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キョウカが来て変わったこと。

 なんだかんだあったが、魔法学校の林間学校は無事に終了し、生徒たちはアダムスと共に帰って行った。

 しかし、彼の奥さんのキョウカはというと残るそうだ。何でもイザベラたちの事が気になって仕方ないらしい。

 アダムスから許可を貰ったらしいので花見の日まで滞在する事が決まった。


 そんな風に妖精の箱庭(フェアリーガーデン)からは大勢の人が去って行った。

 少し寂しかったので生徒たちに花見までいないかと誘ってみたのだが……。


「花見をするんだが参加してくか?」


『結構です!!』


「………」


 何故か、生徒たちから必死な形相で拒否られた。

 滞在の条件に農業を手伝う事と言ったのが間違いだったのだろうか?

 ……それともコレが原因かな?


 俺の視線の先には派手な衣装を身に着けた女性が魔王国へ帰る者たちを見送っている。


「うん? どうした、ユーリよ。妾の美しさに見惚れたか?」


「……なぁ、マリー。この見るからに女王様な娘は誰かな?」


 うちにはそんな属性の娘は居なかった筈だが?


「ユーリさん。現実から目を逸らしてはいけませんよ。ヴィーちゃんです」


 女王様の正体は、元魔王ヴィクトリアだった。

 生徒たちはきっと彼女に遠慮して帰ったのかもしれないな。


「なんじゃ、ユーリよ。妾の姿が気になるか?」


「まぁね。普段の姿だと舐められるからか?」


「そんな所じゃな。それでどうじゃ? この色香に溢れた妾の姿は?」


 俺の頰を撫でる様に添わせ、顎クイで問いかけてくるヴィクトリアだった。


「なんならこの姿でユーリを手玉に取って骨抜きにしてみせよう」


「しくしく……」


「何で泣くのっ!?」


「ヴィーちゃんの背伸びが健気で……?」


 俺とするまで初心で経験の無かったヴィーちゃんなのだ。

 なのに、女王様として男を手玉に取るなんて無理な話だろう。


「……コレはしっかりと身体に分からせる必要がありそうね。マリー。夜にユーリを借りるわよ」


「了解です。あっさり逆転されない様に頑張って下さいね」


「今の私は女王様よ! 負ける筈がないわ!」


「完全にフラグな気が……。夜が楽しみですね」


 その後、マリーの予想通りヴィーちゃんは負けるのであった。





 キョウカさんが滞在し始めてから数日、色々な事が変わった。


「ユーリお兄ちゃん!匿って!!」


「今日もか?」


 部屋で花見の飾りを準備をしていたらイザベラが逃げ込んできた。

 俺は近くにあった布を彼女に被せ魔法で隠すと、彼女のデコイを作り窓から逃した。


「ユーリ様!イルミナを見ませんでしたか!?」


「キョウカさん……」


 デコイが逃げた後には入れ違いでキョウカさんがやって来た。


「入れ違いで窓から逃げて行きましたよ。それで今日は彼女に何をしたんです?」


「何も!ただ甘やかしただけですわ!」


 胸を張って堂々と甘やかすと宣言するキョウカさんであった。

 イザベルの正体が天使"イルミナ"だった事が分かってからこうなのだ。


「甘やかすのは結構ですが、本人の為にも程々にして下さい」


「善処しますわ!」


 そう言うとデコイを追って去っていったキョウカさん。

 彼女からは反省している様子が全く見られなかった。これだとイザベラは苦労するだろう。


「私への罪悪感からイザベラを甘やかすのは良いけど、少し過干渉過ぎなのよね。そんなに思い込まなくても良いのに」


 布から顔を出したイザベラからは大人の印象を受けた。


「イザベルの方か?」


「正解。入れ替わったわ。イザベラは疲れてげんなりしているからね」


「仕方ないよ。自分のせいでイザベルが死んだと思い込んでるんだもん」


 本来、キョウカさんとイザベルは仲が悪かったらしい。性格的に正反対で、それが原因となって対立する事もしばしばあったそうだ。


 そんな2人の関係が変わったのは大戦のとき。

 当時、軍団長をしていたキョウカさんは同盟国への応援に行って裏切りにあった。

 同行していたイザベルの機転で難を逃れたが、代償に彼女を失った。


「そんなに思い込まなくても良いのに。あの時代は何処が敵かも分からない時代だったから」


「それだけじゃないよ。……死体。直ぐにでも取り返そうとしたそうだ。でも、時間がかかってしまい、取り返した時には一部の骨だけしか残ってなかったってさ」


「………」


 逃がす時間を稼ぐ為に死ぬ瞬間まで抵抗したイザベル。

 その結果、彼女の死体には翼が残り、人工天使研究の材料にされてしまった。


「キョウカさんはどんな気持ちだっただろうな?」


 骨しか回収出来なかった時のキョウカさんの気持ちは計り知れないだろう。

 なんせ、率先して人工天使の研究施設を潰したのはキョウカなのだから。


「イザベル。キョウカさんの前だと出て来ないだろ? 文句の一つでも言いたいからイザベラの側に居るんじゃないか?」


「……私も文句くらいは言いたいわよ」


「なら、言えばいい。ねぇ、キョウカさん」


「えっ?」


 入口にはキョウカさんが立っていた。その脇にはイザベラのデコイを抱えている。


「イルミナ。やっと仲介せずに直接会えましたね。貴方には文句が沢山有るんですよ」


「一体いつから……?」


「入れ替わってから話し始めた頃には帰って来てたよ」


「最初からじゃん!?」


 俺もあんなに速いとは思わなかったよ。

 まさかデコイがあんなに速く捕まるとは……。


「それでは3人共、思いの丈をしっかりと言い合って下さい」


 そう言って俺はお茶セット共に部屋へ閉じ込めるのだった。




 翌日。


「イザベラちゃんは可愛いわねぇ〜」


「このお菓子美味しい……」


 相変わらず、イザベラはキョウカさんに凄く甘やかされている。今もお菓子を食べながら髪を梳いて貰っていた。


「アレ? イザベラは甘やかされるの嫌がってなかったか? キョウカさんも過干渉だったのはイザベル待ちだったからじゃ?」


「嫌と言えば止める事で約束しました。しかも母親代理になってくれるそうです」


「こんな娘が欲しかったんです。可愛がっていたのは純粋に可愛いからでしてよ?」


 あれ? まさか、昨日は無駄な気遣いとかしたパターン?


「それにイザベラちゃんの容姿は昔のイルミナにそっくりなんです。そんな子を娘の様に可愛いがる。この快感がなんとも……」


「変なのに目覚めてんじゃねぇですよ!邪じゃない!!」


「あら、入れ替わったのね。良い機会よ。イルミナ、『お母さん』と呼んでみて?」


「呼びませんからね! 貴方は友人のままで良いんです!」


「お母さん」


「イザベラ!? コイツをそんな風に呼ばなくて良いからね!!」


 そんな風に彼女たちはとても姦しい。友人で母娘といった不思議な関係に落ち着いた様だった。

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