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冒険者に失敗はつきものです。  作者: 佐々木尽左
Level5 竜殺しの称号
13/17

ドラゴン退治のお誘い

 中堅冒険者として後輩の面倒を見るのが当たり前になっても、ボブ、トム、ジムの生活は基本的に何も変わらなかった。生活が楽でないのも相変わらずである。

 しかし、引き受ける仕事は微妙に変化してきている。駆け出しの頃はゴブリン退治が中心であったが、今ではあまり引き受けなくなってきていた。代わりに、新人冒険者の指導依頼を冒険者ギルドから受けるようになってきている。

 通常、戦士や魔法使いなど個々の職業に就くためには、戦士ギルドや盗賊ギルドなどの各ギルドに入会し、そこで訓練を受けなければいけない。そしてそこを卒業した後に、パーティを組んで新人向けの依頼を引き受け、実際に仕事をすることになる。しかし、いくら新人向けの依頼であっても死の危険性は常にあった。そこで、特に遺跡や未開の地域の探索に新人を慣れさせるため、冒険者ギルドから新人を指導するような依頼が中堅冒険者に出されるのだ。

 依頼料は通常の依頼に加えて指導料というものが出される。一見すると割が良さそうだが、通常の依頼料は新人と中堅の冒険者の頭数で割るのでそうでもない。それでも、ぱっとしない中堅冒険者にとっては良い働き口なのだ。駆け出しの冒険者にとってのゴブリン退治と同じである。

 3人も通常の依頼をこなしながら新人の指導依頼を引き受けていたのだが、最近はそのルーチンワークともいえる生活に飽きていた。冒険者になるほどなのだから、未知との遭遇や強大な魔物の討伐に大なり小なり憧れているのは当然だろう。そんな3人が、悪いなりに安定しているという今の状況に満足するはずがなかった。


 とある日、前の依頼を終えて休暇を取っていた3人は、よく利用する酒場で飲んでいた。話の内容は、前回の仕事のことや知り合いの冒険者のことなどである。少なくとも女っ気のある話ではなかった。

 「……というわけだよ。こういう話を聞くと、羨ましくなるだね~」

 「ホントだね。いいなぁ、僕もそういう大活躍をしたいなぁ」

 珍しく饒舌なボブの話を聞いたジムは、自分好みの冒険活劇みたいな出来事を体験したボブの知り合いを羨んだ。

 「よぉ、トムじゃないか!はは、ジムとボブもいるな!」

 そうやって3人がいつも通り飲んでいると、不意に誰かが呼びかけてくる。3人がそちらに視線を向けると、4人の男がすぐそばに立っていた。

 「ん?お、フレッドか!それにルイスも!久しぶり!しばらく見なかったな!」

 「コリー、元気にしてたかい?」

 「おお、ダニエルだか!久しぶりだな!」

 声をかけてきたフレッドを確認した3人は、多少驚いた顔をしつつも上機嫌に返答した。盗賊であるフレッドはトムの同期である。今では少なくなった駆け出しの頃から付き合いのあるパーティだった。

 「最近、休暇が合わなかったからな。そうだ、どうせなら一緒に飲まないか?」

 「いいね。じゃぁ座れよ……って、椅子が足りないな。お、ちょうど隣が空いてる。テーブルごと借りようぜ!」

 「わかっただ」

 久しぶりに積もる話をしようと思っていたトムは、ボブと一緒に隣のテーブルと椅子を引き寄せる。そこへ知り合いの4人がそれぞれ座った。


 「それじゃ、俺たちの再会を祝して、乾杯!」

 「「「「「「乾杯!」」」」」」

 トムの音頭により、追加で頼んだジョッキを片手で持ち上げた7人は、改めて無事再会できたことを祝した。

 「いやぁ、無事でなによりだな。けどダニエル、また傷が増えてないだか?」

 「確かにまたかすり傷が増えちまったな。まぁ、勲章が増えるのはいいことだぜ!」

 「私の仕事は増える一方なんですけどね」

 「はっはっはっ!暇しているよりかはずっといいだろう!」

 苦笑しながら突っ込みを入れる僧侶のルイスに対して、戦士のダニエルは豪快に笑いつつ返す。ダニエルとルイスは同じ村の出身で、ボブはダニエルと戦士ギルドの同期というつながりである。

 「ジム、あれから魔法の腕は上達したかい?」

 「うっ、もちろんさ!一応上達してるよ?」

 「どうして最後が疑問形なんだ。これは確認しておく必要があるな」

 「……勘弁してくれ」

 同門の兄弟子である魔法使いのコリーは、こうやって再会する度にジムの上達の具合を確認しようとする。自分が落ちこぼれだったということを知っている人物である上に、色々と魔法について教えてくれるのでジムは頭が上がらない。今も、積もる話を交えながら色々と指導を受けていた。

 「……そうだよな、ガルフ製の道具は脆いよな。品揃えはいいんだが」

 「言えてる。まぁ、安かろう悪かろうだな、あそこは。で、今はどこのを使ってるんだ、トム?」

 「ウッドストーン製だ。値段も手頃だしな」

 「手堅いな。でも、俺みたいにブラックボウ製にしたらどうだ。あれはいいぞ」

 トムとフレッドは盗賊同士で道具についての話に夢中だった。自分達の仕事道具についてだけに酒の席とはいえ真剣だ。

 そんな感じで、それぞれが酒を酌み交わしながら自分達の話にのめり込んでいた。他にも、パーティとしてどんな仕事をこなしたのかなどで盛り上がる。そうして宴はたけなわとなっていった。


 積もる話を肴に杯を重ねていくと、やがて話はこれからのことに移ってゆく。直前に知り合いがどんな大きな仕事をしたのかということを話していただけに、自分達も何かしたいという思いが強くなっていた。

 「なぁ、お前達はこれからどうするんだ?何か大きな仕事でもする予定はあるのか?」

 既に何回も杯を重ねているトムが、酔いで頭をふらつかせながらフレッドに話を振った。

 「ああ。実はあるんだ」

 にやりと笑いつつ、フレッドは返答した。それを見てトムが驚く。

 「なんだよそれ。どんな仕事だ?」

 「ドラゴン討伐だよ」

 「え、何だって?!」

 フレッドの言葉に最初に反応したのはジムだった。そして、やっぱりという目をトムが向ける。

 「その話、詳しく聞かせてくれないかな?!」

 「そういえば、ジムはそういう話が好きだったな」

 弟弟子が冒険小説好きだったことを思い出したコリーが苦笑した。

 「俺たちもそろそろ何かでかい仕事をするべきだろうと思ってな。箔をつけるために何かいい仕事がないか探してたら、ちょうどいい依頼があったんだよ!」

 ジョッキを呷ったダニエルがフレッドよりも先にしゃべった。ただし、それは仕事の内容ではなかったので、トムやジムの知りたかった話とずれている。

 「ええっと、討伐の話の内容なんですが、地方領主から出された依頼です。山の麓にレッサードラゴンが住み着いたようだから退治して欲しいそうですよ」

 「いいねぇ、いいねぇ!そういう話こそ冒険者らしいよねぇ!」

 ダニエルの隣に座っていたルイスが穏やかに説明をした。結構な杯を重ねているはずなのに全く顔色が変わっていない。そして、目を輝かせながらジムがその話に食い付いた。それに対してコリーが、「落ち着けよ」という言葉をかけながら軽く肩を叩く。

 「けど、竜なんて退治するのは大変じゃないだか?レッサードラゴンといっても強いだよね?」

 「そりゃそうだ。レッサーってついていても、ドラゴンの中で弱いっていうだけで、俺たち人間からすると充分に強い」

 ボブの指摘に対してフレッドがうなずく。そして、一旦周囲を見回した後、再度口を開いた。

 「だから、一緒に戦ってくれるパーティを探してるんだ。どうだ、やってみないか?」

 「うん、やるよ!」

 フレッドの誘いにジムが条件反射で応えた。これにはコリーとフレッドが苦笑する。しかし、わかりきっていた反応なので驚きはない。

 「トムとボブはどうだ?」

 「もちろんやるだろう!」

 2人が答える前にダニエルが断定的な口調で吠えた。満面の笑みで返答を待っているその姿をルイスが半笑いの表情で眺めている。このパーティではいつもの光景だ。

 「怖いだが、やってみたいだな。それに、ドラゴンの死体は高く売れるだよね」

 どちらかというと安全志向のボブも、やはり冒険者だけあってこういう話に興味がある。ただ、その興味はあくまで一攫千金の方面に偏っているが。

 「そうだなぁ。やっぱりドラゴンスレイヤーって名乗れるのはいいよなぁ」

 ドラゴンという種を倒せば、基本的に竜殺し-ドラゴンスレイヤー-と名乗ることができる。倒したドラゴンの強さによって同じドラゴンスレイヤーでも色々とランクがあるものの、それでも倒したことのない冒険者からすれば畏敬の念を覚えられることは間違いない。特に戦士や魔法使いはそうだ。逆に盗賊や僧侶にはあまり関係のない話ではあるが、それでもその称号はあった方が絶対にいい。

 「トムが最初から賛成するなんて珍しいだね」

 「いつもは危険なことを避けたがることが多いのにね」

 「確かに危険は避けた方がいいんだけどな。これからのことを考えると、今危ない橋を渡っておくのも悪くないって思えたんだよ」

 「どういうこと?」

 「ほら、今の俺達ってぱっとしないだろ?それでドラゴンスレイヤーって名乗れたら報酬額の交渉は有利にできるし、新人の面倒を見るときも指示しやすいだろ」

 場合によるが、条件交渉をするときの材料としてドラゴンスレイヤーというのは確かに役立つことが多い。冒険者ギルドで受ける依頼の場合はどうにもならないが、それ以外のところだと特に武力が必要なときには有効だ。

 「そうだよな。周りにでかい顔ができるっていうのは気分がいいよな!」

 「そういうのもあるけどね。でもそれ以上に、新人に指示するときにこの肩書きがあると確かに便利だろうな」

 深く考えていないダニエルはともかく、新人の面倒を見ているときに色々感じることのあったコリーはトムの話にうなずく。

 「そりゃ誰だって人の指示なんて受けたくないよねぇ」

 「かつてのお前みたいだな」

 「うっ」

 一端の意見を言った途端に兄弟子から横やりを喰らったジムは、飲みかけの酒でむせた。

 「ともかく、ジム達は一緒にレッサードラゴンを討伐してくれるということでいいんですよね?」

 放っておくと話題が別の方向へ向きそうな気配を察したルイスが、3人に対して確認をとろうとした。

 「もちろんさ!」

 「よぉし、なら話は決まりだ!もう1回乾杯しようぜ!」

 ジムの返事に気を良くしたダニエルがすぐさま反応した。それに他の皆も賛成する。

 「それじゃ、ドラゴン討伐隊の結成を記念して、乾杯!」

 「「「「「「乾杯!」」」」」」

 そうして7人は夜遅くまで飲み明かした。

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