サーペントトータス攻略戦
桂花近郊にある玄武山の谷間では、激戦が繰り広げられていた。
「魔法班は、正面から攻撃!威力は問いません、手数重視で行いなさい! サーペントトータスの意識をこっちに向けます」
ギルドマスターの睦月は、矢継ぎ早に指示を出す。
「その間に近接部隊は、尻尾の蛇に気を付けつつ手足を攻撃! 奴の行動を抑制しなさい! 封印班は、術式の発動を急げ!」
この場所には、桂花にいる冒険者の最高戦力が集っているが、サーペントトータスにダメージを与えているようには見えない。
「しかし、誰が封印を?」
睦月は、当時の事を思い返す。およそ200年前、睦月がまだ生娘だった頃、多くの犠牲を出して封印した。
その事は、忘れようとも忘れられない。何故なら、自分の母がそれに含まれていたからだ。
母は、天狗族の中で1番の高魔力保持者で、当時のギルドマスターを務めていた。その為、率先して人柱となったのだ。
そんな風に多くの犠牲を出した事も有り、封印は厳重でそうそう解けるものでは無い。
時間の経過による劣化も挙げられるが、それは無い。年に一度、封印を更新する儀式と共に確認しているからだ。
故に有り得るのは、何かしらの外的要因。例えば、誰かが故意に封印を解いたとか。……今は考えるより攻略が先だ。
「睦月様! 魔力の増大を確認! ブレスがきます!!」
「っ!? 総員、多重障壁展開! 耐えて!!」
その瞬間、周囲を衝撃が襲う。サーペントトータスの口から放たれたブレスが直撃したのだ。
「現状確認!」
「……戦闘不能者多数続出っ! しかし、奇跡的に死者は、出ていません!」
ブレスは、1分程続いたが、事前対策のお陰で死者はいなかった様だ。それでも、魔力消費により戦闘不可能な者が多く出た。
「彼らを後衛に下げーー」
「大変です! 近接部隊が壊滅してます!」
「どういう事!?」
「前方のブレスと同時に甲羅より石化の霧、尻尾からはブレスが放たれたもよう! 多くの者が、石化しています! 護符の影響で、ダメージは軽微ですが、戦闘不可能だと思われます!!」
石化の攻撃には、障壁は役に立たない。障壁ごと石化してしまう為だ。これにも事前対策しては居たが、完璧に防ぐ事は出来なかった様だ。
「飛行能力がある者は、石化者の救助優先! 攻撃を一次中断します!!」
どうやら、私も覚悟を決める時が来たようだ。
「……如月たちを呼んで。それと各種部隊のリーダーたちも。新しい作戦を行います」
「了解しました」
伝達は、直ぐに伝わり、各部署のリーダーと参謀、それから娘たちがやって来た。
「新しい作戦と聞きました」
「ええ、その話を行います。その前に現状把握をしましょう。お願いね」
「はい。現在、戦闘可能な者は全部で28名。戦闘不能者、72名。それは、魔力不足によるもので回復ポーションを使用しても無理です。
また、封印に関しては、簡易的な物なら起動可能です。しかし、外部への損傷を与えられなかった為、内部からという条件付きになります」
「封印班もやられて、今は簡易封印しか出来ないわ。しかし、人柱を用いた封印なら1週間ほどは保つわ。そうよね?」
「はい。睦月様ほどの魔力量なら1週間は確実でしょう」
私の経験からそうだと思ったが、封印班のリーダーが言うのだから間違いない。
「まさか、新しい作戦って!? ダメです、お母様!!」
「お願いします! まだ、私たちには睦月様……お母様が必要なんです!!」
公務上、お母さんと呼ばない我が娘がそう呼ぶ程に衝撃だった様だ。
「だから、その後の事を伝えます。如月は竜王国へ行き、ユーリ君と卯月の伝手を頼りなさい。竜種の協力を得るのです。弥生は、副ギルドマスターと共に和王へ謁見し、竜王国から竜種を派遣する事について説得して」
昔と違い、今は竜王国と国交を開いているし、娘を介した個人的な繋がりもある。竜種たちならサーペントトータスを倒す事は容易だろう。
「しかし……」
「これは決定です。……ダメな母親で、ごめんなさいね」
「分かりました」
「如月姉さん!?」
「封印の発動キーはどれです」
「コレです。これを持って内部に入れば、外部のと反応して発動します」
封印班のリーダーが、箱に収められた結晶を如月に見せる。
「……そうですか。お母様、最後に公衆の面前ですが、抱き締めて良いですか?」
「……ええ、好きにして良いわよ」
如月は、睦月に近付き抱き締める。睦月もそれにならい抱き締め返す。
普段、立場を理由に母娘の触れ合いすらしていなかったのが、残念で仕方ないと思ってしまった。
こんな事ならもっと触れ合っておくべきだったわね。
「……お母様が、死ぬ必要は有りませんよ」
「えっ?」
首筋からチクリという痛みが走る。それと同時に意識が揺らぎ、全身から力が抜ける。
「如月……何を……?」
「そのまま、お眠り下さい。後は、つつがなく行っておきます」
「………」
ダメと言おうとしたけれど、視界は暗転し意識が落ちた。
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突然、崩れ落ちた睦月を如月は受け止め、地面に寝かせる。
「如月姉さん、何を?」
「睡眠針です。こんな気がして、1本持って来ました。まだ、お母様には死んで欲しく有りませんからね。人柱は、私がなります」
如月は、そう言って睦月に使った睡眠針を投げ捨てた。
「なら、私もやるよ! 如月姉さんを一人に出来ないもん!!」
「分かっているのですか? 死ぬんですよ?」
「分かってるよ! 誰かが犠牲にならないといけない事も!!」
「……そうですか。なら、一緒にいきましょう」
「うん!」
優しく差し出した如月の手を弥生が取る。その手に如月が手をかざすと弥生の表情が歪む。
「痛っ!?」
「ごめんなさい。嘘を付きました。実は、2本持って来てたの。私が死ぬのは良いけど、母様や妹が死ぬのは嫌なの。我がままに付き合わせて、ホントごめんなさいね」
「如月姉さん……」
如月は、苦笑いを浮かべながら謝罪する。弥生は、薄れゆく意識の中、それを聞く事しか出来なかった。
如月は、2人が眠ったのを確認した後、宣言する。
「これより、私は人柱となります! 各員、配置に付きない!」
皆は、直ぐ様如月の言葉に従い動き出す。この戦いにより誰もが、時間を稼ぐにしろ、討伐するにしろ、人柱は必要と考えたからかもしれない。
「私なら睦月様と同等の魔力量を有します。なので、問題は無い筈です。違いますか?」
皆が配置に着く中、一人残った封印班のリーダーに問いかけた。
「問題は有りませんが……」
封印班のリーダーは、眉を潜めながら寝かされている睦月と弥生に視線を向けた。
「良いのですか? こんな形でお別れになって?」
「構いません。私が決めた事です」
「……ならば、お止めしません。ご武運を」
「ええ、頑張るわ。後の事は、目覚めた2人と相談しなさい」
「御意」
こうして、如月を人柱とした作戦が行われる事となった。
数刻後、如月は、目標の進路上に一人で立っていた。周囲には、誰一人いない。
「……少し怖いわね」
怖いのは当然だ。今からするのは、魔物に喰われるという自殺行為なのだから。
「さぁ、おいで」
眼前にいる如月を把握したサーペントトータスは、全力でこちらへと向かってきている。
サーペントトータスには、暴食の傾向があるのだ。例え罠であっても空腹なら獲物を丸呑みする。それは、前回の件からも明らかだ。
現在、封印から目覚めてから2日目。
周囲の生き物たちは、サーペントトータスの目覚めに反応し逃げた為、捕食出来ず空腹なのは違いない。現に、全力で迫っている。
「私を貴方にあげます。だから……」
少しの間、大人しくしてと願った瞬間、変化が起きる。
「重力衝撃波!」
「!?」
サーペントトータスが宙を舞い、反転して地面にぶつかる。その衝撃は、周囲を覆い隠す程の土埃を巻き起こした。
「えっ……ええっ!?」
「驚いた顔も可愛いんですね。でも、こんなデカいだけのクソ亀野郎に、自分をやるくらいなら俺が貰うよ。だって、如月さんなら嫁にしたいくらいだし」
「ユリシーズさん!? なんで居るんですか!?」
土埃が晴れた後には、剣を肩に担いだユーリが佇んでいたのだった。




