俺流の面接
俺の店の面接には、建物を1つ貸し切り行われた。
応募者に合わせて、面接に関わるスタッフも入れると200人程だし、仕方ないといえば仕方ない。
「では、人数が多いので5名ずつグループになって控室に移動して貰います。その後、名前を呼びますので個人面接に移らせて貰います」
マリーの説明に、応募者たちは頷いていた。
応募者たちは、貧困層から高級層まで色々集まった。
特に、貴族の様な人が1人居てびっくりした。しかし、身分や身なりだけで選ぶ気はない。
人種についても様々な種族が集まってくれた。
多種族国家の影響もあるのだろう。でも、竜種やエルフ等の長命種が多いのが気になる。
「長生きすると美味しい物に目が無くなるんですよ」
隣に居たスルーズから内緒話で説明を受けた。どうやら、募集の宣伝で配布した試供品のお菓子が原因みたいだ。
「スルーズさん、E室に移動して下さい」
「それでは、私も配置に付きます」
「ああ、頼むよ」
今回の応募者には、サクラとしてうちの連中をかなりの数混ぜている。人数は、応募者4人に対して1人という感じだ。だから、5人一組でグループとなる。
俺も混ざる為に、普段着の文官服でなく市民寄りの服装をした上、認識阻害メガネを着用して変装した。当然、名前も偽名だ。
理由? だって、面接官するよりそっちの方が面白そうだし。
ちなみに、これの目的は、会社の人気アピールと面接だけでは見えない応募者の人となりを見る為だ。特に後者を重要視している。
理由は、面接なんて練習すればそこそこ出来るし、真実を言ってるけれど偽りという事もあるからだ。
「ーーさん、それからリュシーズさんは、F室に移動して下さい」
俺の偽名が呼ばれた。メンバーは、全員人間の様だ。貴族の様な人もこっち入れられた。たぶん、わざとそうしたな。これは、どうなる事やら?
さて、楽しみながら人間観察をするとしよう。
案内は、リリスだった。彼女は、嘘が苦手なので、スタッフとして案内係をして貰う事になった。
「面接まで時間がかかりますので、我が社の販売予定のお菓子や製品で作った料理を食べながらお待ち下さい。また、持ち帰り用の容器も置いておきますので、ご自由に持って帰って構いません」
食事風景って、素が出易いよな? だから、組み込む事にしたのだ。
持ち帰り許可を出したのも製品アピールの一貫。ついでに、詰める様子も観察する。
「あの〜、良いんですか? 後で、お金取られたり……」
1人の女性が、軽く手を上げてリリスに質問した。
「ユーリ様のご好意でタダとなっています。遠慮なさらずにどうぞ」
「ありがとうございます」
「それでは、呼ばれるまでお持ち下さい」
そう言って、リリスは部屋から出て行った。そしたら皆態度が変わる。
「やったー!妹にもこれを食べさせられるなんて!」
「俺も病気の母ちゃんに食わせれるぜ!さっそく、取り分けよっと!」
「……久しぶりのご飯。友達たちにも……ダメかな?」
おっ、この子たちは自分より他人を優先するみたいだな。好感が持てる。加点20点。
観察は、100点満点からの加点減点方式で行う。点数が30点未満なら即座にアウト。逆に150点越えたら即採用予定だ。
「友達の為に持って帰っても良いんですよ。ご自由にと言っていたので。なんなら、私の家族の枠で貰って上げますよ。それより、食事はどうです? これ美味しいらしいですよ。……うん、美味しい。ほら、貴方もどうぞ。食べて美味しかった物をお土産にされては?」
俺は一口食べた後、別の皿に料理を取り痩せ細った少女に渡した。恐らく貧困層の出なのだろうか。裸足な上に服もボロボロだった。
「……ありがとう」
「ささっ、皆さんもどうぞ」
ついでに他の人にも料理を盛り分けた皿を配っていった。
「まぁ、ありがとう!」
「おっ、マジか!済まねぇな!」
そんな風に大抵の人は素直に受け取ってくれた。しかし、貴族風の男はというと……。
「いらん」
「要らないんですか? 美味しいですよ」
「知ってる。貴様たちとは違い頻繁に食えるからな。そもそも、何故貧しい者たちと一緒に食事せねばならん?それに貴様たちの様なみすぼらしい者たちが受かると思うのか?」
この発言に周囲の空気が止まった。
コイツは何様なんだ?
俺だけでなく周囲の目もそう告げていた。とりあえず完全に上から目線で気に入らない。コイツの評価はさっそく減点50点としておこう。
「へぇ〜っ、それでは貴方は受かると? 何故です?」
「ふん。貴様らとは違うのだよ。既に商会ギルドから派遣された面接官には裏で手を回しておいた」
ああ、だからカリスさんが当日に面接官を変更したのか。
「たぶん、受からないと思いますよ」
俺自身が採用する気が全くないし。
「おい、ふざけるな!こっちは、両親の医療費稼ぐ為に受かりたいってのに!」
「私も家族を養う為に、受けに来てるのよ!」
「……私も路地で身体を売る仕事から抜け出したくてきた。貴方の様な裕福な人がこれ以上何を望むの?」
皆も彼の発言に怒りを覚えた様だ。偶然だが応募者たちに聞きたかった目的も聞こえた。聞く限りでは、皆良い人たちばかりだな。加点20点としよう。
……それとお金を出せば買えるのか。磨けば光りそうな子だし……げふんげふん。さすがに、アイリスたちに怒られるな
。
「ユーリとかいう成り上がりとコネを作る為だ。これでも貴族だけでなく、裏との繋がりも有るからな。それらを利用して、あの者に取り入り、我が家を発展させるのだ」
成り上がりねぇ……事実だけど。コイツには減点20点追加と。
「なるほど。悪人だから普通に申請しても却下され会う事が出来ないから来たんですね。
でも、そんな態度だとユーリ様に直ぐにバレますよ。もしくは、私たちが言いふらすし」
うちには王宮経由で会談の要望書が稀に届く。大抵の者はレギアスさんが精査後、却下してくれるのでそうそうない。
「誰が真実だと信じる? かの者も貴族だぞ。庶民の話を信じる訳がない。それに女を献上すれば私の話を聞くはずだ。そういう男だからな」
「ぐふっ!?」
傍から見るとそういう男だと認識されてるんだ。結構、胸にグサりときた。
……もうこれくらいで良いだろう。既に1点でも減点すればアウトのラインにいるし。
「リリス!入って来てくれ!」
「はい、参りました」
『!?』
外で待機していたリリスが紙束を持って入ってきた。周囲は彼女の登場で静かになった。
「この貴族っぽい男の情報教えてくれ。さすがに、コイツに関しては事前に少し調べてるでしょ」
「はい、調べて有りますよ。俗にいう没落貴族の様ですね。多額の借金も抱えている様で、この機会にユーリ様に近付き取り引きを持ち掛ける予定だったみたいです」
「取り引きの内容は?」
「ええっと、事前調査だと何処ぞでユーリ様が奴隷や貧しい者を多く助けている事を知り、屋敷の奴隷たちを買わないかと提案する予定だった様です」
「っ!?」
どうやら図星みたいだ。というか奴隷は犯罪ですよ。俺も疑惑でよく捕まるから詳しくなった。
「ちなみに、情報源は騎士団からです。
使用人が奴隷で売られた件に関して家宅捜索する為、時間稼ぎをして欲しいとの事でした。
なので、ここでなら確実に会えると情報を流し、このグループに組み込みました」
「なるほど。理解したよ。では、貴方を不採用させて頂きます。さっさと帰りな。お前の様なクズと取り引きする気もない」
「何故、貴様が決める!ふざけるな!!」
「ここまで言って気付かないってどうなのよ? 他の者たちは既に気付いているみたいだけど?」
周りの人たちは驚きのあまり口を塞いでいたり、呆然としていたりしている。俺はメガネを外し真紅のコートを羽織った。
「あっ、貴方は!?」
さすがに、真紅のコートを着れば分かるか。
「貴方以外は、採用とします。今後も私に関与する様なら全力で対応しますのでお覚悟を。……死すら生温い」
「おっ、お待ちを!? 私は、ただーー」
「リリス。彼を詰まみ出して外に塩!」
「了解です」
「お待ちを!?お待ちになって下さい!?どうかどうかっ!?」
男はリリスに引きずられて消えていった。俺は背後を振り返り宣言する。
「合格おめでとう。皆さんを採用させて頂きます」
その場の勢いで採用してしまった。これは、予定より多くなりそうだ。




