辿り着いた先で見たものは
召喚獣たちが引く荷台は馬車とは比較にもならない程速く、森を気にすることも無く俊敏に駆け抜ける。その為か乗っている者たちは。
「うぉおおーーっ、落ちる!落ちる!!」
「痛い痛い痛い!お尻が痛い!!」
「ダメ……吐きそう……」
「「吐いちゃダメっ!?」」
魔法で障壁を張っているので枝などがぶつかってきても怪我は無いが、揺れが原因で吐き気などを催していた。
そんな中、場違いな連中がいた。
「イケーっ、もっとだ!!」
「そこのコーナーで抜くのです!」
「もっとだ!もっとスピードを出すんだ!!」
それはレースを始めた竜種たちだ。ちゃっかりうちのマリーやフィロも参加している。しかも、凄く楽しそうだ。
レースのルールは単純で街へのゲート100m前に辿り着いた方が勝ちというものだ。だから、隣の荷台と疾走中にぶつかる事もあった。
「おい!さすがに無茶し過ぎだろ!?」
「荷台がっ!?荷台が少し欠けたよ!?」
これは辿り着く前にレースが終わるかもしれない。
「準備に時間が掛かったんです。急ぐに越したことは有りません」
という理由で俺たちの意見は却下された。
「分かった!なら、自分の周りだけは魔法を使うからな!!」
「それはどうぞ」
「空間制御!」
荷台全体を魔法で包み込む。そのかいあって荷台と俺たちは重力から解き放たれた。一種の空飛ぶソリみたい感じで疾走する。
『ズルっ!』
「ズルくねぇよ!馬鹿野郎!!」
竜種たちからは非難の声が挙がったが、こっちは尻の痛みや魔法で落車は無いけど落ちそうな恐怖を味わったこともあって口調が強くなった。
レースの結果、夜に着く予定だったが夕方には目的の街へと辿り着いた。
「ここが『レセプト』か」
辿り着いた街は竜種フォレストの王が治める国の最南端に位置する街『レセプト』だ。街の特徴としては魔女の国を彷彿させる様な巨大な木が街の天井を覆っていた。
違いがあるとすれば木に実っている木の実たちが星々の様に輝いている事だろう。日の入りが近い事もあってその輝きは美しかった。
『綺麗〜〜!!』
皆もその光景に見とれて歓声を上げていた。
「ああ、凄く綺麗だな。木の実がルシフェリンでも生成してるのかな?」
「ユーリ。ルシフェリンって?」
「ホタルの尻尾が光るでしょ? アレを引き起こす物質の名前だよ」
「へぇ〜、そうなんだ」
この感じはあまり理解していないな。まぁ、この世界の化学は錬金術の方に走っているし仕方ないといえば仕方ないかな。
「でも、これだけ綺麗だと人も多そうだね」
「……ええ、とても多いです」
アイリスの何気ない一言にフィロが悲痛な面持ちで反応した。
「「フィロ?」」
「まぁ、ゲートを潜って街に入れば分かります」
「「?」」
その時俺たちはフィロの言いたい事が分からなかった。
しかし、ゲートを潜った先で見た光景に愕然してフィロの言いたかった意味を理解した。
「っ!? まさか、これが全部患者なのか!?」
「ええ、そのまさかです」
街に入って最初に目撃したのは道路に寝かされた数え切れない程の病人だった。あちらこちらからは苦痛な呻き声が挙がっていた。
「この街はシンボルである木を見たさに人の多く集まる観光都市でした。今回はそれが災いしてこの様な結果になったんです」
「ねぇ、フィロちゃん。私が貰った資料だと最初に確認された辺りからこのレセプトまではかなりの距離が離れていたと思うけど?」
「俺の方でもそうなってる。それなのにこの病人の数はおかしくないか?」
事前に渡された資料を広げて確認するも確かに最初の感染者として挙げられた者たちはここからかなり離れた森の周囲に住む人たちだった。
「原因は分かっていませんが……突然これだけの人数が一斉に病に掛かったのです」
「……本当に疫病なのか? これだけの人数が一斉に病になるとは考えられないけど……?」
「中毒の可能性はないの? 水源に毒が混入して村人が一斉に倒れたという話とかなら現実にあるわよ?」
「その線も考えられましたので現存する毒鑑定手段は一通り試し、更に毒消しポーションも色々試したそうです。それから内密な上とてもいい難いのですが……エリクサーでも効果が無かったそうです」
「「なっ!?」」
フィロの言葉に俺とリリィは声が出なくなった。
エリクサーは一種の万能薬。状態を本来の正常な状態へ戻す効果が有る事で病気すらも回復させる事が出来る。
しかし、それが効かないという事は病気の状態が正常だという事を示していたのだ。
「どういう事なんだ?」
「ますます疫病の正体が分からなくなって来たわ。竜種特有の鑑定眼でも病名程度は分からなかったのかしら?」
「ええ、そうです。ただ、分からないというよりは見えないというのが正しいと思います。これは実際に見てもらった方が速いかもしれませんね」
そう提案したフィロは他の皆も集めて患者の鑑定結果をパネル化して見せてくれた。
状態:☓☓☓☓☓
そこに記された状態には伏字が施されており本来の状態を認識する事が出来なくなっていた。
「この様に病名が分からない以上、現時点で行える事と言ったら発現している症状を抑えるだけに留まっています」
最高位の鑑定眼ですらこれなのではお手上げという他ないだろう。
「う〜〜ん、ダメだ。私の鑑定も同じ様に伏字にされてたよ」
「私もダメです」
「私もだね。ユーリ君に教えて貰った鑑定のルーン文字でも分からないや」
他のメンバーも鑑定魔法が使える者は自分で確かめて見るが結果は変わらず芳しくなかった。
「新種の病という事も考えられませんか?」
「マリーちゃん。その場合は伏字にならなくて空白になるから分かると思うわよ」
『えっ、そうなの?』
俺以外も知らなかったのか同じ様に驚きの声を上げていた。
「せめて病名くらい分かれば資料探しの足しにもなるのにね」
「そうですね。それを可能にするなら竜種を超える鑑定魔法でも無いと無理だと思います」
流石に竜種を超える程の鑑定魔法なんて用意出来ないだろう。
『うん?』
しかし、それを聞いた嫁たちの反応は違った。皆の視線が俺に突き刺さる。
「竜種を超える?」
「鑑定魔法の使い手?」
「いますね」
「……そういえばそうだった」
今の今まですっかり忘れていたが、俺の鑑定はマリーたち竜種よりも詳細に解るとお墨付きを貰っていたのだった。
なので、試しに俺も鑑定を行ってみる事にした。
最近投稿がまた安定しなくなってます。
色々あって忙しいですが出来るだけ頑張って投稿を続けたいと思います。