道中での出来事・前編
村人の生活
村人は、普段農作業や狩りに従事していることが多い。基本的に店と呼ばれるものはなく、稀に訪れる行商人や冒険者を対象に村長が売買を行う。基本的に読み書きや計算は村人ではできない。そのため村長の人間性がそのまま村の清貧を分けることが多く村長の役職は人格者でないと務まらない。酷いときだと私利私欲に走った村長は村人達から反感を買い磔にされて森などに放置されるらしい。
服装などはあまり派手なものはなく村毎に特色が出ることもあるが基本は機能的にできている。
村に着いた俺は姉妹の家の一室を借りていた。今はくつろぎながらも今日の1日を振り返っていた。
今日は何だかんだ色々あったなぁ…突然車に轢かれたと思ったら神様と会って、あれよあれよと異世界に。しかもゴブリンといきなり戦って姉妹と出会い村までの間護衛とは……
深いため息をつきながらベットに腰掛ける。
しかし異世界転移か、考えたらなんかワクワクしてきた。戦闘能力も手に入ったしこれから俺Tueeeできるかも?そんでもって可愛い女の子とキャッキャウフフするんだ!
考え始めたらニヤニヤが止まらなかった。
そんなことを言っていたらノックの音がした。
「入りますがよろしいでしょうか?」
姉の質問を受け許可を出す。
「どうぞ!」
ごそごそと音をたてながら入ってきた。
「失礼します。」
姉が部屋に入ってきた。深夜に男がベッドに腰かけている部屋に一人で!一人で!
「どうしたの?何かあった?」
白々しく質問する俺、期待に胸が膨らむ。
「あの、身体を拭けるようタオルを用意しました。」
まだ中学生位の少女が色々気を使ってくれるのに感心を覚えた。このまま「彼女がお背中お拭きします。」という流れだろうか?
「わざわざありがとう。今日は色々大変だったけど怪我は大丈夫?」
彼女の手は火傷をしたらしく手には包帯が巻かれていた。
「はい、大したことありません。それより妹に怪我が無くて良かったです。」
彼女はニッコリと微笑み嬉しそうだ。
「そうか、大したことないなら良かったよ。」
俺達は村の帰り道にグレーターウルフに襲われた。
ゴブリンを倒した後のこと
妹を背負い姉の後ろに付いて行く。村まではそこまで距離はないらしいが日が暮れて見通しが悪くなっていた。草原地帯を抜けると足首位の草が生い茂り木々が見え始めた。
「ここまで来れば、後もう一息です。左手に森がありますがあそこから野犬やゴブリン、それから盗賊が出たりします。」
と姉が説明をしてくれる。正直ゴブリンでもいっぱいいっぱいな俺だが、盗賊はこんな自然と隣り合わせでも生活出来るのだから人間は逞しい生き物である。
「なかなか危ないところだな。暗いとは言え、森にさえ入らなければ不意打ちはなさそうだな。」
俺はまだ視界が確保できているので不意を突かれることは無いと判断していた。
「そうですが盗賊の中には飛び道具を使うものもいますので油断は禁物です。」
やっぱり日本に住んでた俺よりもこういうことに関しては異世界人の方がしっかりしているなと感心する。
「わかった、けど、盗賊が飛び道具を使うところを見た事があるのか?」
「はい、私がもっと幼かった頃に村を襲った盗賊達が待っていました。」
少女の顔がみるみる青くなっていった。昔のことがトラウマになっているのだろう。
「そうか、だが襲われないに越したことはないし、先を急ごう」
そう言うとシシリーは歩を早め俺も少しだけ早く歩いた。少し落ち込んでるようなので話題を変えることにした。
「そういえばまだ自己紹介をしてなかった、俺の名前は梅野樹って言うんだ。よろしくね。」
「私の名前はシシリーと言います。そして、妹のセシリーです。どうぞよろしくお願いします。」
姉のシシリーに妹のセシリーか、苗字がないのがこの世界の基準なのか?
「教えて欲しいのですが、さきほどゴブリンを倒されていましたが冒険者ではないとおっしゃいました。」
「うん、そうだね」
「そしてウメノさんは迷っていると仰いました。梅野さんは何か目的があってこちらに来たと思うのですが、目的はなんですか?それから何故迷ってしまわれたのですか?」
なんとも答えにくい質問が来てしまった。さて、なんと答えたら良いものか…
「まだ冒険者ではないけどこれでも冒険者を目指してるんだ。だから練習も兼ねて森に入ったんだけど方角が分からなくなってしまったんだよ。」
どうだ!この言い訳完璧だろ!
「そう…… ですか。確かに戦闘後の処置や動きがぎこちなかったですし、冒険者見習いなら納得です。」
少し訝しんだ後納得した様子をみせたシシリー。
確かにちょっと無理のある言い訳だったかもしれない、けどまぁこんなもんだろ。突然私は異世界人です。転移して間もないので右も左もわかりません。助けてください。なんて言おうものなら頭のおかしい人が妹を背負っている。どうやって切り抜けよう…… なんて思われるのがオチだ。
「そんな訳で色々勉強不足だから色々教えてくれると嬉しいな。」
ほんとこの世界には分からないことだらけだ。
「わかりました、私に出来ることがあるか不安ですがご協力させて頂きます。」
なんてええ子や、将来が楽しみな女の子だな。そんなことを考えていると森の方から何かが走ってくる音が聞こえてくる。暗いせいで何が来ているかまでは目で確認できなかったが三者視点に切り替えて視界を広くする。
「シシリー!何かくるぞ!」
「!?」
シシリーにセシリーを預けて2人を背に隠す。すると森の中から大きな影が姿を現した。
獣
獣は魔力の濃い土地で魔物化することがあるが、ゴブリン、魔物化した獣又は人間を一定数食べることでも魔物化する。特に食事をする機会の多い雌や群れのボス等が特に魔物化しやすくなる。馬を例にあげるなら、野生の馬が魔力の濃い土地で魔力を浴びた草を食べることでユニコーンやペガサスになることが稀にある。