慰め方いろいろ
東の大陸から帰って来て数日が経過した。
「ユーリさん。元気が戻らないですね……」
皆の視線の先ではユーリが神社の階段に座りこんでいた。
「フラガラッハが砕けたのが相当ショックだったみたい」
「しかし、ご主人様は母様から復活法を聞いた筈では?」
「うん。確かにここ数日、毎日の様に剣を鍛えてたけどあの様子じゃ無理だったんじゃないかな?」
「そもそも方法に問題があるのでは? 特殊な素材が要るとか、ユーリ以上の鍛冶技術が無いと無理とか?」
『………』
マリーの言葉に皆は口を紡いだ。
ユーリ以上の鍛冶職人などまずいないのでは無いかと思ったからだ。
「うじうじ悩んでもイケませんね。私がご主人様を立ち直らせてきます」
「どうやって?」
「まぁ、任せて下さい」
自信満々なギンカに皆は期待して見送るのだった。
**********
「真・フラガラッハか……早く試したいな」
皆が落ち込んでいると心配している中、当の本人は全然落ち込んでいなかった。それというのもフラガラッハの修復が終わったからだ。
「全く運が良かったよ」
ユーリはエルメラさんから自身の職業スキル『創る人』でフラガラッハを修復出来る事を教わった。
また、その際に風神竜の竜心の欠片を材料とする事で真のフラガラッハへと生まれ変わるとも言われた。
「本来はフラガラッハには風を操る能力が備わっていたのだけど……今はそんな能力はないでしょ? それはその剣の劣化が原因で休眠しているからなのよ」
だというのに、フラガラッハで神殺しを行った。
錆びたなまくらで斬る様なもので、刀身が耐え切れずに砕けてしまったという事らしい。
次からは気を付ける事にしよう。
「それより……マリーの問題を何とかしないとな。なんて、告げるべきか?」
実はマリーの竜心の欠片をフラガラッハの材料にした事をまだ告げていない。
常に身に着けていたペンダントが無いので、何れバレるのも時間の問題だ。
「う〜〜ん……」
「ご主人様。元気を出して下さい」
「ギンカ……」
悩んでいたら心配したギンカが慰めにきてくれた。
「元気が出るようにこれをプレゼントします」
「これは?」
ギンカに渡されたのは生暖かい布の塊だった。
俺はそれを広げてみると清楚そうな白い三角形の形をしていた。
「好意のある異性には履き立てのパンツを渡すと元気になると聞きました。私のですがどうかお受け取り下さい」
「よし、分かった。ギンカ、そこに正座。説教時間だ」
「えっ?」
意味が分からないという顔をしたギンカを正座させて説教をすることにした。
「ハッ!? まさか、スカートたくし上げがなかったから!?」
「違ぇよ!!」
ギンカへのお説教は長くなりそうだった。
*********
「はて? 何がいけなかったのでしょうか?」
『全部だよ!!』
あまり理解していないギンカに皆は呆れるのだった。
「そもそも誰かそんな事を教えたの?」
「彩音ですが? 大切な異性とパンツを交換するのは文化だと……」
「彩音、ストップ」
逃亡しようした彩音をアイリスが腕を伸ばして捕まえた。
「どういうことか説明してくれるよね?」
その後、アイリスがニッコリと微笑むと彩音はその圧に観念したらしく理由を話し始めた。
「いや~、それが広まれば合法的にゲット出来るかと思いまして……」
「フェチを否定する気はないけど……。ダメだ。この娘」
「……洗濯は彩音さんに一任するのでそういう事は止めて下さい」
「えっ、本当? ヤッターーッ!」
ミズキの許可によりこれで彩音が変な習慣を広めたりする事はないだろう。
「さて、ギンカがダメだったので最終手段を発動させます」
『最終手段……っ!?』
アイリスの言葉でみなに緊張が走った。
「それはこれです!」
*********
ギンカが去って少ししたら入れ替わりの様にフィーネがやってきた。
「ユーリさん」
「おっ、フィーネ。お疲れ。皆の世話大変だっただろ? ありがとうな」
フィーネは影の立役者だ。彼女が居なければリリスたちを呼ぶ事は出来なかった。
「ユーリさんも落ち込んでしまう程大変だった様ですね。お疲れ様です」
そう言ってフィーネはしなだれかかる様に膝へと座ってきた。
「フィ、フィーネさん!?」
「今のユーリさんに必要なのは赤ちゃんの様に甘える事です。今は全て忘れて吸い付いて下さい」
どうやらギンカと同様に慰めにきたらしい。
そして、フィーネは授乳するかの様に片胸を出して俺の顔に近付けてきた。
「えっ、ちょっ、あのっ!?」
フィーネにそういう趣味は無いので、俺は突然の展開に動揺した。
「……吸いたくないのですか?」
「全力で吸い付きます。……じゃなくて、慰めるなら別の手段を考えようね!? それとフィーネは恥ずかしいのを我慢してるでしょ!どう見てもフィーネの意志じゃないもんね!顔や首筋が凄く真っ赤だよ!!」
「みっ、見ないで下さーーい!」
フィーネは照れを全力で隠している様子だが、身体は正直で真っ赤に火照っていた。それを指摘すると彼女は恥ずかしさのあまりに逃げ出してしまった。
**********
「そっ、そんな!? フィーネが拒絶されて逃げた!?」
『なっ、なんだってっ!?』
アイリスたちには位置の関係上、恥ずかしさを我慢して逃げるフィーネが拒絶されて逃げる様に見えていた。
「どっ、どうしよう!もう手段がないよ!?」
「夜の営みで慰めるのは無理そうですしね」
「一体どうすれば……?」
皆はフィーネがダメだった時点で性的なものはダメだと理解した。その為、凄く悩んでいるのである。
「……あの〜っ、普通に祭りに連れ出すのはどうでしょう?」
『祭り?』
「昨日学校で聞いたのですが、来週には魔王国で大きなお祭りが有るんです。そこでユーリさんにサプライズをしませんか?」
「あっ、それ良いかも。イナホちゃん、その内容詳しく聞かせて!」
「今は出来る手を全て行いましょう」
こうしてユーリが魔王国の祭りに参加する事が着々と進められて行くのだった。
その日の夜。
「えっ? フラガラッハ直ったの?」
「私の竜心の欠片がそんな事に……凄く嬉しいです!本当の意味で一心同体ですね!」
フラガラッハが直った事を正直に打ち明けた。
マリーはフラガラッハと共に俺の中に溶け込んでいると知ると喜んでくれた。
皆もそれを聞いてホッとした表情をしていた。とても心配をかけてしまったらしい。
お詫びに嫁さん全員とお祭りを楽しむ事を約束した。