メルトローナ
メルヘン公国の首都メルトローナの門前にて。
「はい、確認終了です。ようこそ、メルトローナへ。皆さんを歓迎しますよ。ユーリ・シズさん」
「………」
「あっ、ユーリも終わったみたいだね。早速入ろう♪」
「ご主……ユーリさん。他の皆がかかる様なので先に入りましょう」
門での入国審査を終えると既に終えたアイリスとギンカが待っていた。俺は彼女たちに手を引かれるまま門を越えた。
「やってくれたな……」
門から十分離れた所で俺はアイリスを問い詰めた。
「何の事かな?」
「この事だよ!!」
「すっごく可愛いよ♪ユ・ウ・子ちゃん♪」
「ドン畜生ぉぉーーっ!」
もうお気付きかもしれませんが、アイリスたちに女装させられました。
そして、そのまま入国審査を通れてしまった。
甘過ぎやしませんかね? この国?
「アイ……アイネ」
「は〜い!」
アイリスが返事をした。
アイネというのはアイリスがこれから使う偽名だ。正式には、アイネ・ナベリウスという事になっている。
カリスからの許可を貰い、彼女の親戚という事にした。これによりランクが低くても多少の面倒事は回避する事が可能だろう。
「最初から知ってたな。リリスとミキが遅れて来たのはこの為か?」
「なっ、何の事かなぁ〜〜っ?」
全力で目が泳ぐアイリス。それが全てを物語っていた。
「そりゃあ、バレないって話にもなるよね? だって、女装させるんだもん」
「あははっ……」
俺がじ〜っと見詰め続けるとアイリスは苦笑いを浮かべた。
「事前にマリーへギルさんから話があった様ですよ。彼女たちが遅れて来たのは女性用の冒険者装備をユーリさんに頼めないので外部にお願いしたからだそうです」
「ちょっ、ギンカ!?」
「今はキティ・ナベリウスです」
「じゃあ、キティ。言わなくても良いじゃん!言わないとバレないのに!!」
「いや、どっちにしてもバレるよ? とりあえず、帰ったら3日間デザート抜きね。店で買うのも」
「そっ、そんな店のもっ!? 嘘だよね!? 嘘だと言って!? 好きなだけおっぱいとか揉みしだいても良いから!!」
俺の手を掴み服の中へと引きずり込むアイリス。
「はうっ!? こっ、今後の行動で判断する……」
必死に誘惑で縋るアイリスに懐柔されそうになる俺だった。
「あっ、そうだ!コレなら!コレなら良いでしょ!!キティは周りを見てて!」
そう言うとアイリスの身体に変化が訪れる。身長が縮み手足も短くなるが、胸はなかなかの大きさを残して幼女へと姿を変えた。
「ユーリが病みつきになる!奇跡のボディ……ロリ巨乳!」
「ぶふっ!?」
なっ、なんて事を言い出すん! 周りに聞かれたら白い目で見られるじゃないか!!
「この姿でクエスト中は居るし、ご奉仕もするから……ダメ?」
「っ!?」
可愛過ぎだろ!!
腕を挟んで強調し、上目遣いで訴えてくるアイリス。今すぐにでも本能に身を任せたくなるのだった。
「ユーリお姉ちゃ〜ん」
そこへ俺の名を呼びながら背後から"ほふっ"と何かが抱き着いてきた。振り返るとそれはエルフ特有の長耳を持った幼女だった。
「シズも無事に通れたんだな」
「うん、アスカ・シズで通れた」
今回の件でコレが書類上のシズの名前となった。
人に嫁いだエルフは名字を得るが、そのまま足されると"シズ・シズ"とおかしくなるので新しくする事になったのだ。
「良かった。心配してたんだ」
「えへへっ、ありがとう」
シズはとても嬉しそうに微笑んだ。それは精霊の写し身なだけあって魅力的だった。
「呼ばれる度に夫婦だと実感出来て嬉しかったな。それにね……」
アイリスとは反対の腕を引っ張り顔を近付けさせるとシズは耳元で囁いた。
「夫婦なら好きにして良いんだよ? それにもう大人になったから……子供も産めるよ?」
「〜〜〜っ!?」
マジでヤバい!!? 理性が崩壊しそうだ!?
この後にはやる事が立て込んでいて我慢してるってのに!?
「あっ、ユーリがシズに靡いてる!?」
「ふっふっふ、これが本物の幼女パワー」
「ぐぬぬっ……」
何やらアイリスとシズの間で見えない火花が散った気がした。
「一体、私たちが手続きしてる間に何があったのですか?」
「ユーリさん。そうしてると姉妹みたいだね。……ってか、何でアイリスさんは縮んでるんだ?」
そこへリリスとミキがやってきた。
「俺を女装させた罰。他の皆にもそれぞれ用意するから覚悟してね?」
「アタイは止めたから!アタイは止めたからね!? 離婚して追い出すとかは止めてくれよ!?」
「ミキ、大丈夫ですよ。多分……デザート抜きとかですよ。でも、私に後悔は有りません」
リリスは罰を受け入れる覚悟をしていた。
「だって……ユーリさんはこんなにも可愛いのですから!!」
パシャ! パシャ! パシャリ!
リリスは首から下げていたカメラを向けると激写した。
「ちょっ、何してるのさ!? 没収!!」
発行された写真を奪おうと近付くもカメラからは写真が出て来ない。
「アレ?」
「ふふっ、残念です。コレはユーリさんも知らぬ超最新鋭のカメラで、ここで撮った物が屋敷へと転送されます。私達がリリンにお願いして作らせたかいが有りました」
「マジでっ!?」
そういえば、リリンから新しいマジックアイテム作るから魔法刻印をしてくれと色々頼まれたっけ?
まさか、それがこのカメラの為だとは知らなかった。
「ほっほっほ、女性が3人集まると姦しいと聞きますがホントの様ですのう」
「あっ、ポルクスさん!」
皆でワイワイしていたら手続きを終えたポルクスさんもやって来た。
「帰る前に挨拶へ来ました。この度はどうもありがとうございました」
「それはご丁寧にどうも。こちらこそありがとうございました」
「それでは私はこれで。帰りの件、お待ちしてますね」
そう言ってポルクスさんは馬車と共に去っていった。
「それじゃあ、行動するか。カルナさんもそれでいいよね?」
「えっ? ……ええっ、それで良いわ!」
今回同行してきたカルナさんは旦那の事が心配で上の空みたいだった。
「別に息子さんと一緒に妖精の箱庭へ残っても良かったんですよ? あの作戦だって危険だし」
「……ううん、自分の旦那だもの。私の手でやってこそよ!」
気を取り直して元気一杯に振る舞うカルナ。空元気なのは周りから見てもよく分かった。それを心配してミキが視線を送ってきた。
「分かりました。全力でサポートします。ただし、カルナさん自体も十分気を付けて下さいね」
「はい、分かりました」
「それじゃあ、到着の手続きをしに行こうか」
俺たちは冒険者ギルドへと足を向けるのだった。
「そういえば、どうやってメンバー選んだの?」
「「「殴り合い」」」
「もっとマシなの無かったの!?」
「アタイはカルナが行くから確定だったけど……見てて怖かった」
次からは専用のクジ引きでも作ろうかと思うのだった。