041話『共和国-⑤』
跡上都市国家ギラスナ――
「それでは、我々とそちらの連合軍という事でよろしいですか? 」
「是非そうして頂きたい」
ラインアース王国の国王や、数人の貴族や大臣。そして、規模で言うと一個連隊程の王国軍人がこのギラスナで亡命政権を成立させたのだった。
そして、レーベル戦線で大規模な戦闘が行われるという情報を得た彼らは、連合軍を組織し祖国を奪還せんとしているのだ。
ギラスナ側がこうも簡単に、手を貸すなど何か裏があるに違いない。違いないのだが、今は贅沢を言っていられない。
後にどんな無茶を言われようとも、覚悟は出来ている。国王は、そんな強い覚悟でこの奪還作戦に臨むのだ。
「出撃は5月の19日、これでいきましょう」
ちょうど二週間後の日付だ。
恐らく、戦線で本格的な闘争が始まる頃なのだろう。それまでに、準備を整えておかなければ。
***
人元歴457年、5月17日――
この日、俺たちV79はレーベル戦線に到着した。
まだ開戦こそされていない物の、戦場になるレーベル平原は異様な空気感に包まれている。あちら側の様子は良く見えない。だが、確実にリーズル分軍が今か今かと、息を潜めているはずだ。
「特設派兵部隊、到着しました。どのような状況ですか」
「よく来た。ありがたいことに、今は平和だな」
レーベル戦線司令部の司令官は、冗談を混じえつつ書類に目を通していた。
その男によると、この地でも戦いが始まるのは時間の問題だという。その予測は、2日後。5月19日だ。
相手方がしびれを切らして、先に攻撃を仕掛けさせるのが現段階の狙いのようだ。
「お、それは本当か! 」
兵士が一人走ってきて、その司令官に何かを耳打ちした。すると、司令官はとても喜び言った。「人和国が落ちた」と。
「つまり、降伏したってこと……? 」
「あぁ、その通りだ。アマンダイト隊長」
アマンダイトは、隊長と呼ばれる事をあまり好んでいないらしく、顔を顰めたが嬉しい報告に複雑な表情になっていた。
「ま、まぁなんだ……帝国が介入してくるかと思ったが……目を瞑ってくれてるようで良かった」
司令官はそんな彼女の顔を見て、あからさまに話題を変えた。
そして、彼女は「失礼します」とだけ行って部屋を出てしまった。
「女心は難しいな……」
司令官は、少しショックを受けたようだ。
***
「アマンダイトさんは、どうして共和国軍なんかに仕えてるんですか? 」
俺は共和国軍に属する全ての人に聞きたかった事を、彼女に尋ねてみた。
王国に反旗を翻し、成立したこの国に何の忠義があるのだろうか。
「私は……よく分からない。だけど、みんなは何か明確な目的があるんだと思う……」
彼女は、少し口ごもりながらそう答えた。
彼女は自身のことについて、何か隠しているのだろうと直感的に感じた。しかし、ここでこれ以上追求するのはダメな気がする。
「そんな事よりもさ、君はしっかり体を休めなさい……! 」
怒られてしまったので、いそいそと退却することにした。
やけに眠いと思い時計を見ると、時刻はもう深夜だった。彼女に少し申し訳ない。
朝、けたたましく鳴り響く警報の音で目が覚めた。
これは、何の警報だ? ――
考えられるとすれば、敵が宣戦を布告した。これならまだ良いのだが、もし奇襲だとしたら……冗談じゃない。
レーベル駐屯所の端にある第四兵舎から外に出てみると、何人もの兵士が慌ただしく走り回っていた。何かあったのは確実だ。
特設派兵部隊の隊員は即刻司令部へ集合――
悪音質のスピーカーから、召集司令が入った。それも、V79を名指し。
「特設派兵部隊、全兵集合完了しました」
アマンダイトは綺麗に整列した俺たちの前に出、司令官に向かい報告し敬礼した。その後ろに立っている狐目の男は誰だ?
「では、どうぞ」
「あぁ、すんまへんな……」
司令官は狐目の男を前に出るよう促すと、すぐに退席した。
一体この男は誰だ? 俺たちはなぜ集められたんだ?
「揃いも揃ってキョトンとした顔しなさんなや。改めて、こんな俺の為によぉ集まってくれた」
よく見ると、男の軍服は共和国軍の物ではない。あれは、確か……
「まずは自己紹介やな。俺は、ロキゆうねん。よろしゅうな。あ、一応連盟の人間や」
ロキと名乗る男は、自ら連盟大国の人間だと言った。そして、それに驚く俺たちを容易に想像できるだろう。
ここにいる連盟の人間……つまり、彼はリーズル分軍所属という可能性が高い。
「なんやなんや、急に怖い顔して……何もここに戦争しに来た訳やない。相談に来たんや」
こうして、前代未聞の敵同士による話し合いが始まろうとしていた。
ロキがその話し合いに指名したのは、アマンダイトと俺。何故俺が選ばれたのか……二人だけ呼ぶならなんで全員集合させたんだよ……
「はぁー、今日は暑っついなぁ……」
個室に対面して座ると、ロキは手うちわで自分を仰ぎながらそう言った。
「何なんですか。その口調は」
俺はロキという男が関西弁なのを、ずっと気になっていた。もしかすると、俺と同じ異世界人……
「あぁ、これか。これはな……俺の生まれ故郷の方言っちゅうやつやな」
「つまり、あなたは向こうの世界の住人だったと」
ロキはびっくりしたような顔をし、すぐに何かをわかったような表情になった。
「ははーん、ちゅうことは……あんさんもその口ゆうわけか」
アマンダイトは、話についていけずポカンとしている。
「まぁ、この話はまた今度やな。彼女がかわいそうや」
ロキはニカッと笑い、アマンダイトの琥珀色の目を見た。
「あんさんらを見込んでやねんけど、聞いてくれるか? 」
「聞くだけなら……」
そして、ロキは驚くべき計画を語り始めた。それは、俺たちの想像を軽々と凌駕するものだった。
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