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エルフ怖い……

 俺はメルヘン公国でしがない冒険者をするモルタだ。


 平穏が売りのこの国では魔物騒動はまず起きない。

 しかし、メルトローナの門番から冒険者ギルドへ大量の魔物が発生したとの連絡が入った。


 何でも何処ぞの貴族様が傭兵たちを雇って魔物を輸送していた所、檻が壊れて逃げ出した事が原因なんだとか?


 傭兵たちは街に逃げ込んだ所を門番に捕まえられ、そう証言したそうだ。


 冒険者ギルドは、この魔物騒動を受けて直ぐにCランク以上の招集を決めた。だから、俺も当然招集された。


「Sランク冒険者のリリスです」


「同じくSランク冒険者のシズ。よろしく」


 招集場所で冒険者ギルドから派遣されたSランク冒険者のエルフの2人が自己紹介していた。


 一人は色白でスレンダーな典型的な女エルフ。もう一人は、見た目が幼いながらも高魔力を秘めている事が分かる幼女エルフだった。


「やべぇ、俺初めてエルフ見た!!噂に違わぬ美しさだな!!」


「リリス……名前からしてエロそうな女だな!」


「シズというのか? あの見た目でSランク……既に大人に違いない!! と言うことはアレもコレも合法で……じゅるり」


 俺たちは彼女たちの参戦に歓喜した。

 しかし、その後に続いた言葉で場の空気が変わった。


「私が貴方たちの指揮をする事になりました。私の命に従いなさい」


『っ!?』


 エルフは傲慢で高圧的と良く言われるので何処かで覚悟していた。

 だが、直接言われてみるとイラッときた。それは他の者たちも同じだった様で……。


「ふざけるなよ!」


 当然反感する者たちが出た。


「シズの予想通りでしたね」


「でしょ? 冒険者は単純な人が多いから」


 彼女たちは俺たちに向かい不敵な笑みを浮かべた。


 そこに居たのは紛れもなく獲物を喰らう鬼だ

 まぁ、正確には鬼ではなくエルフだけどな。それなのに何故鬼かと言うと。


「なんでエルフみたいなひ弱そうな女なんかに従わねぇとーーごはっ!?」


「なっ!? いきなり暴力とはどういうーーうぐっ!?」


「ここでは他国のルールはーーほげっ!?」


「おい!ふざーーげばっ!?」


「ちょっーーとっ!?」


 文句を言う奴らを彼女たちは次から次に仕留めて行ったのだ。後半の奴なんか文句を言う前の素振りの時点でヤラれてしまった。

 彼らは氷漬けや痺れて動けないのでもう戦力としてカウントする事はないだろう。


 確かにコイツらは平穏が売りのメルヘン公国暮らしで、緊急時に高ランク冒険者に従う暗黙ルールを知らない奴だが、問答無用で攻撃するのはどうなのかな? こんな奴でも一応戦力なのですが?


 でも、これだけなら鬼とは言えない。ただの横暴な高ランクだ。

 彼女たちが本当にヤバいのはここからだった。


「はいはい、起きなさい」


「ゴバッ!? ゴホゴホッ……」


「ほら、起きよう。劣化版とはいえエリクサーだから怪我は癒えてるでしょ?」


『ハァッ!?』


 彼女たちは上級ポーションよりも希少なエリクサーを惜しみもなく使い倒れた仲間たちを癒やして行ったのだ。


「おっ、俺の古傷が消えてる!?」


「俺の欠損した指まで……っ!?」


 エリクサーというのは嘘でないらしく、倒された者たちは恨みより先に傷が完璧に癒えた状態に驚いていた。


「コレで皆さんは状態は完璧になった筈です」


「まさか、完璧な状態で戦わせる為に俺たちの挑発に……」


「コレから魔物と戦うのです。万全な状態で望まなくてはなりません」


 なんだと!? 今までのやり取りが全部仲間たちのポテンシャルを存分に発揮する為の行為なのか!?


『………』


 流石のコレには皆も驚いたらしく、彼女たちに視線が集まった。


「それでは私の指揮に従う気には成りましたか?」


「あぁ……従うぜ」


「ここまで格を見せつけられたら……な?」


『うんうん』


 同意を求める様に振り返った仲間の言葉に俺たちは頷いた。


「それは良かった。それでは魔導師の皆さんは所定の場所で防壁の建設をお願いします」


「残った人たちは今から私たちとーー」


「何でもするぜ!」


「俺の実力!今度こそ見せてやる!!」


「ああ、何でも言ってくれ!!」


「「模擬戦をします」」


『はい?』


 意味が分からない? 今から俺たちは魔物と戦う筈では?

 そうだ! きっと聞き間違いだ!!


「魔物がここに来るまでに、まだ1時間程有ります」


「私たちの旦那が作ってくれたエリクサーは市場にそんなに出せないからまだまだ有るの」


「だから、死にかけても大丈夫です。魔物討伐前に本気の模擬戦をしましょう。何、簡単なウォーミングアップです」


「そっちから掛かってきて良いよ。来ないなら……」


「「私たちが行く♪」」 


『嘘……だよね?』


 今、旦那持ちって言わなかった?

 それ以前にマジで今から模擬戦をする気ですか?


 俺たちは二重の意味で困惑した。

 でも、彼女たちはお構いなしだった。


『イヤャアァァーーッ!?』


 防壁を建設する魔導師たちを他所に、俺たちは本気の攻撃を浴びせられてあちらこちらから悲鳴が上がリ倒れる。


「はい、回復」


 でも、気絶は許されない。すぐに癒やされてしまうのだった。


「クソーーッ!!」


「はいはい、逃げない」


「ガフッ!?」


 俺は倒れながらに魔導師たちを見詰めて羨ましいと思った。きっと同じ事を思ったのは俺だけではない筈だ。





 それで魔物討伐の大規模戦闘はどうなったかって?


 そんなものはハッキリ言って無かった。有ったのは……。


「は〜い、的が一杯だよ!」


 幼女エルフことシズが使った植物魔法で全ての魔物たちは地面に縫い付けられた。


「今ならユーリさんはいないので各種竜撃弾(ドラグニルパレット)が使い放題です!」


 それに嬉々として魔法を連発するリリスによって、魔物たちと地形は破壊尽くされて討伐は終わった。


 その時、俺たちの心に一つの協定が生まれた。


『(エルフ怖い! エルフ危険! エルフに逆らうべからず!!)』


 同時に俺たちは彼女たちの舎弟に成り下がったのである。

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