5
河というのは、このサーラ国に一つしかない。だから単純に河とだけ呼んでいた。
どうやら河のいちばんそばにいたのが彼ら一行だったようで、そこには誰も駆けつけていなかった。
発信者であろう数人が、川辺にいるだけだった。
その後ろ姿を見て、チェザが叫ぶ。
「フィーザ!」
「……チェザ。カリ様!」
座り込んでいたのはフィーザとチェザの知らない二人の民たちだった。
「……リシー」
チェザが名を呼んだ。彼らの中にあって、ひときわ目立つ髪の毛。それは、ネオンたち三人のリアスを伴って旅立ったリュシルエールだった。
「……すまない。私がいたのに」
彼はチェザから少し瞳をそらした。
「カリ様、声を聞いてくださったんですね」
「……フィーザの声だったか。だが、これはいったい」
カリが尋ねる。今は、リュシルエールに驚いている場合ではない。
彼ら五人が座り込んでいた中心には、一人が横たわっていた。
「えっ? ね、ネオンさま!」
彼女はチェザの声にも眼を開けなかった。
ただ、ぐったりと横たわり、いつものような張りのある声を聞くことはできなかった。ほとんど外傷はないというのに……。
「宮に運びたいのだけれど、私たちだけでは……」
「おれが運ぼう」
ヴァリーの大きな体躯が、ネオンを軽々と抱え上げた。
いったいどうしたというのだろう。
川辺に流れ着いたかのように倒れていたのだとフィーザは言った。
トゥール国に行ったはずの彼女。
そして共に向かった二人のリアスが。どこにもいないのである。
その場にいたチェザたちリアスは、言葉を失ってしばらく顔を見合わせた。そして、同時に頭を垂れるリュシルエールを見やった。
様々な疑問が過ぎる。だがいまはネオンの手当てが先決であろう。ヴァリーとともに聖月の宮への道を急いだ。
月姫の巫女にはきっとさきほどフィーザが送った風霊が届いているだろう。そして力の強いイーザにも。
イーザの医療の腕は一流である。きっとネオンもすぐに眼を覚ますだろう、そのときは誰もがそう信じて疑うことはなかった。
この国は高地にあるためか、病気というものがほとんどない。動植物から感染するものを除けば、たぶん彼らは誰も大きな病気というものを経験したことがなく、イーザたちの主な仕事は怪我の治療であった。
だからこそカリは不安だった。
外傷がほとんどない状態でなぜ、ネオンが眼を覚まさないのか……と。