狂乱の宴 2日目 前編
「ユーリ。ホントごめんなさい。自分でもやり過ぎかなと思ってる!」
移動後に、空へと向かい謝罪するアイリス。何を隠そう、相方にトドメを刺したその人である。
「まさか、アレで脱落するとは思わなかったし……」
大人数は、もう災害レベルだよ!!
と、本人がいたらツッコむかもれないが、生憎そんな事を言う者はいない。
「さて、それじゃあ、共闘相手を探しに行きますか。まともに、マリー達と戦いたくないしね。最低……2チームかな? ペンダントも十分あるし、大丈夫だよね?」
アイリスは、首から下げた9つのペンダントを握りしめた。
何故、アイリスがこんなにペンダントを持っているかというと、ユーリのペンダントを回収したからだ。
夜の営みをやるからには、まず服を脱ぐ。その後、貴金属を外す。
そして、脱落した場合、服以外はそのままになる。その上、アイテム保有権は、チームの物。フィールドなら自由だが、セーフゾーン内なら確実にそうなる訳だ。
「とりあえず、フィロは仲間にしたいわね」
アイリスは、フィロたちを探して歩き出した。
**********
「……何故、死んだ? 誰も映っていなかったから分からなかったが、誰かにやられたのか?」
「あはは……」
ギルさんの問いに苦笑いを浮かべながら、ユーリは視線をずらした。
セーフゾーンでの生活は、プライバシー保護の為、映さないこと。事前に、そう伝えていたから夜の営みは映されていなかった様だ。
「その……色々あったんだよ。まさか、アレにもダメージ判定有るとは思わなかった」
「?」
ギルさんは困惑しているが、俺は説明したくないので諦めてほしい。こういう時は、違う人に話を振るに限る。
「レギアスさん。見た感想は、どうでしたか?」
「ユーリ殿、大変良いものでした。ただ、もう少し広くして頂いても?」
「問題ないですよ」
「助かります。では、後ほど内容を詰めるとしましょう」
「了解です」
俺とレギアスさんの商談が決まった。後日、要望書を見ながら作成しよう。
「お兄ちゃん……」
フランに服を掴まれた。何か、言いたげな様子だったので場所を移す。
「ごめんなさい。アイリスお姉ちゃんに……その……。だから、お兄ちゃんに確認して欲しいの。ダメ?」
詳細は、分からないが、大体の事は理解した。
アイリス、マジで色々やったみたいだな! まぁ、俺も人の事は言えないがな。
数十分後。
問題無かったので、部屋に戻った。賢者モードじゃなかったら、ヤバかった。
「さて、ダフネ。俺が離脱しちゃったから進行をはやくしよう。例のアレを頼む」
「まさか、アレを!?」
「その代わりにルールを変える。チームの生存者がクリア条件も満たした時、報酬を与えよう」
「分かりました。そう伝えます」
ダフネは、狂乱の小世界を操作して、出現したパネルに向かいゲームを進行させる。
「只今より『にゃんにゃんパニック』が開始されます。それに伴ってルールが改変されました。チームの生存者がクリア条件を満たした場合、予定通り報酬が支払われるそうです。また、本日のランダム天気は『スライム』なので、お気をつけ下さい」
「えっ? マジで?」
「マジです」
スライム天気。天気にも遊び心をと考えており、アイリスの提案で採用した。
なお、自分で経験した結果、嫌な天気ナンバーワンに輝いた。そして、奴らは俺を陵辱した。おかげで、女の子の気持ちが少しは分かったよ。どんちくしょー!
「モザイク処理の準備しておいてね。降り出したら、確実且つ直ぐに使える様に」
「了解です」
**********
「うわぁ……」
ダフネの話を聞いた瞬間、マリーは絶望的な気分へと変わった。
「どうしました、マリーさん?」
「今の放送聞きました?」
「え〜っと、『にゃんにゃんパニック』と『スライム天気』の件ですか? よく分からないので流しましたが……」
「にゃんにゃんパニックというのは、竜骨兵を改良して作った猫ゴーレムが大暴れする事です。強さは、そこそこ。でも、大きさが通常サイズから2階建てくらいの身長の者までいます」
「それは、厄介ですね」
「それ以上に厄介なのは、スライム天気ですけどね」
「スライムが降って来るとかですか?」
「そうです。雨粒大のスライムが無数に降ってきます」
「それなら心配有りませんね」
「それが合体して襲ってきます」
「………」
「しかも、暗所を好むので、色々と侵入してきます」
「………」
「あっ、ちなみに害はなく、イチゴ味がします。口に入って来たら食べてみると良いかもしれません」
「絶対に嫌ですよ!!対処法は!?」
「………」
「無いんですか!?」
「いえ、無くは無いですよ」
「そっ、それは?」
「アイリスの側に居ることです。スライム天気も彼女の眷属みたいなものですからね。それか、そうそうに部屋に引き籠もり結界を張るかくらいですかね?」
アイリスとは、随分前に別れたので、何処に居るか分からない。
「なら、部屋に入って結界を張りましょう!」
「ただし、猫ゴーレムの武器には、障壁破壊の効果が付与されている者もいます。しかも、一撃ごとに障壁1枚確定ですね」
「あれ? それ、詰んでません?」
「……快楽に身を任せれば、乗り切れはしますよ」
「それは、諦めてますよね!」
そうこうする間に、空をピンク色の雲が覆いだしたのだった。
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ガシャン、ガシャンと走る度に音を立てる鎧武者姿の猫ゴーレムたち。彼らは、見付けた獲物に猫まっしぐら。
「なんか、まだ追ってきてるー!?」
「攻撃で数をって、多過ぎでしょ!? 更に増えてるし! しかも、魔法を盾で防ぐとか、ズルい!!」
リディアとティアは、大量の猫ゴーレムに追い回されていた。彼女たちが出会ったのは、猫ゴーレム『猫武者』。
ユーリの量産型太刀と対魔盾を持っている。しかも、二足歩行の為、めちゃくちゃ足が速い。
「ひぃいい!!」
「シュール過ぎでしょ!ユーリ様!!」
逃げる事に必死過ぎて、足下への注意を忘れた2人。当然、罠にかかります。
ガコン。
「「えっ?」」
突如、通路の途中で底が抜け、2人は下へと落下する。
「わぷっ!」
「みっ、水!?」
底には、水が貯められており、2人は着水した。そして、出口までの高さは約1m。届くか届かないかの高さにあった。
「これならなんとか登れ……」
「ひゃっ!?」
「どうし……きゃあ!?」
2人はヌルヌルした物が触れ、悲鳴を上げた。
「きっ、気持ち悪っ!くっ、絡みついて……よっ、よし、掴んだ!」
リディアが掴んだ物の正体は、エレキイール。ユーリとアイリス並びにエロースが、食用兼遊びで育てている魔物だ。
名称:エレキイール
危険度:E
説明:体表面は、ぬめりのある粘膜によって覆われており、外敵から捕獲され辛いが、刺激を与えると放電する。また、嗅覚は犬より優れている。調教により、女性の匂いに反応して潜り込み絡みつく。
嫌悪感も有り、力強く握ったリディア。当然、エレキイールの放電が起こる。
「きゃあぁぁーー!」
「どっ、どうして、私まで!!」
水中の為、ティアまで放電に巻き込まれる事となった。それにより、ティアに巻き付いたエレキイールも放電開始。数分後には、穴から光が2つ立ち登るのだった。
この脱落により残り16人。
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「急いで下さい、ガーネット!」
ギンカとガーネットは、露店エリアを全力疾走していた。道中、猫ゴーレムが襲ってくるものの、足止めのみを行い走り続けた。
「はぁ、はぁ! いっ、一体、何処に向かって居るんですか!」
「アイリスの所です!」
「何故?」
「スライム天気を防げるのは、彼女だけだからですよ」
「スライム天気って、さっきダフネさんが言ってた……」
「そうです。降ると理由が分かるので、降られる前に辿り着きましょう!」
「はっ、はい!」
2人は、走り続ける事、約5分。商業エリアのビルの端に立つアイリスに遭遇した。
「おっ、ギンカちゃん、み〜っけ!」
「アイリス、提案が有ります。そちらの要望を聞くので、共闘をお願いします。それとスライム天気から護って下さい」
「おお、ナイスタイミング。良いよ、共闘しよう。こっちにおいで」
2人がビルの下に着くとアイリスも上から降りてきた。
「私の提案は、マリーを叩くのを手伝う事だけど良いの?」
「それなら、遅かれ速かれ戦う事になったので問題有りません」
「ok。なら、スライム障壁展開するね。皆〜、集合!」
アイリスの呼び掛けに応えて、周囲からスライムが集まり3人の周囲をドーム状に覆った。
そして、スライムは降り出した。
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「うう……どうして、私はこんなのばっかり! また、穢されるよぉ!!」
モカは、巨大化したスライムに呑まれていた。しかも、どんどん大きさを増している。
「モカちゃん!」
「ダメ! 屋根から出たらこれ以上に襲われるよ!!」
モカを助けようと屋根の下から飛び出しかけたユキをマリエルが止める。彼女たちは、運が良い事に、屋根がある光所に雨宿りする事が出来て助かっていた。
「でっ、でも!」
「分かってる!分かってるからちょっと待って!」
う〜んと悩むマリエルは、少し考えると気付いた。
どうして、自分たちは襲われないのか?
上を見上げるとライトが爛々と輝いている。そして、影には、スライムがいるけれど、光の真下にいない事に気付いた。
「ユキちゃん!発光する技とか持ってない?強い光が有れば助けれるかも!」
「光?」
ユキは、ユーリから渡されたマガジンを取り出した。それは、緊急連絡用の発光弾。ユーリが転移の座標に出来る様に、空中に留まる性質を持っている。
「これならイケるかもです? 威力も出ない筈です」
「なら、モカちゃんの横に撃って!」
「分かったです!」
モカの左右に撃つと強く発光する球体が2つ出来た。それにより、スライムの拘束が緩む。
「きゃあ!」
「風よ!」
マリエルは、落下してきたモカを風魔法で助け、回収した。
「ありがとう」
「後は、乗り切る事を考えましょう」
「はいです!」
「結界は、ボクに任せて! 助けてくれたお礼に頑張るよ!!」
壁に背を預けて3人は、結界を張りスライムをやり過ごす事にした。その頃、モカを拘束していたスライムは、更に巨大化し通路を塞いでいた。




