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【夢幻の大陸詩】 月姫楽土の子供たち  作者: 水城杏楠
九章  世界の広さと狭さ
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 河というのは、このサーラ国に一つしかない。だから単純に河とだけ呼んでいた。

 どうやら河のいちばんそばにいたのが彼ら一行だったようで、そこには誰も駆けつけていなかった。

 発信者であろう数人が、川辺にいるだけだった。

 その後ろ姿を見て、チェザが叫ぶ。

「フィーザ!」

「……チェザ。カリ様!」

 座り込んでいたのはフィーザとチェザの知らない二人の民たちだった。

「……リシー」

 チェザが名を呼んだ。彼らの中にあって、ひときわ目立つ髪の毛。それは、ネオンたち三人のリアスを伴って旅立ったリュシルエールだった。

「……すまない。私がいたのに」

 彼はチェザから少し瞳をそらした。

「カリ様、声を聞いてくださったんですね」

「……フィーザの声だったか。だが、これはいったい」

 カリが尋ねる。今は、リュシルエールに驚いている場合ではない。

 彼ら五人が座り込んでいた中心には、一人が横たわっていた。

「えっ? ね、ネオンさま!」

 彼女はチェザの声にも眼を開けなかった。

 ただ、ぐったりと横たわり、いつものような張りのある声を聞くことはできなかった。ほとんど外傷はないというのに……。

「宮に運びたいのだけれど、私たちだけでは……」

「おれが運ぼう」

 ヴァリーの大きな体躯が、ネオンを軽々と抱え上げた。

 いったいどうしたというのだろう。

 川辺に流れ着いたかのように倒れていたのだとフィーザは言った。

 トゥール国に行ったはずの彼女。

 そして共に向かった二人のリアスが。どこにもいないのである。

 その場にいたチェザたちリアスは、言葉を失ってしばらく顔を見合わせた。そして、同時に頭を垂れるリュシルエールを見やった。

 様々な疑問が過ぎる。だがいまはネオンの手当てが先決であろう。ヴァリーとともに聖月の宮への道を急いだ。

 月姫の巫女にはきっとさきほどフィーザが送った風霊が届いているだろう。そして力の強いイーザにも。

 イーザの医療の腕は一流である。きっとネオンもすぐに眼を覚ますだろう、そのときは誰もがそう信じて疑うことはなかった。

 この国は高地にあるためか、病気というものがほとんどない。動植物から感染するものを除けば、たぶん彼らは誰も大きな病気というものを経験したことがなく、イーザたちの主な仕事は怪我の治療であった。

 だからこそカリは不安だった。

 外傷がほとんどない状態でなぜ、ネオンが眼を覚まさないのか……と。


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