エピローグ
数年後。
街角には、一軒の小さなカフェがある。
扉を開くベルが鳴る。
「いらっしゃいませ。」
エプロン姿の美月が笑顔で迎える。
カウンターでは零が慣れない手つきでコーヒーを淹れている。
「零くん、またミルク入れすぎ。」
「え、うそ?」
「もう。」
二人は顔を見合わせて笑う。
昼になると店は賑わい始める。
会社員。
学生。
親子連れ。
そして──
人間に紛れたヴェイルたち。
ヴェイルは感情を分け与えてもらうことで生き、人間は彼らを隣人として受け入れ始めていた。
カフェには笑顔があふれている。
零は店内を見渡し、小さく微笑む。
かつて守りたかったものが、今ここにある。
「みんな、笑ってる。」
美月が隣に立つ。
「うん。」
「零くんが守りたかった景色だね。」
零は首を横に振る。
「違う。」
「俺たちが守った景色だ。」
美月は照れくさそうに笑い、そっと零の手を握る。
窓の外では、子どもたちが楽しそうに遊んでいる。
その中には、人間の子も、ヴェイルの子もいた。
区別なんて、もう誰もしない。
カラン、とベルが鳴る。
「こんにちは!」
新しい客が入ってくる。
零はいつもの笑顔で迎えた。
「いらっしゃいませ。」
その笑顔は、かつて中学の体育祭で「身近な人を守りたい」と願った少年の頃と何も変わっていなかった。
世界を救った英雄としてではなく、一人ひとりの笑顔を守る人として。
それが、神代零という男がたどり着いた答えだった。




