奥様が倒れた日
本編211話目の裏側。ロータスとダリアの会話メインです。
「いつも元気な奥様が……」
「本当に」
珍しく奥様が体調を崩されました。朝、ベッドから起き上がれないくらいに調子が悪く、慌てて医師が呼ばれました。診察の結果、医師の見立ては『過労と貧血』。ここのところ忙しい日々が続いていたのが原因のようで、とりあえず安堵しました。
「重い病でなかったことは幸いでした」
「ええ。疲労と貧血ならば、少し療養すれば回復しますし。ロータスさん、早朝から医師様の手配、お疲れ様でした」
「ははは。医師様を叩き起こすのは忍びなかったです」
いつもなら使者だけを遣わすのですが、今朝は時間も早かったので、私が呼びに行くのが妥当と思い行ったのですが……医師様はまだ就寝中でいらっしゃいました。少しお急ぎいただきましたが、仕方ありませんよね?
「ダリアは……いろいろ支障があったでしょう?」
「支障というほどではありませんが、なんというか……まあ……寂しさを感じました」
「いつも奥様はいろんなところに出没されますから」
決まった『仕事』はありませんが、毎日屋敷内のどこかでなにかしらやっておいでです。
「ええ。屋敷に飾る花の入れ替えを、今日は私たちでしたんですけど」
「奥様の〝お仕事〟ですからね」
「私たちが温室に行くと、ベリスが驚いていましたわ。『奥様は?』って」
「花を摘むところからが奥様のルーティンですから」
「そう。奥様の体調のことを説明したら、飾る花はそっちのけで、奥様の体調に合わせた花を摘み出したのには思わず頬が緩んでしまいました。ラワンドゥラでしたっけ。香りが気分の鎮静に効くそうです」
「さすがベリス。彼なりの気遣いが素敵ですよ」
いつも通りの無表情で、ラワンドゥラを摘んでいたんでしょう。旦那様が体調不良の時は……ああ、普通に仕事をしていましたか。
「そう言えば、カルタムも大騒ぎしてましたね」
「あの人は大袈裟なところがありますので」
「ダリアは相変わらずカルタムに厳しい」
「まぁ」
「朝食作りは弟子たちに任せて、自分は奥様用の滋養スープにかかりっきりでしたね。カルタムが、あんなに真剣に食材を吟味し、味付けを考えているのを久しぶりに見ました」
「旦那様のお食事を放棄するなんて」
「たまにはいいじゃないですか。弟子たちも一流です」
「それはそうですけど……」
「何より誰より心配しているのが旦那様ですけどね」
「そうですね。また王宮の薬草庭園から薬草をいただいてきていましたね」
「ご自分で『ヴィオラの体調不良は内密に』とおっしゃっていましたが、もはやご自分の行動からバレてしまいそうな気がしています」
「……確かに」
「外では屋敷と違う顔を見せていると思っておきましょう」
「そうしましょう」
「しかし、奥様が体調を崩すと、屋敷全体が曇った感じになりますね」
以前の澱んだ感じとはまた違い、使用人みんなが沈んだ空気を醸し出す、そんな感じです。いつも明るい奥様のおかげで屋敷が活気付いているんだと、改めて思い知らされます。
「とにかく早く回復していただかないと、屋敷が沈んでしまいそうですわ」
「できる限りの介抱をしましょう」
奥様に『過保護すぎ!』と言われても、です。
ありがとうございました(*^ー^*)