スッポンでなく亀も食べられるそうです
「なっ、何故、貴方がここに!?」
如月さんは、凄く驚いた顔をしている。
「えっ、知らないの? 竜王国の大使が来るって?」
「それは、通達で知っています! でも、名簿にはユリシーズさんの名前は有りませんでした! それに、冒険者じゃないんですか!?」
「いや、冒険者だからだよ。大使たちの護衛という名目で旅行に来たの。一回来てみたかったし」
「なら、卯月も……」
「卯月なら上にいるよ」
「上?」
俺が上を見上げると如月さんも上を見た。そこには、マリーが竜体で旋回している。そこから飛び出す影が1つ。
「……竜種!?」
「そうそう、うちの奥さんで王女のマリー。じゃなくて、……降りてきたから良いか」
「姉ぇええ様ぁああ!」
「あふっ!?」
マリーから飛び出した影とは、卯月だった。彼女は、如月さんへ向かい滑空していき激突。
その影響で如月さんは、お腹を押さえて蹲った。卯月の頭が良い感じにぶつかったからかなり痛い気がする。
「うっ、卯月っ! 貴方ねぇ、ちゃんと減速しなさいよ! 減速! 凄く痛かったじゃない!!」
「如月姉様が、人柱として死のうとするのがいけないんです!!」
「仕方ないじゃない! 誰かが犠牲にならないと時間も稼げないのよ!!」
「仕方なく有りません! 諦めずに探すべきです!」
「一体、何が有るってーー」
「はいはい、喧嘩は後でね。何故なら、斬っ! まだ、一応戦闘中だよ」
ユーリが振り向き様に振るった剣により、2つの塊が落ちてくる。それは、サーペントトータスがひっくり返った事によりこっちを向いた尻尾の蛇だった。
本体は、起き上がろうとジタバタしているが、尻尾の蛇は独立しているのか、ユーリたちが喋っている隙に襲おうとしたのだ。
「そっ、そうでした!」
「如月さんに、2つ質問。俺がコイツを狩るってあり? 後、素材の一部って貰える? 最低、尻尾だけでも欲しいんだけど」
「えっ? もっ、問題ないですよ。魔物の素材は、討伐者に帰属するので……」
「よし、狩ろう! 今日のご飯は、亀鍋と唐揚げだ!」
鑑定結果を見ながら気合いを入れる。
説明:この魔物は、食用可能で本体と尻尾の蛇で肉質が違います。本体は、筋繊維によりコリコリしています。尻尾は、蛇肉と違い骨が少なくあっさりしています。
オススメ:骨からは、上質なスープが取れ、肉はコラーゲン豊富で美容に良いです。まだ、夜は寒いし、一石二鳥の鍋で行きましょう。
尻尾は、唐揚げ一択。蛇の様な細かい骨は有りませんので、サクサクに召し上がれますよ。
スッポンが食える様に、亀も食えると聞いたが、コイツは食用だった。なら、当然狩るでしょ!
「狩るって正気ですか!?」
「でも、狩らないとまた死のうとするでしょ? それに、たまには魔法を連発してストレス発散させたいし」
ついでに、人助けといこう。
「っ!? 姉様離れますよ!」
俺が魔法を連発すると聞いて、卯月が慌て出す。
「えっ、でも!?」
「ユーリさんが本気で魔法使うと定例会の比じゃないんですよ! だからこそ、離れるんです!!」
「あっ、待って! 飛べる! 自分で飛べるから!!」
卯月は、如月さんの腰に手をまわすと飛び立った。
「如月姉様……少し太りました? 重いです」
「ふっ、太って無いわよ! バストがワンカップ上がっただけよ!!」
「……落とします。自分で飛んで下さい」
卯月は、空中で如月さんを落とした。
「えっ? ちょっ、なんでぇええーー!?」
如月さんは、突然の事でびっくりしたのか、少しの間スカイダイビングした後、1人で飛び立った。
「何してるの、あの2人……」
その頃、ユーリは、サーペントトータスの尻尾を完全に切り終えた所だった。
切った肉塊をアイテムボックスに収納しながら、上が騒がしいのに気付く。見上げると2人が言い争ってるのが見えた。
「……とりあえず、危険はなさそうだし。討伐を続けるか」
ユーリは、サーペントトータスの本体に目を向け、不敵な笑みを浮かべるのだった。
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山頂にある部隊集結地点。
そこにいる者たちは、一様に呆然としてた。
「えっ? ええっ?」
何故なら、先程まで苦戦を強いられていた巨大な魔物が、宙を舞いひっくり返ったのだ。現在は、サーペントトータスは起き上がろうとジタバタしている。
「何が起こって……」
そうこうする間に変化は進む。甲羅上に無数の爆発が発生したのだ。それが収まると、再び巨体が宙を舞った。そこで、また複数の爆発が起こる。どうやら、誰か攻撃しているようだ。
「誰がやっているんだ? 如月様か?」
「いや、如月様は火の魔法が苦手の筈だ。彼女ではなかろう」
「クソッ、砂煙がまた舞ってよく見えやしねぇ!」
「誰か、確認に……おわっ!?」
突如、谷間から衝撃が駆け抜ける。突然の事に対応出来ず、何人もの人が吹き飛ばされた。そして、再び谷間を覗き込んだ時には……
『ええぇーー!?』
焼け焦げて甲羅の無いサーペントトータスがいた。
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「さて、どうやって倒そうか?」
ユーリは、悩んでいた。理由は、手元の鑑定結果を記したパネルに書かれている続きが原因だった。
説明:内蔵は、毒袋や石化袋、溶解袋等の有毒器官を多く有する為、食用不可です。特に、内部に有る溶解袋は、傷付けない様に注意。壊すと肉がダメになります。ただし、有毒器官は通常の器官と異なり丈夫な為、切断さえしなければ大丈夫です。
「……溶解袋何処よ?」
内蔵の位置が分からない為、フラガラッハによる一刀両断出来ないのだ。クビを斬れれば楽なのだが、常に折り畳んでいる。
「仕方ない。甲羅を砕くか」
とりあえず、巨大なハンマーに形状を変えて叩く。甲羅は、少し欠片が飛ぶだけで割れる気配がしない。
「そういえば、硬い石を割る時は、複数の穴に雷管詰め込んで起爆するんだっけ?」
思い立ったら、即実験。
ドリルにして穴を……面倒くさかったので、素直にジャッジメントを撃つ。火の竜撃弾なら貫通効果が有るから行けると思った。
「おっ、イケそうだ」
撃った所に穴が空く。深さは、少し身が焼ける程の深さまでだな。甲羅だけでなく、身にも魔力耐性が有る様だ。
「はいはい、暴れないの! まだまだ、撃ち込むからね!」
威力が分かった所で、ジタバタするサーペントトータスを無視して、撃ちまくる。
「よし、出来た」
甲羅の裏に火の刻印が完成。魔力を込めると甲羅を基点に爆発します。
「念の為に、表もしよう」
重力魔法でこの巨体をひっくり返す。普通なら無理だが、相手の力を利用すると簡単に返せる。
まずは、重力魔法で上から押し付けて、反発した瞬間、軽くして引っ張り上げる。そうすると反発した力に引く力が加わって、ひっくり返る訳だ。
「だから、暴れるんじゃないよ!」
「ぐぎぃ!?」
ひっくり返した瞬間、更に暴れ出したので、ハンマーに魔力を込めて頭部を殴る。なんか、バキッという鈍い音がして静かになった。
静かになった所で、作業再開。
表の甲羅にも火の刻印を刻み込む。裏より厚かったので、時間は掛かったものの無事刻印完了。
「着火」
ユーリは、この時忘れていた。甲羅に刻印したと言う事は、甲羅の前で爆発が発生するのだ。
つまりは、肉と甲羅の間で爆発すると言うこと。なら、その威力は何処から逃げるか?
当然、隙間が多くて脆い方……甲羅からである。なら、そこに乗って着火するユーリはというと……。
「あっ?」
甲羅の爆発に巻き込まれて、吹き飛ぶのだった。




