ダンジョンに行こう
「ユーリ、欲求不満なの! 付き合って!」
「はい?」
起床後、アイリスに会ったら開口一番そう告げられた。
その後、俺は部屋……ではなく作成中の平穏なる小世界に連行された。
アイリスはイレーネコスモスを作る俺の手伝いをしている。だから、今すぐ使える事を知っていた。
「とりあえず、少しはスッキリした」
「そうですね〜」
マジックアイテムの中で2日程過ごしてきた。終始、人に見せられない程の爛れた生活だった。その為、賢者モードを通り越して現在悟りの境地に至っている。
「でも、どうしていきなり?」
「今は、冬だし。狩りもクエストも全然無いからね。暴れたい衝動を我慢しようと思って……その代わりのSEX?」
だからって、2日も絞る必要はあったのだろうか?
俺は満足しているから別に良いけど。
「イレーネコスモスが完成してたら魔法使っても良いんだけどな」
まだ、森と家が数棟出来ただけだし。魔力を回収する為の機構も完成していない。もし内側で魔法を使った場合、内部で魔力が充満し破裂する。
「じゃあ、早く作って」
「ごめん。後、最低2ヶ月は掛かりそう」
小さくなって作っているから、実際に街を1つ作ってるのと同じなのだ。
「そっか〜、残念」
「なんか、暴れる手段が有ればーー」
「だったら、ダンジョンに行かないかい!!」
バンっと勢い良く開いた扉からカトレアが入ってきた。彼女の背中にはセレナたちの姿もあった。
「やっほー♪」
「お邪魔します」
「また遊びに来ましたよ、師匠」
カトレアがビリーと結婚したので、彼女たちもペンドラゴンに活動拠点を移した。だから、定期的に遊びに来る。
「あっ、下にギルさんも来てるんだ」
ホントだ。地下でマリーとギルさんが話しているのが魔力感知で見えた。なら、ガチ案件かな?
「ギルさんも来てる様だけど、何故ダンジョン?」
「一時、アタシがクエストを受けれなくなるからさ。だから、今の内に稼いでおきたくてね!」
「何故?」
「リリィさんのポーションのおかげで、昨日妊娠したぜ!」
「ああ…生まれるんだ。カトレアとビリーの子……カビー」
「そんなピンクの丸っぽい名前はつけねぇよ!!」
「おめでとう、カトレア! 困った事があったら聞いてね。私、経験者だから」
「おうよ。そうするぜ!」
「ポーションというと……この2つか?」
アイテムボックスから出してカトレアに見せる。
「おう、それだよ」
「なるほど、半巨人と竜種間でもイケるのか」
なら、巨人にも効果あるのかな?
まだまだデータが少なくて良く分からないが、妊娠成功率が高い事を把握した。
「なんで持ってるんだ? 誰か、また孕ませるのか? こんなに妊婦がいるのに?」
「俺は使わずにやれるから要らねぇよ。それに今は作る気無いよ。この以上増えたら育児が今以上に大変だからな。持ってるのはリリィに卸してる薬師が俺だからだよ」
「へぇ〜、知らなかったよ」
「それでダンジョンの件だけど、共同攻略ってこと?」
「おうさ。最初はアタシらだけで行こうとしたんだが……」
「ビリーさんに止められたのよ。心配だって」
俺も最初の妊娠を知った時はそんな感じだったな。感慨深い。今じゃ、妊娠初期なら大丈夫な事を知っているから少しは落ち着いていられる。可能なら一時間おきに見に行くだけさ。
「でも、カトレアが抜けるとクエストの選択肢も減るから稼ぎも減るじゃない?」
「だから、提案した。ユーリとの共同攻略なら大丈夫だって」
「師匠のアイテムボックスなら、いつも以上に稼げるので、ギルドの利益にもなるって説得しました」
なるほど。今の内に稼いでおきたい訳か。俺たちも伴うなら危険度も減るし、稼ぎも増えると考えた訳か。
「こっちは、良いよ。アイリスも暴れたいみたいだし」
「やったー!身体を動かせる!! ユーリと別荘に引き籠もるより負担にならずに済む!!」
「別に負担じゃないよ。むしろ、ノリノリ。じゃないと、2日も引き籠らないって」
「別荘ってなんだい?」
「うん? ああ、作成中のマジックアイテムさ。そうだね……ギルさんが来るまで、まだ掛かりそうだから案内するよ」
という訳で、イレーネコスモスの中に入り、見せた結果。
「「「「………」」」」
絶句。4人共、開いた口が塞がらない。
「良い出来だろ? 俺、頑張った!」
「ベル。頑張って出来るもんか? これ……」
「魔法に詳しいと自覚有るけど、普通は無理」
「ベルが無理と言うなら、転移かしら? それとも夢?」
「さっきの魔法は、転移の術式じゃないから、現実だと思う」
「おいおい、何をそんなに驚いているんだ? うちでは、いつもこんな感じだろ?」
「「「「そうだった」」」」
軽い気持ちで言ったのに、全員そう思ってたのな。
「出来たらここで遊ぶから招待するよ」
「おっ、それは楽しみだな!」
「それじゃあ、戻ろう」
部屋に帰ったら、ギルさんが居たので、今回のダンジョン攻略に関する説明が始まった。
「君たちが挑むのは、ティラノスの街ダンジョンで間違いないな?」
「ああ、そうだよ」
「ティラノスは、前回の騒動もあって行った事有るから、移動は転移で行けるな」
「その節はすまん。では、続けよう。今回、君たち2チームが共同で攻略するとあって、成功しても失敗しても利益が出ると予想されるので、商会ギルドと連携して買取りを行う事になった。カリス氏がユーリも参加すると聞いたら喜んで受け入れてくれたぞ」
「それは助かるな。ユーリがいるからドロップは全部回収出来るし」
「任せろ。無限に入るぜ。後、食料の心配もしなくて良いよ。1年分くらいならアイテムボックスに入ってるから」
「そうなのかい? アタシらの荷物も減るな」
「所で、ダンジョン内は転移出来るの?」
「一度だけなら使えるんじゃないかな? ダンジョンが最初は転移を警戒してないだろうし」
ダンジョンとは、一種の魔物なのだ。魔力溜まりから生まれたダンジョン核が、周囲を侵食しながら成長して生まれる。
アイリスの言うとおり、一度くらいなら警戒されないだろう。
「緊急脱出用に温存してくれ」
「了解」
「さて、前準備の話はこれくらいだな。次はダンジョン内の情報に移ろう。今ところ分かっているのはーー」
ティラノスのダンジョンは、現在把握されている最下層は30階。
最終到達時期が、100年前の為、増えている可能性有り。
現在、先行しているAランクチームが、20階辺りにいるそうだ。
ダンジョンの構成は、1〜3階が、Dランク推奨。4〜10階は、Cランク推奨。11階以上は、Bランク以上が推奨となっている。
魔物構成は、1〜15階で通常の魔物。16〜20階で特殊個体が少しずつ増えるそうだ。また、過去の記録によると25〜28階にアンデッドだけのエリアが存在すると言われた。
「昔、駆け出しの頃、15階まで行って引き返したよ」
「そうなのか?」
「まだ、セレナしかいない頃さね」
「理由は?」
「準備不足ね。食料が尽きかけたの。実力的には、まだ行けたと思うけど」
「まっ、今回は心配しなくて良いから助かるな!」
バンバンと、背中を叩かれた。結構、痛い。
「なら、安心だな。まぁ、困ったら、マリーとアイリスに聞くといい。この子たちは、ダンジョンに住んでたから」
『はぁ?』
あっ、驚いたの俺だけじゃないんだね。
「あはは……ちょっと、家出してまして」
「何処がちょっとだ。2年も隠れていた癖に」
「ちょっ、お兄様!?」
「成長中のダンジョンを洞窟に見つけてね。3人で暮らしてたの」
アイリスの補足が入った。
「3人? もう1人は?」
「あっ、詳しく話した事無かったね。エンキって言う、猫型の魔物だよ」
「猫だと!?」
「ユーリ?」
「あっ、ごめん。ちょっと猫好きだったもんで……」
猫って可愛くないか? あの、ぷにぷにの肉球とか、ヤバくない?
「ユーリ様ッ……!実は、猫派なのですか!?」
「えっ? どうしたのギンカ?」
常に冷静なギンカが、珍しく動揺している。
「ねっ、猫。気まぐれ小悪魔で主を誘う……恐るべき存在……」
「お〜い、ギンカ。帰って来い〜」
過去に何かあったんだろうか?
なんか、さっきからブツブツ言ってる。
「……やはり、犬ではダメですか?」
目をうるうるさせながら見捨てないでいって抱き着いて来たギンカはとても可愛かった。
「犬も嫌いじゃないぞ。妙にペロペロ舐める犬は、別で」
「それじゃあ、キスは……」
「女の子のキスは、別物。大好きです」
「ホッ……」
ギンカは安心した様だ。少し遠慮した様子でほっぺにキスされた。
「それじゃあ、ダンジョン頑張ってくれ」
『了解』
俺たちのダンジョン行きが決定した。




