045話『ギラスナ-②』
「……なぜあなたがここに……? 」
人元歴453年1月、カラトニア連盟大国にアマンダイトと久々に顔を合わせる仲間たちが集まった。
しかし、そんな感動の場に見慣れぬ顔が一つあった。
「そんな冷たいこと言わんといてーな……あんたも俺の事、忘れてないやろ? 」
「えぇ、そりゃまぁ……」
その男は、終始ニコニコとしていた。少し気味が悪い、私はちょっと苦手なタイプ……
「てことで、今日からお世話になります。ロキ・ワインデッド言います」
連盟の雇われ情報官の男だ。相変わらず変な言葉遣いだ。しかし、少し癖になる……
「はぁ……しょうがない、歓迎する。ようこそ、特級冒険者パーティー、ルータッタへ」
***
「先生、いつ帰ってくるのかなー」
「今日か、明日か……じゃない? 」
「そっかあ……」
寂しそうに項垂れる舞泉雨と、そんな事気にも留めないと言わんばかりに黙々と何かをノートに書き続ける洛成天衣。
そして、欠席されているレイニィ先生の代わりにやって来たのが、現人巫女見習いのヘスティアです!
ちなみに、五神教を国教とする国にその総本山である東方聖王教会から派遣されるのが、現人巫女なのです! とは言っても、最近では専ら現地の教会からってのが多いんですけどね。何を隠そう私もそうなのでした!
この巫女というのは、遥か古より特別な存在として扱われていて、国王よりも権力が高くなる国もあるとか……ないとか!
ギラスナでは、教皇と似たポジションですね。国王様よりは下です……そして、私もいつか立派な巫女様になる事を夢見て、日々精進しているのです……!
「ヘスティアさん? ちゃんと授業してるのかしら? 」
「はっ! これは、ミタビア様……! も、もちろんですとも……」
あっぶない、危ない……急に来るのは反則でしょうよ。サボってるよのバレなくて良かった……
「今日、まだ授業してないよー? 」
「ヘスティアさん……? 」
舞泉雨! なんて事を〜!
「いやー、その……」
ミタビアさんを怒らせると怖いんだぞ……
「それはそうと、先生はいつ頃帰られるのですか? 」
「あら、天衣さん。そんなに彼の帰りが待ち遠しいの? 」
「いえ、そんなことは……」
ミタビアは、何かを見抜きニコッと微笑んで言った。
「誤魔化さないで良いのよ。あなた顔真っ赤じゃない」
「――っ! 」
その場にいた雨だけが、ポカンとしていた。
***
あの日以来だろうか……いや、あの瞬間からだ。最後にミズキの手を握った時、ミズキの細剣抜いた時。
断片的で、モヤがかかったかのようにはっきりとは分からない。
だが、何となく未来が見えるようになっていた。そう遠くない未来だ。しかも、それは決まって悪い事が起こる未来。
鑑定者――
ふっと、あの時の夢のような体験が脳裏を過った。これは、特異能力である鑑定者が関係しているのか?
もしかすると、その能力なのかもしれない。
あれから俺は、特異能力を発動させようと色々試してみた。あの時、14号さんの見よう見まねで。
しかし、中々上手くいかない。次第にあれは本当に夢だったんじゃないか、そう思えてくる。
もし、俺の見た未来が正しいのだとすれば……王国が崩壊する。
しかし、それがいつなのかは分からない。次の瞬間からかもしれないし、明日……もしくは十年後の可能性だってある。
だが、俺が見た未来に俺自身の姿もあった。つまり、俺さえ王国に行かなければ未来は変えられるかもしれないのだ。
そんな事を永遠と考えていると、気づけば学園の校門前に着いていた。ダメだな、考えすぎは良くない。
「あ、レイニィ先生戻られたんですね! 」
「はい、あいつら大丈夫でしたか? 」
全然大丈夫でしたよー! と笑うヘスティアさんには感謝しかない。
だけど、何をしたんですかと聞くと、分かりやすくはぐらかされるのは何故だろう……
「ねぇねぇ、天衣ちゃん」
「なに? 」
「明日は先生来るかな」
「来るわよ、絶対」
しかしその夜、世界を震撼させる事となる未曾有の大事件が起こることとなる。
***
「どうしましたか、お父様」
「おぉ来たか、ミタビアよ」
急にお父様、ギラスナ国王に呼び出されることは珍しくは無い。だけど、時間が時間だ。何かあったに違いない。
「今、ラインアース国内が大荒れになっておる。各地の貴族が次々と独立し、国家の崩壊も近いであろう」
タチの悪い嘘だと思いたかった。
ラインアースの国王様が崩御されてから、後継ぎ争いで揉めているとは聞いていたけれど……まさかここまでとは思わなかった。
私にも少しだけ流れるワインデッドの血、ラインアースで生まれた由緒正しい貴族家の血。今はその血筋が絶えてしまい、旧貴族などと揶揄されているが……レイニィ君が、その王国できっとまた誇れる貴族家にしてくれるはずだ。私はそれをちょっと離れた所からでも見守りたかった……だけどもうそれも叶いそうにない。
「……それでだ、王都に攻め込んできた諸貴族に対抗し、王城に立て篭り応戦しているサーペント家や結城家、東雲家などから援軍の要請があったのだ」
あまりにも私が落ち込んでいた為か、父は話を続けた。
「もちろん、援軍をお出しになるのですよね? 」
サーペント家とは、個人的にも関わりがある。古くからワインデッドと並ぶ貴族家だ。それに、結城や東雲にしても最近勢いをつけている。その方々だけでも救えるのならば、救ってあげたい。
「もちろんだ、今ミアに準備させているところだ」
ギラスナ国軍の頭脳、参謀ミア・アルテナ。
父からの信頼も厚い優秀な指揮官だ。彼ならきっと上手くやってくれる。
「それで、レイニィ君には伝えたのですか? 」
「あぁ、一応な」
「それはそっちだ。あー待て、その箱はこっちに」
準備は順調。この調子なら明け方にはここを出れるな。
「ミア様、全兵集結完了しました」
「了解した。ご苦労さま」
兵の集まりは思ったよりも良い。出来れば、今回は何とか戦闘は避けたいものだ。
と、その時背後から珍しい魔力を感じた。芯があり、波動も良い。非常に強く良い魔力だ。
「おや、君は確か……」