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097話『ビビルテリの森で』

「そうですか……遮視結界とは、厄介ですね」


 ナーレファインに、王都を包み込んでいた結界について説明した。案の定、彼女も顔をしかめている。


「とにかく、やはり行ってみないことには何も始まりませんね。無理にでも……するしかなさそうです」

「分かった。みんなに伝えてくるよ」


 何か中で起こったのかもしれないし、魔卿使団の動きも気になる。俺たちは強行突破で、王都内へ押し入ることに決めた。


 ***

 モナトスナ魔王国、ビビルテリの森――


「この森は鬼人族(オーガ)が住み着く、かなり危険な場所です。皆様、お気をつけください」

「いや、もう遅いようだぞ」


 魔力感知に引っかかる、幾つかの魔力源。魔族と人族の持つ魔力を掛け合わせたような……異質なものだ。


「この森を侵す侵略者よ。今すぐ立ち去れ、ここは鬼王が治める地……」


 周囲に響く謎の声、あちこちに反響し出処が掴めない。


「俺とアマンダイトが上から様子を見る、残りは襲撃に備えてくれ! 」


 少し開けた更地に居たことが幸いだった。空から見つけ出してやる。


「蒼穹の大空よ、我に自由なる大翼を授け給え! 」


 舞空術式には、まだ省略詠唱魔法が使えないから、1回ごとに詠唱しなければいけない……少し面倒だが、仕方ないな。


「木が邪魔でよく見えないけど、あそこに2体とあっちに3体だね……」


 アマンダイトは、魔力感知を使わずに場所を言い当てた。


「あ、あぁそうだな。見た感じ、伏兵もいなさそうだ」



「どうでしたか? 」

「うん、合計5体。囲まれては無さそうだ」


 下に降り、相手の数と大まかな場所を確認した。


「そこを動くな! 私は鬼の王だぞ! 」


 そんな俺たちの前に、相手のボス……鬼の王とやらが姿を現した。桜色の髪に、純白の角を2本生やしている。お姫様のような鬼人だった。


「君が……鬼の王? 」

「そ、それがどうした! 何が悪いか!? 」

「いや、悪いというか……拍子抜けだなと」


 正直、鬼の王と言うだけあってバカデカくて強そうなやつが出てくるのかと思っていた。


「私を甘く見るなよ! 死ね! 獄炎球(ゴラド)! 」

「先生危ない! 相殺術式(レジスト)! 」


 鬼の王の渾身の術式を、天衣は軽々と相殺した。流石、俺の教え子……天才と呼ばれただけあるな。


「ありがとう、天衣。こいつは俺に任せてくれ。みんなは残り4体を頼む」


「お前1人だけで大丈夫なのか!? 私は鬼の王だぞ! 」

「鬼の王、鬼の王って……名前は無いのか? 」

「名前……そんなものは無い! 必要も無いからな! 」


 名前がない……こっち(魔大陸)ではそうなのだろうか……古代みたく、身分の高い人にだけあるみたいな……?


「じゃあ、俺が名前付けてあげようか? 」

「え、良いのか……いやいや! そんな甘言には乗らないぞ! そうやって、私を嵌めようとしてるんだろ! 」


 明らかに一瞬揺らいだよね……全く何なんだ、この大陸は。


「いやでも……名前かぁ……いやいや! ダメだぞ、私は鬼の王なんだから……」


 この人面白いな……もう少し観察しておこうかな。


「おい! 私を惑わせやがって……覚悟しろ! 獄炎球(ゴラド)! 」

獄炎球(ゴラド)! 」


 あえて同じ術式で対抗してみた。こうすれば、互いの力量が火を見るより明らかになる。場合によっては、相手の心をへし折ることも可能だ。


「何だと……私の渾身の術式が、呆気もなく負けた……」


 初めて使った術式だったが、何とか競り勝てて良かった。かなり危なかったけど……


「くっ……私の負けだ。煮て食うなり、焼いて食うなり、そのまま食うなり好きにしろ! 」


 そう言って、鬼の王は上着を脱ぎ始めた。


「いやいや! 誰も食わないから! それ早く着てくれ……」

「え、食わないのか? 優しいんだな、お前は。敗者にも、情けをかけてくれるなんて」


 いや、ここでは負けたら食われるのか……? 怖すぎるだろ。


「この恩は体で返させてもらうぞ」


 え、体で返すって……まさか……


「私の主となれ! 」


 あーそういうこと……いや、分かってたよ。俺も大人だしね……うん、本当に。


「ま、まぁ……それは良いんだけど。そうなると、やっぱり名前がないと不便だよな。 それじゃあ……お前は今日からサクラだ! 」


 適当に髪色の桜色からとって、『サクラ』と名付けた。


「サクラ……良いのか? こんなに良い名前貰ってしまって……」

「良いよ。減るもんじゃないし」


 サクラは大声で泣き始めてしまった。名前だけでこんなに……!?


「こっちは終わったわよ、レイニィ……あら、女の子を泣かして何やってるのかしら」

「レ、レイニィ様! 流石にやりすぎです! 」


 俺は双子に誤解されているらしい。もう弁解する気力も残っていない。


「あー! レイニィが泣かしたなの? 悪いなの! 」

「もう、先生ダメじゃない。そういうのは私に……」


 反対側から戻ってきた雀燕と、天衣にも……天衣に関してはもう触れない。いちばん怖いのは、その後ろで微笑むスズテナさんだ……


「一応言っておくが、違うからな! 誤解だ誤解! な、そうだよな……」


 サクラに潔白を証明しようと思ったが、何故か首を横に振った。


「何で!? 」


 ***

「何だ、そんなことだったの……」

「ユフは信じてましたよ! 」


 調子の良い双子の妹はさて置き、何とか誤解は解けた……はず。天衣はまだ頬を膨らましているが。

 

 サクラ初め、鬼人族は全部で5人だけ。残りの4人にも名前が無いということで、俺が名付けさせて貰った。

 白髪で年老いた、いかにも強そうな鬼人がゲッパク。青髪でクールそうな見た目の鬼人が、ソウコン。ガタイがいい大鬼人が、クロスミ。最後に、まだ子供の女の子鬼人がミソラだ。


「この森から、王都は目と鼻の先です。そこで提案なのですが、こうしてみてはいかがでしょうか……」

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