六芒結界
マガツミとの決戦を前に多くの猛者が首都へと集められた。俺はその人たちに今回の作戦内容を説明する事になった。
「天使の皆さんには森の周囲に展開し、マガツミの元へと集まろうとする眷属の討伐にあたって下さい」
マガツミとの戦闘になれば散っていた禍罪の犬たちが集まってくるだろう。その数は不明な為、神気を持つ天使にあたってもらう。
「竜やCランク以下の冒険者の皆さんには、マガツミを抑える結界を展開しますのでその維持にあたって貰います」
作戦の要であるマガツミを抑え込む神気による結界陣。それには神気持ちが必要になる。
アイリス、マリー、ギンカ、イナホ、ミズキ、リリィの6人にお願いし、結婚指輪を基点に魔法を発動してもらう予定だ。
そして、発動してしまえばマガツミも危機を感じて基点に反撃を仕掛けてくるだろう。だから、竜種や冒険者たちにお願いする事にした。
「残りの冒険者たちは俺たちと共にマガツミを討つ。冒険者の皆には回数制限が付くが神気を宿した武器を支給するので、それを使って支援して欲しい」
わざわざ家に帰って取ってきた魔力結晶を鍛冶職人たち総出で武器に装着したものだ。その為、常時神気を纏っているのでマガツミにも通用する。
しかし、同時に魔力結晶が尽きればただの武器に戻ってしまう。だから、サポートに徹してもらう事になった。
「それでは健闘を祈ります」
こうして戦いが始まった。
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戦いは天使たちの攻撃を以って始まった。
森への進軍がしやすい様に潜む敵たちへ向けて多量の光槍が降り注ぐ。それは暗い森を照らす標となっていた。
「おかげであっさりと目標地点に辿り着けたよ。でも、ここからが本番ね。ユーリ」
左手の薬指に結婚指輪を付けて結界の基点に立った私はユーリに準備完了の念話を送った。
「(ああ、結界に反応して襲ってくると思う。アイリスには大変な役目を頼んでごめんね。なるべく早く倒すから)」
「むしろユーリの方が大変でしょう? 無理はしないでね。結界は何時でも行けるよ」
「(マリーとギンカもイケるか?)」
「(イケます)」
六芒結界と言っても三角形の陣を2つ重ねた物だ。
私たちが作るのはマガツミを封じて固定する為の陣。イナホちゃんたちが作るのが外界と隔離する為の陣だ。
「(なら始めてくれ。六芒結界陣のメイン。トライデントサークルの展開を頼んだ!)」
「「「了解!」」」
私たちが指輪に魔力を込めると淡い光の柱が立ち昇った。
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森の中から天へと立ち昇る光の柱が見える。このままではそこを目掛けて化け物たちが襲撃するだろう。
でも、私たちがいる以上決してそんな事をさせるつもりはない。
「皆、聞えてますか? アイリスさんたちが始めたのでこちらも始めますよ?」
私がインカム越しに話すと返事は直ぐに返ってきた。
「イナホちゃん。こちらは何時でも行けますよ」
「こちらも同じです」
「では、宜しくお願いします。ミズキさん。ラズリさん」
私たちもアイリスさんたちに続く様に結界を発動させた。
それにより周囲の魔力が反応して同様の魔力柱が巻き起こる。今後はそれが危機を知らせる役目にもなるだろう。
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結界の発動を確認した俺たちは即座に動く。
「ここからはスピード勝負だ。全員突撃!」
昨日から閉じ込めたままのマガツミに向けて転移門を開き皆を移動させた。
「良かった。間に合ったみたいだ」
閉じ込めた方の結界がボロボロになっていたが、マガツミは以前と変らずそこにいた。
しかし、違う点もある。それは人型の禍罪の犬が複数体いたのだ。
奴らは少しでも早くマガツミの拘束を解こうと障壁を外側から叩いていた。
「ユリシーズさん!?」
禍罪の犬の視線が一斉にこちらへ変わり同行していた冒険者が動揺の声を上げた。
まぁ、当然だろう。この人数が転移により突然現れたのだ。禍罪の犬が気付かない訳がない。
「戦闘開始。死なない様に気をつけて」
そして、この場での戦闘が幕を開いた。
……開いたのだが、戦況はあっさりしたものだ。
人型の禍罪の犬は耐久は有るものの俺たちの攻撃で早々に倒された。冒険者に渡した武器のおかげかもしれない。
そして、マガツミの方は俺たちの攻撃で拘束が解けたが、守りに徹して反撃して来ないのだ。
「……何を考えてるんだ?」
以前戦った時は全力で反撃して来ただけに違和感を覚えた。
しかし、その答えはアイリスたちの念話によって直ぐに分かった。
「(ユーリ、大変! 新型の禍罪の犬が現れた!! 今までで一番強い!!)」
「(こっちもです!どうやら神気にも耐性があるらしく直ぐに倒せません!)」
「(……ご主人様。私の方にも新型と思しき禍罪の犬がいるのですが、どうやら今召喚されたみたいです。突如襲撃されました)」
「なっ!?」
ギンカの言葉にマガツミを見ると無い顔がニヤリと笑った気がした。
「(ギンカの話で合ってるかも……結界内に放ったスライムたちから禍罪の犬がポップしてるって伝わって来たよ!)」
しまった……。外界との隔離を優先して内部への召喚防止を考えていなかったのだ。
「3人はどれくらい保ちそう?」
「(私は今のままなら耐えられるかな? 人数多いしなんとかなってるよ)」
「(こっちもです。神竜系統の子たちが頑張ってます)」
「(私も大丈夫そうです)」
どうやら結界の内で最も重要な為、人員を多く登用していた事が功を奏したらしい。
ただ問題はイナホたちの方だ。
放置も検討していたので人員はアイリスたちの半分程しかいない。その為か念話の出来ないイナホたちに渡したインカムからは危機迫る状況が伝わって来ていた。
「ヤバそうなら本当に放置して良いからね。その時はアイリスたちの方に回ってくれ」
アイリスたちの結界が壊れない限り俺たちにはまだ勝ち目が残っている。
「皆、マガツミを直ぐに倒すからそれまで辛抱してくれ!」
俺がフラガラッハを出して構えるとマガツミも状況が変わったと認識したのかこちらへと向き直った。
そして、目の前には多量の禍罪の犬たちが出現する。この後の激戦が予想された。
「まぁ、でも、ここまでは予想してはいたんだよね」
俺はニヤリと笑うと同時に装備していたインカムから声がする。
「ご注文は颯爽と登場するお嫁さんですか?」
「はい、お願いします」
「代金は祝福の付与になりますので忘れずに」
「頑張ります……」
そんな会話を皮切りに各所では快進撃が始まった。