? アタイなんて家を半壊させたと聞いたよ」
「ビリーさん。タダで魔力制御装置作ってあげるよ」
「恩にきます……」
「そういえば、夜泣きは大丈夫なのか? 酷いと一晩中寝ないよな?」
うちの子たちはそこまで暴走しなかったが、夜泣きは結構酷かった。
でも、俺たちは育児を分担しているのでそこまで苦では無かったが普通の家庭では辛いだろう。
お手伝いさんでも雇っているのかな?
「なに、泣き止まないなら起きておけば良いさ! アタイはこの子たちを抱えて一晩中走っていたよ!」
「アグレッシブだな! ってか、走る必要あるの!?」
「ある! 子育ての休業中の肉体維持も兼ねているのさ!」
「カトレアって、たまに思い切りがいいですよね。そこに惚れたのですが」
結局、拾った娘の名前はビオラと名付けて、養子としてカトレアたちが引き取る事となった。
「そもそも家族のカタチなんて色々さ。最終的に皆が笑って過ごせればそれが正解なのさ」
「カトレア……まだ第一子産んだばかりだよな? 母親の貫禄有り過ぎでは?」
「うるせぇい、細かいことは気にするな!」
とりあえず、困ったらうちに相談する事で話がついた。
カトレアたち夫婦を見ていたら幸せそうなので良しとしよう。
俺は2人の為にどんな魔力制御装置を作るか考えながら、微笑ましく見守るのであった。
遠い将来、その息子と娘が結婚して本当の家族になるのだがそれはまた別のお話。