お持ち帰り
気絶した者を二人も抱えた俺たちはこの場を離れる訳にもいかず談笑に花を咲かせた。
「これがユーリの店の新作スイーツなの♪」
「甘~いっ!陸ではこんなに美味しい物が食べられるんだね!!」
食べる度に蕩けるサナはとても幸せそうだ。
「海に甘味はないのか?」
「無くはないけどここまで甘いのは無いかな? 料理方法すらも単純な物しかないからね」
「やっぱり焼くと煮るだけ?」
「そこに生も加わるんだよ。新鮮で寄生虫のいない奴を捌いてるの」
「あれ美味しいよね? ユーリが良くするし」
「えっ? 陸の人が生で食べるなんて珍しい……忌避する人がほとんどなのに」
「俺の祖国では生食の文化が有ったんだよ」
「そうなの? 詳しく聞きたいな」
そこから俺の世界の話やセルキーの生態などの話をした。
セルキーは放浪の種族らしく、ある一定の期間毎に棲みかにしている浜辺を変えるのだそうだ。
その理由が親密になりすぎない様にする為らしい。
「それもこれもうちの男連中のせいだけどね」
男性のセルキーは非常にイケメンで人間の女性を誘惑するのが上手いそうだ。
そして、彼らは好色家で人生に不満を抱いている女性に敏感らしく、決まって彼女たちを誘惑するそうだ。
しかし、まぐわった後の事には一切感知しないという淡白な最低野郎も兼ね備えているので長期間居ると殺傷沙汰に発展しかねないのだとか。
「あっ、聞いたことある。最低のヤリチン野郎だって」
セルキーに会った事のなかったアイリスが言うなら相当有名な話だという事が分かった。
「それでも最近の子は変わってきたと言われるよ。ちゃんと認知はしてくれるって。尤もそれだけだけど……」
げんなりしながら言うサナ。彼女たち女性陣は苦労している様だ。
「ちなみに女性はどう認識されてるの?」
サナに聞くのは問題だと思ったのでアイリスに聞いてみた。
「男性に人気だね。従順な美人で脱衣を見れば良妻賢母になるって言われているから」
「……良妻賢母。妻にする前提なのな」
そりゃあ、これだけの美人なら妻にと考えるかもしれないが……。
「多分、盗まれた皮を取り返す為に盗人の言いなりを演じて奪い返すって話が有るからそれから来てるのかも?」
なるほど。それなら分からなくもない。油断して奪い返す訳か。
物語の影響で民衆に嘘が伝わるのは向こうでも起こっていた事だ。
「違うよ」
納得しかけていた話を否定したのはセルキーであるサナだった。
「じゃあ、どうしてそんな風に言われてるの?」
「そもそもセルキーの女性が皮の脱衣を見せるのは求婚のアピールなんだよね。認めた相手にだけ開けさせて、私の全てを召し上がれ的な……」
「あっ、だから無理やりするのは強姦みたいなものなのか! 無理やり嫁になれみたいな?」
「そういう事だね」
「それは悪い事をしたな。ごめん」
「良いよ。事故な訳だし」
少し気まずくなったが、直ぐに元の状態に戻り談笑を続けた。
「来るの遅くねぇ……?」
未だに目を覚まさないエロースとリナを介護しながら談笑を続け結構な時間が経過した。
しかし、ギルド船は一向にやって来る気配がない。
別の場所に漂着した可能性も考慮して、流氷全体をアイリスと分担して見ているがそれでも姿は見えないのだ。
「一体いつまで油を売ってる気なんだろう?」
元々流氷の破壊は彼らのクエストの筈なのにな。
「あははっ、ネレイスとやり過ぎてからっからに干からびてたりしてね!」
「全然笑えませんが!?」
俺の経験が魔物と寝るとそうなってもおかしくないと言っている。
何故なら目の前にいる奥さんから絞られ続けた結果、カオスコスモスに死亡判定をされたくらいだからな!
演出で天に登っていたし。あれがホントの天にも昇る気持ちだと思うよ。
「仕方ない。転移で戻ってみるか」
そんなに距離は離れていないし、船にはマーキングを施して来たので何時でも転移する事が可能になっている。
「それじゃあ、この氷はどうするの?」
「もう一度戻って来るのは二度手間だけど仕方ないかな?」
流石に楽しむだけ楽しんで終わりなんて虫が良すぎだと思う。
あんな羨まけしからん事をしてるのだから、彼らはそれなりの対価は払うべきだ。
「ユーリ。私思ったんだけど……この流氷を収納出来ない?」
「はい?」
「結局は壊すんだよね? だったら、アイテムボックスとは別で亜空間に入れる魔法が有るじゃない? 前にマルコスの屋敷を土砂崩れに見せ掛けて埋めた奴」
「あっ、アレね」
妖精の箱庭を広げた際に出た切り株とかを取り除いた時に出たゴミを入れていた亜空間だ。込めた魔力量に応じて広範囲を収納する事が出来る。
しかし、アイテムボックスの様な時間停止は有るだけで高性能なものでは無い。常に自分で何をどれくらい入れたか把握する必要が有るのであまり使っていなかった。
「あれを使ってコレを収納しておけば、夏に氷で困った時に助かるんじゃないかな?」
「確かに取りに行くのが大変だったもんな。この前ので空っぽだし、そうしようか」
流氷のクエストは報酬金が少ないと言っていたし、代わりにコレを持ち帰ろう。ギルドにとっても一石二鳥で助かるだろうしね。
ただギルド船の連中が楽させるのは嫌なのでモヤモヤする。別の何かで補えないものか?
「あの~っ、私たちはどうすれば?」
俺とアイリスのやり取りを聞いてサナは心配になったらしく参加してきた。
「大丈夫。ちゃんと連れて行くから。このまま流氷の消えた海に居たいなら別に良いけど?」
「私は全力で付いていきます!リナちゃんを好きにして良いから連れて行って!捨てても良いよ?」
「姉妹なのに酷くない!?」
「大丈夫。寝てるリナちゃんに何かしても私は見なかった事にするから」
「………」
サナ曰く、大丈夫らしい。
でも、本人は大丈夫じゃないみたいだ。今の会話を聞いて少しピクリと動いた。起きているのかもしれない。
「よし、氷を回収して移動しようか。アイリスはエロースを頼む。こっちは2人を担当するよ」
「了解。任せて」
アイリスはエロースの背後に回ると抱き締めて羽根を出した。
「サナは俺の手を握ってくれ。リナは抱っこして大丈夫かな?」
「それくらいなら大丈夫だよ」
手を握ったサナから同意を得たので、俺はリナを小脇に抱きかかえた。
「想像してたのと違った!?」
「あっ、やっぱり起きてたか」
荷物の様に脇に抱えられたリナは自身の扱いについて抗議の声をあげた。
「抱っこって聞いてお姫様抱っこを期待したのに!!」
「いや、だって片手が埋まってるし……」
片手でお姫様抱っこするには女性が首にでも手を回してくれないと無理だと思う。
「さっさと起きないリナちゃんが悪いんだよ」
「まぁ、直ぐに終わるから我慢してくれよ」
「そっ、そん……きゃあぁぁーーっ!?」
文句を言おうとした所悪いが、流氷を収納した事により足場が消えて落下が始まった。
「「………」」
氷が消えた下では魔物の大きな口が開いて待ち受けていた。
どうやら氷の裏にくっついていたらしい。
「「転移!!」」
慌てて俺とアイリスは転移を使い、落ちる前に何とかギルド船へと転移した。
隣を見るとアイリスがビックリしただけで2人とも無事な様だ。
俺はその流れで冒険者たちを見ると魔物の残骸の中に疲労困憊で座り込んでいた。
「何が有ったんだ?」
「ネレイスに絞られた後別の魔物に襲われました……」
どうやらネレイスとイチャイチャした結果、人の匂いを嗅ぎ付けて魔物たちが集まって来たらしい。それと交戦していたから来れなかった様だ。
自分の意思に反して罰が降りたみたいなので俺はスッキリした。
「流氷は何とかしたから帰ろうか」
「マジですか……って、女の子をお持ち帰りですか?」
「うん。流氷にいた救助者」
「俺たちが快楽に浸ってる間に……報酬は全額お譲りします。その人たちにでも使って下さい」
「ああ、俺たちは何もしてないからな……」
その後、俺たちは船でベレチアへと帰還し、冒険者たちが言う通り報酬は俺の懐に入る事となった。
しかし、彼らも冒険者。狩った魔物を売り払った。その結果、流氷クエストより儲かり彼らは歓喜していた。
でも、ネレイスとの一時を忘れられず、その金で女の子の所に駆け込む者が多かったのは言うまでもない。