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この転生に抗議します!  作者: 淡星怜々
第一章 ラインアース王国編
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019話『ルゥナ-③』

 大量の魔獣への対策が何も浮かばないまま、時間だけが過ぎ去っていく。室内は静寂に包まれ、少し空気が重い。


「一旦解散してカテラの魔力が回復したら、もう一度話し合おう」


 このままではただ単に時間を浪費するばかりと判断し、そう提案した。そして14号さん始め、全員が頷きそれは了承された。


 ***


「さて、カテラも復活した事だし対策を考えよう」


 あれから一夜明け、朝になった。夜中も定期的に外の様子を確認したが、魔獣の姿は無かった。お陰で寝不足である。


「忽然と姿を消した魔獣の群れ、姿は見えない飼い主……問題は山積みだね」


 14号さんもいつにもなく真剣な面持ちだ。しかし、あの数の魔獣……しかも数が減ることはないそれらに打つ手など思いつくはずもなかった。再び静寂が訪れた。


 しかし、今回は以前とは違った。しばし静寂が続いたあと、そ・れ・はやってきた。


 ドカーン!――


 玄関の方から、爆発音の様な爆音が響いた。そしてそれは、この場にいる物を凍り付けにした。その爆音が意味するものは、魔獣の侵入以外有り得ない。

 この広い広い豪邸の玄関から、今いる部屋まではどれだけ急いでも数分はかかる。その間に戦闘準備を済ませなければ死ぬ。


「室内じゃ流石に分が悪い。外に行こう」


 14号さんはそう言って窓を指さした。俺たちはそれに従い、窓から外へ出た。玄関の方へ回ってみると、そこには魔獣がうじゃうじゃといて、地獄かと思った。

 更に最悪なのは、その魔獣を群れの最後尾に一際大きな魔獣がいたのだ。大きな金棒を担ぎ、頭には二本の角、その真っ赤な両目は……


「参ったねこりゃ……あれは人牛鬼ミノタウロスだ。破災級イグノムの魔獣……いや、もうあれは魔物だね」


 その姿を見た途端、体がブルブルと震え始めた。圧倒的な強者。その風格と威圧感に思わず体が押しつぶされる様にさえ感じられた。

 魔力を持った獣……即ち魔獣だが、それらにも種族によりランク分けされているのだ。上から順に天災級メザアム破災級イグノム鬼災級テレノム、それから一般魔獣種だ。一般魔獣種に該当しない魔獣は特別に魔物と呼ばれる。


「あれが飼い主なのか? 」


 そして、魔物は知性を持つと知られている。つまり、今回の事件の元凶はこいつミノタウロスの可能性が高い。

 だが、あいつら魔獣の群れはこちらには気づいていないようだ。このまま奇襲するか……


 キーキリキリキリキリ!――


 この金属を高速で擦り合わせたような鳴き声は……シープレルだ。その鳴き声を聞いて、人牛鬼ミノタウロスが振り返った。

 そして、俺たちを見つけそいつは大声で雄叫びをあげた。それに呼応するように魔獣達もあちこちで咆哮する。耳が痛くなりそうだ。


「さぁ、レーシィ諸君! やるしかないよ! 」


 そう言って14号さんは単騎で魔獣に突っ込んでいく。


「14号さんに続くぞ!」


 おう! と掛け声と共に、二回目の戦闘が始まった。

 前回の物と一つ違うとすれば……圧倒的魔獣の多さだ。明らかに増えている。


「だがまぁ、やるしかないよな……ロード・ネアロスト……爆裂深淵バーストアビス!」


 闇属性系の上級魔術、爆裂深淵は、闇属性の攻撃系魔術である深淵アビスに対象を引きずり込み、それから大爆発させるという何とも乱暴な魔術だ。

 だが、これが一番強いと思っている。それにかっこいいしな。

 それぞれが目の前の魔獣とぶつかり、危うくも倒していく。あの時と比べれば、随分の成長したな。あんなに小さかったエリスも立派に……


 ロンが持つ漆黒の大剣も、ミズキの白銀の細剣レイピアも今日は調子が良いみたいだ。

 二人の戦い方は対象的で、前者はどっしりと山のように、後者は流れるせせらぎのように感じる。そんな二人を更に輝かせているのが、カテラだ。

 様々な強化術式バフを使いこなすだけでなく、攻撃術式もピカイチなのだ。向かってくる魔獣をいとも簡単に粉砕するその魔術は何度見ても惚れ惚れする。


 周りの魔獣は粗方片付いた。しかし、倒せばまた次の魔獣が現れる。色々魔術の試し打ちが出来るな……そんなことを考えていると、ふと一匹の魔獣相手に後退りするエリスが目に入った。

 そして、直感的に「死」を感じた。よく見ると、エリスの手には小刀ナイフが1本もない。更に良くよく見てみると、魔獣の首に小刀が二本とも突き刺さっていた。

 魔獣がその大きな口を開け、ぎらりと鈍く光る牙が見えた瞬間に俺の体は動いていた。


「きゃー!」


 エリスの叫び声が聞こえ、気がつくと俺の肩に魔獣が噛み付いていた。思考よりも先に体が勝手に動いてしまった結果だ。


「離れろ」


 闇属性系通常魔術、深淵を無詠唱魔法を使用し発動した。

 肩に噛み付いていたはずの魔獣は深淵に飲み込まれてしまった。その肩には、大きな歯型だけが残っている。だが、エリスに怪我が無くて本当に良かった。


「レ、レイニィさん……大丈夫ですか?!私なんかの為に……ごめんなさい……!」


 エリスは泣きながらそう言い、自分の洋服の裾を破いて止血してくれた。

 幸い、傷が浅かったのもあり簡単に止血できた。回復術式ヒーリングを使わずに済みそうだ。


「気にするな、俺が勝手にしたことだ。だが、これからは気をつけろよ」


 そう言って、俺が装備していた予備の小刀を手渡した。エリスは涙を拭いながらそれを受け取り、走り出した。

 さっきは強がったけど、やっぱ痛いな……




「おい、人牛鬼……久しぶりだな。長年の腐れ縁……今日限りで終わらせてやる」


 周りを魔獣の血の海にし、真ん中に14号さんと人牛鬼だけが立っていた。

 返り血を浴びたその姿は、気味の悪い仮面と相まって更に異様だった。


自己強化セルフバフ速度上昇スピードバフ筋力増強マッスルバフ……」


 彼女は、数々の強化術式を自身にかけた。それも完全に無詠唱魔法で。


 それからの彼女と人牛鬼の打ち合いは凄まじかった。

 互いに武器をぶつけ、ぶつけ返す。俺たちが魔獣を片付けた後も激しい戦いが続いていた。まるで何かを全力で払拭するかのように。


「君も案外しつこいな……良いよ見せてあげよう。僕の真骨頂を……特異能力ユニークスキル発動、『彷徨者サマヨイ!』」


 そう言って彼女は、戦闘中は外すことのなかった仮面を外した。仮面の下に隠れていた彼女の目は、まるで悪魔のように見えた。

 それから彼女の戦闘スタイルが革新的に変わった。今までは、思いハンマーを振り回すため、どっしりとした印象だったが、今は不可解なステップで敵に近づき、知らぬ間に攻撃する。

 その身のこなしは、まるで世界を彷徨っているようだ……


 あれが噂に聞く特異能力ユニークスキルなのか、俺も使えるようになる日が来るのだろうか。やっぱりああ言うのには憧れる。

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