狂乱の宴 3日目
3日目朝。最後の戦いが始まる。
「予定通り、イナホちゃんたちは、マリーを釣る為の囮をお願い!スライムたちの猛攻で疲労しているからそこそこイケると思うの」
「了解しました」
「イナホと牽制しながら逃げるわ」
「ギンカは、重力魔法で拘束。その後、ガーネットは、トラップを起動して」
「「了解です」」
「もし、勝って生き残る事が出来たら、皆に必要な数だけのペンダントを配るね」
「アイリスさんが、ヤラれたらどうするんですか?」
「その時は、皆で奪いあってね」
「え〜っ……」
「それじゃあ、クレアたちはスライムが監視しているから、予定通りにマリーたちを倒そう!」
『おうーー!』
こうして、作戦は開始された。
**********
アイリスの指示により、スライムたちに襲われなかったモカたちは、無事夜を越すことが出来ていた。
「結局、スライムたちは襲って来なかったね」
「アイリスお姉ちゃんが何かしたのかも?」
「様子を見に行きますか?」
「アイリスさん、ペンダントを沢山持ってたよね?」
「はいなのです。お兄ちゃんのペンダントを譲り受けたので、9個になっている筈です」
「なら、取られた後に逃げても追って来ない可能性あるよね?」
「ヒットアンドアウェイという事ですか?」
「うん。三方向に分かれて逃げれば、面倒くさがって追って来ないんじゃないかと思って。ペンダントが沢山ある事で別に追わなくて良いかなと思うかもしれないしさ」
「いい考えかもです」
「なら、アイリスさんを探しましょう。ドライアドのトリシャさん情報だと、教会側にセーフゾーンがあったらしいし。行ってみましょう」
「「了解」」
こうして、モカたちも動き出したのだった。
**********
皆が動き出した頃、住宅エリアでは戦闘音が鳴り響いていた。
「ハァ…ハァ……これで、ラスト!!」
マリーの宣言と共に、猫ゴーレムは殴り飛ばされ動かなくなった。
そして、彼女の周りには、スライムだったモノや猫ゴーレムの残骸が転がっている。それらは全て、マリーが破壊したモノたちだ。
スライムだけならまだしも猫ゴーレムが混じっているのは、アイリスが、スライムを使って道を塞いだりして誘導したからに他ならない。
そのせいで、マリーたちはスライムと猫ゴーレムの両方と戦う羽目になっていた。
「しかし、ゴジラキャットは、自爆してくれたので助かりました」
マリーの視線は、残骸の山の中で一際大きいモノに向けられた。それは、彼女たちが戦うのを拒み逃げ出した大型の猫ゴーレムだ。
かのゴーレムは、例のベティと同様に地雷を踏み抜き、倒れた。あの地雷は、対竜用にユーリが作ったものだ。
竜体でも倒す事を想定して、ニトログリセリンや高純度の魔力結晶等を大量に使用している為、大型猫ゴーレムすらも一撃で戦闘不能になる。
「ミズキ、大丈夫ですか?」
「………」
「ミズキ?」
「………大丈夫そうに見えますか?」
ミズキは、服がボロボロになり、完全に座り込んで下を向いていた。マリーに破壊されるスライムが最後の1匹になるまで、ずっと襲われ続けていたので、気力すらも萎えてしまった様だ。
「……見えませんね」
「私は、もう動きたくないので、ここに居ます。だから、一人で戦って下さい」
「……仕方ないですね。まだ、敵は残ってますから気を付けて下さい。まぁ、デリンジャーが有ればなんとかなるレベルしか残ってないと思いますよ」
「ええ、分かりました。……お気を付けて」
マリーは、仕方なくミズキを路上に放置する事にした。
「マリーとミズキが、孤立した!これは、絶好のチャンス!!」
スライムの情報により、アイリスは歓喜する。
「イナホたちも生存率が上がるね!ギンカたち、用意よろ!!」
「ええ、分かってます」
「こっちは、いつでもいけます!!」
その頃、イナホたちは、予定通りマリーに遭遇した。
「マリーさんを発見!攻撃を開始します!!」
「攻撃の合間に隙を作り、マリーを誘導しましょう」
イナホとシオンの射撃が始まった。
連続で放たれる矢と複数の魔法。マリーは、その攻撃を全て正面から受け止めた。
「効かないですよ!そして、今の私は荒ぶっているので、気を付けて下さいね!!」
彼女らの間には、50m程の差が有った。しかし、竜種の身体能力なら三歩ほどで詰められる。
「こっちは、疲れてるです! さっさとヤラれなさい!!」
「「っ!?」」
一気に距離を詰めて来たマリーは、手に魔力を纏いひと振りする。ただ、それだけの筈なのに、斬撃が起き、建物は引掻き傷と共に倒壊する。
「マズイです、シオンさん! 距離を置きましょう!!」
「了解。足を狙うわ!!」
シオンが、マリーの足をめがけて弓を放つ。だが、その矢は逸れてあらぬ方向へと飛んでいった。
「うん? (さっきから矢が逸れてる気がする?)」
妙な違和感を覚えたシオンは、更にマリーへ矢を放つ。しかし、同じ様に逸れて飛んでいく。
「シオンさん!」
イナホの魔法銃から雷の魔法が放たれ、マリーに命中する。しかし、ダメージは無いらしく普通に追ってくる。
「マリー。さっきから私の矢に何かしてるの?」
「気付きましたか? これは、矢よけのルーンだそうです。ユーリさんに教わりました。まぁ、ただの矢程度なら皮膚に弾かれて、殆ど刺さらないから魔法を使う必要はないのですけどね」
「道理で!絶対、後で泣かす!!」
普通の矢でダメだと悟ったシオンは、魔法で創り出した矢を番えて射撃する事にした。
「「(予定地点まで後少し!)」」
「何かを狙ってたみたいですね。ベティの時の様な地雷でしょうか? アースウェーブ!!」
「「!?」」
マリーが地面に手を当てた瞬間、路上が激しく波打った。そして、イナホたちの背後から爆発音が聞こえて来た。
アースウェーブ。それは、土魔法の一種で足場を崩す為に使われる魔法だ。
「やっぱり。でも、これで心置き無く攻める事が出来ますね!」
マリーの猛攻は、勢いを増す。それを防ぐのは無理なので、受け流すもののイナホたちは余波だけで、ボロボロに成りつつある。
「これで、最ーーっ!?」
「「かかった!!」」
マリーは、イナホたちにトドメを刺そうと手を振り上げた瞬間、糸に拘束された。しかも、手だけでは無い。手を始めとした手足首全てだ。
「これは、アイリスの妖魔糸!?」
「正解です。設置しておいた地雷やアイテムは保険だったのですが、良い具合に魔法の囮になりましたね」
「ギンカ!? それにガーネットも!?」
「コレをこうして……と、術式は完了。起動します」
ガーネットの宣言と同時に、ピシッという音が周囲に走った。
「やっ、矢よけのルーンと魔力吸収障壁が解除された!?」
マリーは、驚愕の表情を浮かべ動揺した。
「アイリスの作戦通りですね。すみませんが、ここで落ちて下さい」
「実際、マリーさんが1番の脅威ですから」
「ごめんなさい。私は、囮だったんです。誘導前に倒せればそれはそれで良しという」
「だから、マリー。覚悟して」
「そっ、そんな!? こっ、これじゃあ……」
マリーに向かって、一撃でも当たれば脱落するだろう魔法攻撃が四方から放たれる。
「……まるで、予想通りじゃないですか」
「「「「!?」」」」
マリーに魔法が直撃するかと思われた瞬間、四方に展開された魔法陣に攻撃の全てが呑み込まれた。
「防御系の魔法解除を行う術式は良かったのですが、これは一応攻撃系の魔法なので対象外です。それと何故、魔力吸収陣を用意したか分かりますか? それは……」
魔法陣の周囲に無数の光が灯り……。
「これの威力を上げる為です。カウンターブレイカー!!」
魔法弾となって放たれた。気付いた者たちは、直ぐに障壁を展開する。しかし、無数の魔法弾に障壁は紙の如く破かれた。
そして、周囲からは5つ光が立ち昇った。
マリーは、自分を拘束した糸を力任せに引き千切りながら力を抜く。
「ふぅ〜……これで後は、アイリスだけですね!」
「あ〜っ、やっぱり気付くか〜」
「当然です!」
アイリスは、マリーが気を抜いた瞬間を衝いたつもりなのだが、気付かれて防がれてしまった。
「仕方ない。普通に戦うか。負けても後悔しないでよ?」
「そっちこそ、後悔しないでよ?」
「「ふふっ」」
2人は、微笑むと高速での打ち合いが始まった。どちらも一歩も引く様子がない。打撃戦から魔法戦へ。魔法戦から打撃戦へところころ変わる。
「……ねぇ、マリー。今、何回打撃あたった?」
「……まともに入ったのは、10発ですが何か?」
「なら、これで最後だね!」
「甘い!!」
「そっちがね」
マリーの顔を掴みかかるアイリス。その手首をマリーは掴んだ。しかし、アイリスの手から煙が巻き起こり、マリーは吸ってしまう。
「そんな攻撃……ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ!かっ、から、痺れ……」
その煙は、アイリスの麻痺ガスであった。打撃戦の時にも麻痺毒を付与していたのが、これによって完全に回ったのだ。
「バイバイ!」
マリーが痺れた所をアイリスは、魔法銃で撃った。それによりこの戦いは、終わった。
「これで、マリーは落ちたし後はーー」
ブチッ。バチッ。という音が気を抜いたアイリスに響いた。
「えっ?」
光に包まれ始めたアイリスの目には、ずっと姿を隠していたリリンの姿が映っていた。その手には、アイリスから奪ったペンダントと魔法銃が握られていた。
「どうも〜、待ったかいが有りました。マリーさんの攻撃がヤバくて死にかけましたが、クレアを盾にして切り抜けましたよ。それでは、お疲れ様です」
アイリスは、光になって登って行くのだった。
「いや〜、残り物には福が有るってホントですね!これで、また、隠れればーー」
バン!という音と共にリリンに衝撃が走った。
「ええ〜っ!? マジすか〜!?」
それにより、奪ったペンダントを落とし、光となって登るのだった。その目には、武器を構えたユキたちが映っていた。
因果応報。他人にした事は、自分に返ると言うがその通りになったのだ。
そして、落ちたペンダントは、彼女たちの手に渡るのだった。
この回は、ここで終了です。次からは、いつもの通りの、のんびりとめちゃくちゃが混じった生活に戻ります。




