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冒険者に失敗はつきものです。  作者: 佐々木尽左
Level4 戦利品の価値

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道具屋での相談

 3人がよく利用している道具屋は、拠点としている地方都市の外れにある。都市を囲んでいる城壁に近い場所の住人ほど身分が低いか貧しい。テッドの道具屋はその城壁の正面にあった。

 繁華街や都市の出入り口である門と違ってこの辺りは人の往来が少ない。また、往来する人々も貧民か冒険者が大半だ。そのため、商売は自然と貧しい人々か冒険者となる。更にその冒険者も、良い品を揃えたいときは更に上位の店へ流れるので、やってくるのは基本的に新人冒険者か懐の寂しい冒険者ということになる。

 このように立地条件は悪いが、テッドにとっては自宅も兼用しているこの店は大切だった。地方の村で生まれて行商から身を起こし、10年前にやっと自分の店を構えることができたからだ。ようやくなれた一国一城の主である。愛着もひとしおだった。

 「いらっしゃい。って、トムか。それに2人も。3人揃うなんて珍しいね」

 不足した商品を棚に補充していたテッドが来客に気づいて挨拶をした。そして、トム達が3人揃ってやって来たことに少し驚く。ボブは武器屋には頻繁に通うのだが、道具屋にはあまり寄りつかないからだ。

 「テッドさん、久しぶり!」

 「やぁ、前は先月だったかな?」

 「こんにちは。久しぶりだなぁ」

 3人は3様の挨拶を返す。

 店内には他に2組4人の客がいた。2組とも冒険者だ。1組は見たことのある顔だった。もう1組は知らない顔だが、装備が真新しいので新人冒険者なのだろう。

 「トム、前に頼まれていた道具が届いているよ。見るかい?」

 「お?やった!」

 店のカウンターに戻るテッドにトムは嬉しそうについて行った。それにつられてジムとボブも続く。

 「トム。何頼んだだ?」

 「盗賊用の便利道具だよ」

 「あれ、そういうのは盗賊ギルドで揃えるんじゃないの?」

 「特殊な道具ならな。盗賊用って言っても大半はどこででも手に入るんだ」

 テッドが店の奥に引き込んでいる間に、トムは他の2人に道具についての説明をした。

 「なるほど。確かに、特殊な道具ばかりだと、壊れたときにすぐ手に入れられなくて大変なことになるよね」

 「そーゆーこと。それに、ギルドで買うとどうしても高くなるからなぁ」

 「ああ、あるある!」

 思い当たる節のあるボブが勢いよくうなずいた。どうもどこのギルドでもものを買うときは割高のようだ。

 「トム、これでどうだい」

 奥からテッドが注文の品を片手に戻ってきた。手にしていた箱をカウンターに置くと蓋を開ける。

 「おお、これこれ!」

 嬉しそうに目を細めてトムは、箱の中に丁寧に並べられている小さな棒状の道具を手に取った。

 「気に入ってもらえたようだね」

 「うん、これでいいよ。いくら?」

 「銀貨5枚だよ」

 「これで銀貨5枚だか?!」

 大きさの割に随分と値が張るように見えたボブが驚きの声を上げた。確かに、盗賊以外にはこの価値はわかりにくいとトムは苦笑する。

 「手に入れやすい道具ではあるんだけどな。作るのに手間がかかるものだから結構な値段になるんだよ」

 しゃべりながらも銀貨5枚をテッドに差し出し、道具を懐にしまうトムであった。


 「で、他には何かあるかい?」

 頼まれごとを1つ片付けたテッドが、カウンター越しに客であるトム達へ話しかけた。

 「テッドさん、この前の依頼で手に入れた戦利品を見てほしいんだ」

 手に入れたばかりの道具に気を取られていたトムよりも早く、ジムがテッドに返事をした。

 「へぇ、面白そうだね。どんなのだい?」

 「あ、これだよ」

 3人がそれぞれ選んだ戦利品を運んでいたボブは、金属製の棒をまずカウンターに置き、続いて袋の中から銅像と金属製の腕輪を並べた。

 「ほう、これが。触っていいかい?」

 「ええ、どうぞ」

 ジムの許可を得て、テッドはすぐ銅像を手に取った。そして、いろんな角度から眺めたり、手触りを確認したりする。

 店で戦利品を売る場合だが、必ずしもいきなり鑑定士が魔法などを駆使して鑑定するわけではない。大抵はまず専門の知識で判別できるかを試してみる。最初に商人が自分の知識と経験で鑑定してみて、わからなければ鑑定士に渡し、専門書や魔法で確認するのが一般的な流れだ。

 「ふーむ。一見するとただの銅像にしか見えないんだけどな」

 「うん、おらにもそうとしか見えないだ」

 テッドの独り言にボブが返事をする。

 頻繁に物のやり取りをする商人は、自分が扱う品物を中心にある程度の目利きができることが多い。なので、テッドは自分の知識と経験で見定めようとする。

 「うーん。こっちの金属製の腕輪もわからんなぁ」

 盛んに首を捻りながら腕輪を見るテッドだったが、こちらもどんなものか検討がつかないようだ。

 「父さん、さっきから何唸ってるんだい?」

 別の客が持ち込んできた鑑定依頼品の調査が終わった、テッドの息子であり鑑定士でもあるテリーが声をかけてきた。

 「ああ、お前か。いや、トム達が持ってきた品物を見てるんだけどねぇ」

 「わからないんだろ?だったら俺に回せばいいのに」

 テリーは苦笑しつつ父親の手から棒状の物を取り上げた。

 「あれ?随分と軽いじゃないか。金属っぽいのに」

 「他にも銅像と腕輪があるんだが、どれも大した価値があるようには見えないんだ」

 テッドの話を聞きながら、テリーは持ち込まれた3つの戦利品を順番に見ていった。

 「魔法で鑑定しないとわかんないかな。ああ、これ、他のところで鑑定した?」

 今気づいたという風な様子で、テリーはトムとジムに聞いてきた。自分だけでなく、他の鑑定士の鑑定結果を参考にして判断するためである。

 「いやぁ、それがやってないんだよね。ほら、僕達、懐事情が厳しいから……」

 痛いところを突かれたとばかりにジムは苦笑いをしつつ返答した。

 「そういやそうだったなぁ。あ、鑑定前に言っておくけど、どれも古物商に持っていくべきものばかりだよ。物そのものの価値よりも、骨董物としての価値に期待した方がいいね。これ以上は魔法を使って鑑定しないとわかんないけど、やるとしたらこの棒だけにしておくのが賢いだろうね」

 そう言うと、テリーは言葉を句切って3人を見た。この店では、基本的に鑑定料を取るのは魔法を使って鑑定する場合だけである。

 「ちなみに、今の状態で買ってもらうとしたら、いくらになる?」

 即座に言葉を返したのはトムだった。鑑定料も馬鹿にならないので、悪くない値であればそのまま売ってしまおうという魂胆である。

 「うちは骨董屋じゃないから、金属としての価値にいくらか色をつけるくらいだな」

 「鑑定しても実はただの金属でしたってのは馬鹿らしいけど、二束三文で売り払って、後になってその価値を知ってしまうってのも悔しいよなぁ」

 過去にそういった経験をしたことがある商人親子の言葉だけに説得力があった。

 「まぁ急ぐ必要はないよ。ゆっくりと相談すればいい」

 テッドは、一旦3人で話をすることを勧めた。


 カウンターから離れた3人は、戦利品をどうするか相談することにした。鑑定料を支払えるくらいの稼ぎがあれば迷うことはないのだが、裕福でない3人にとってはそうもいかない。

 「で、どうするだ?」

 「うーん、古物商かぁ。たまに行くことはあるけど、馴染みの店っていうのはないなぁ」

 「俺もだな。遺跡の発掘なんて滅多にやらないもんなぁ」

 3人は頭をひねるが心当たりはない。

 古物商と関わりが深い仕事といえば遺跡関連の依頼だろう。調査することで持ち帰ってこられた品物は、遺跡の難易度が高いほど価値のある物であることが多い。学術や魔法の研究施設も同様に関わりは深いが、そういった出土品を流通させるために古物商は欠かせない。

 3人の場合、遺跡関連の仕事はほとんどしてこなかった。以前に鉱山跡の調査をしたことがあったのだが、目的が達成できなかったときに準備にかかった費用が丸々損失になることがわかったからだ。

 今回、遺跡調査を受けたのは、難易度が低く、そのときに準備した物がほぼそのまま使えるからだった。そしていざ戦利品を手に入れてみると、安心して売る場所がないということにはたと気がついた、というのが現状である。

 「おら、この棒だけは武器屋に持って行った方がいいんじゃないかと思うだよ」

 ボブは手にしている金属製らしい棒を2人に見せながら提案した。

 「まぁ確かに、武器っぽいもんなぁ」

 「だったら、棒だけ武器屋で鑑定してもらう?」

 「けど、それだと割高になっちまうんだよな……」

 まとめ買いをすると値段が安くなるように、たくさんの品物を鑑定してもらうときに値段交渉ができる。鑑定対象が3つだけだとほとんど割り引けないだろうが、それでも別の場所で1回ずつ鑑定してもらうよりかは安くなる。

 「遺跡の難易度から察すると、価値がある物には思えないもんね」

 「けど、まとめて鑑定してもらうにも、どこの古物商に持って行くだか?」

 「とりあえず、いろいろ回ってみて探すしかないなぁ」

 いくら考えても名案は浮かばない。と思ったそのとき、ジムが何かに気づいたかのように手を打った。

 「そうだ、今回の依頼主の学術調査団に古物商を紹介してもらったらどうかな?!」

 「なるほど、学術調査団なら古物商とのつながりがあるだな!」

 ジムの提案にボブも笑顔でうなずく。

 自分達で1から探すよりも、知り合いから紹介してもらった方が確かに安心して交渉できる。しかし、この方法は問題があった。

 「けど、今回の依頼って冒険者ギルド経由でやったから、俺たち直接その調査団と面識がないぞ。どうやって頼むんだ?」

 冷静な指摘がトムから出ると、言葉に詰まったジムはそのまま黙った。意外と名案だと思っていたので、思わぬ欠点を指摘されて悔しそうな顔をしている。

 「やっぱり地道に探すしかないだか?」

 「とりあえず、思いつく限りのことをやるしかないな」

 今後のことも考えると、ここで利用できそうな古物商を見つけておいて損はない。そんなことを考えながら、トムはありきたりな言葉で話をまとめた。


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