023話『いざ藝華へ』
人元歴456年9月――
「レーシィの出国を許可する」
複雑な手続きを済ませ、やっと出国する許可がおりた。めちゃくちゃめんどくさかった……なんで手続きってもんはあんなに色んな部署を回らないといけないのだろうか。
あとは、藝華に向かう手頃な船を見つけるだけだ。
「ねぇ、レイニィ! 私、良い感じの船見つけたんだけど!」
宿に帰るなりミズキが飛びついてきた。こういう時の彼女はとことん信用出来ないが……
「ほら、これこれ! 」
と、ミズキが差し出した一枚の紙を見てみると……
「お……良いんじゃないか」
案外よかった。料金も予算内、大きさも手頃。実績もある貿易船のようだ。
よし、これにしよう。
「まぁ、しかし問題は出航が一ヶ月後って事だけだな」
「そうね……」
***
「エ、エリス初めて船に乗りました……」
海の上をスイスイと進む船に揺られるエリスは、少し怖そうに海面を見下ろしている。
「エリス、あんまり覗き込むと危ないぞ」
全くエリスは危なっかしいな、まぁそこがかわいい。それと……
「大丈夫か?」
「よゆーよ……」
青ざめた顔で親指を立てられても、全然信用出来ない。
そう、ミズキは絶賛船酔い中なのだ。
「ねぇ、あとどのくらいで着くのって、わぁ……大丈夫? 」
ミズキの顔の青さに、カテラはびっくりしている。その気持ちもとても分かる。
「そうだな……あと三日くらいかな」
ラインアース王国から獣王国藝華までは大体四週間くらいかかる。
近いと言えば近いし、遠いと言えば遠い。
「え、三日も……」
ミズキは絶望して気絶してしまった。
それを見たカテラと俺は笑う他なかった。
「乗り心地はいかがでしょう……ってあまり良くなさそうですね。あはは」
様子を見に来た船長さんも苦笑いを浮かべている。
こんな快適な船旅で酔うのはミズキくらいだろう。気を使わせてほんと申し訳ないです……
それにしても船はいいな。海風が気持ち良い……釣りでもしたいなあ。
釣竿あるかな……
「あのー、釣竿とかってあったりしますかね……?」
無理も承知で船長に聞いてみた。この世界、というか王国ではあまり魚を見たことがない。
恐らく魚を食べる文化がないのだろう。
「あるよ。取ってきたろう」
あるのかよ! 余計な心配だった。ロンとエリスを誘おうかな。
「今日も良い天気だなー」
「あぁ、そうだな」
「ですね……」
釣りを初めて三時間程……全く釣れない。
さっきから同じ会話を何回も繰り返してる気がする。
良い天気とは言ったものの、一時間ほど前から少し曇りだしてきたんだった。雨が降りそうな嫌な雲だ。
***
こんにちは。私たち神官は、今日も神々の為に元気に働いています。
あれから鬼頭祭神様の事を色々調べましたが、中々見つかりません。
少し前に「大罪神」に認定されたこともあり、更にその姿を隠すようになったと言われています。まぁそれもそうなんですけど……
「まだ見つからないのか……」
最近の聖王神様は、ずっと鬼頭祭神様の事を気になさっている。それはもはや異常な程に。なぜそこまで執着するのだろうか。
「今日も良い天気だね〜」
明るく、弾むような楽しそうな声が聞こえる。この声はきっと……
「これは、陽宋祭神様……そうですね、今日も良い天気です」
神様とは思えない程軽い口調に、柔らかな物腰。神様がこんなので本当に良いのだろうかといつも思う。
だが、それもこの方の良い所でもある。その証拠にいつもたくさんの神官が周りに控えている。
夏季と冬季の間の比較的短い期間の、季間に活動されるのでとても珍しい。会うのも久しぶりだ。
「ところで、陽宋祭神様は大罪神鬼頭祭神について何かご存知ないのですか?」
私が聞いた途端に、陽宋祭神様の顔が曇った。
「知らないよ、何も」
安易に聞いた私が悪かった。しかし、気づいた時にはもう遅い。
陽宋祭神様は、歩いていってしまった。機嫌を損ねてしまっただろうか。
やはり、天空祭苑は今何処かおかしい。何処かと聞かれれば困るのだが、やはり何処か不自然なのだ。
何かとても悪い異物が混じり込んでいるような……そんな感覚がして止まない。
これは一刻も早く鬼頭祭神様に会って、何とかしなければ。
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