038話『共和国-②』
王都を守る大門に衛兵がいなかったのだから、この関所にもいないと良いなと淡い期待を抱きながら、その北部国境関所に到着した。
もし仮に居たとしても、一応国選パーティーな訳だし? その場でチャチャッと許可状貰えば良いだけだしね。
「すいませーん、ギラスナに行きたいんですけど……」
入口でそう叫んだが、返事は無い。やはりここにもいないのか。そう思った瞬間、「はいはい」と奥の方から仏頂面の衛兵が現れた。
「はーん、なるほど……」
その衛兵の男は、俺のつま先から頭の先まで舐め回すように見てそう呟いた。
そして頷き始めた。一体何なんだ、この変な男は。
「君……逮捕ね」
「え? 」
頷くのを辞め、急に鋭くなった目付きで男はそう言った。……逮捕? たいほ……タイホか、困ったな。俺が知ってる単語の中に逮捕以外のたいほがない……
***
「何でこんな事に」
俺はあの後、普通に手錠かけられてそのまま関所にある簡易牢屋に入れられてしまった。俺が何をしたと……!
「おい、行くぞ」
お、さっきの仏頂面だ。どこへ行くんだろう。
「全く、どこ行こうってんだ? 」
「裁判にだ」
どうやら俺は裁判にかけられるらしい。急展開過ぎてもう着いて行けません。王都に逆戻りかぁ……せっかく頑張って来たのに。
まぁ馬車だから楽だな。
***
「これより開廷する。罪人は王の御前に」
程なくして遂に裁判が始まってしまった。罪状すら聞かされてないんだけど。
「被告人、レイニィには不法出国の疑いがあります」
あー、不法出国か……ってあれ、おかしいな。国選パーティーだから大丈夫なはず……まさか、国変わってるからダメとか無いよな。
「ふむ、それはいかんな」
今までずっと、背中を向けていた王がこちらを向いた。……ん、あの王どこかで見覚えが――
「あー! あの時、国王の隣にいた! 」
そう、その王は俺たちが藝華に行く前にラインアース王国の王と会った時、王の隣に突っ立ってた奴だ。間違いない。
「こら貴様! 無礼だぞ」
「良いよい。共和国王、ハメルナ・ハルンの名に置いて今のことは聞かなかったことにしてやる」
ハルン……ハルン?! 確か、ロミンの管理を任されたハルン伯爵か? それにしても、何か違うような。
「いやはや、貴様には私の父が世話になった……のか? あまり詳しくは知らぬが、貴様の父から領地を奪い取ってしまったそうじゃないか」
そう言って王は笑い始めた。事実だが、すごいイライラする。
「それでは、私の方から詳しくお話させて頂きます……」
少し間が空き、検事が裁判を続けた。そして、判決の時が来た。
「判決を下す。被告人、レイニィに……」
早い話、有罪判決が確定した。しかし、禁固刑などでは無かったのが不幸中の幸いか。
いや、そうでも無いな。俺は、レーシィ解散と冥星級魔術師の資格剥奪、そして極めつけには共和国軍に従軍する事を命じられた。何でも人手不足らしい。
それにしても、共和制なのに王が存在するのかこの国は……笑えるな。だが、聞くところによればあと四人の王がいて五人の王で政治を回しているらしいし……それは共和制になるのだろうか。
一応議会もあってそれなりに権力もあるらしいし。国とは難しいものだ。
「これに着替えてこい」
直属では無いが、俺の上司になるらしい男から服を受け取った。どうやら軍服のようだ。
「改めて、俺が貴官の案内役を務める者だ。行くぞ」
名前は教えてくれないようだ。まぁこの際どうでも良いか。
それにしても……俺、結構軍服似合うな。気づくと、その男はスタスタと歩いて行ってしまっていた。薄情だな。
「貴官の配属先はまだ決まってないが、そのうち参謀から人事辞令があるだろう」
その男は、歩いている途中に時々口を開く。だが、俺の質問には答えない。何と理不尽なんだ。
「……これで以上だ」
軍の設備やら何やらを一通り説明をすると、その男は帰って行った。本当に案内しただけで帰ったな。これから不安だなぁ。
***
「いってて……」
入軍してから三日、部屋にあるベッドは硬いし食事は美味しくない。環境最悪だ。
「起きているか? 」
ドアをノックする音と共に、俺の起床を確認する声が響く。
ドアを開けると、先日案内してくれた男の姿があった。
「参謀から人事辞令が出た。これを見ると良い」
そう言って男は、少し笑い部屋を後にした。
人事辞令
任命……一等兵:レイニィ。配属、第三中隊――
一等兵か、下から2番目……初にしては良い方なんだろうな。第三中隊の駐屯地は確か……
***
人元歴457年4月、ムロリア戦線――
「ムロリア右翼から中央、敵の後退を確認」
「中央から右翼、現状を維持せよ」
共和国と、人和国の国境間に張られたムロリア戦線では両軍膠着状態にあった。しかし、共和国軍の方が優勢に見られる。
「あともう少しで、第三中隊が到着する。それまでここは死守するぞ」
戦線の右翼では、人員不足により一時撤退を余儀なくされた第三中隊の帰りを待つ、第七中隊が何とか持ちこたえている。
敵軍も一個中隊の為、何とかなっているのだ。
一方、左翼の方では激しい戦闘が今も行われている。こちらまで響いてくる大砲か魔術による爆音と、衝撃波が体を中から震わせる。
左翼配置じゃなくて良かった、そう思う兵士もいるだろう。そんな事を言っても、こちらでも一瞬でも魔力障壁の気を抜くと、爆撃術式などの格好の餌食となる。
戦争とは、この世の地獄……正にそのものだ。
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