016話『バハネラ-③』
「レイニィとはぐれたまま?! 」
レイニィはこの街に入ってすぐに、走り出してしまった私とカテラを探すべく、残りの三人で別れてそのまま合流出来ていないのだと言う。
「はい、すみません……」
エリスちゃんは申し訳なさそうに顔を俯けて答える。
レイニィの事ならきっとどこかで何とかやっているとは思うが、依頼クエストの為にも早く合流して、この街を出なければ。
「仕方ないわよ、とにかく早く彼を見つけないとね」
こういう時携帯が無いのはやっぱり不便だなと思うが、この世界じゃ仕方ない。技術の発展に期待するとしよう。
***
同刻、天空祭苑本殿――
「――そうであるならば、致し方なかろう。行け」
遥か上空に浮かぶ一つの大きな空島。その中央には神々が住まう天空祭苑があると言われている。
その本殿の最奥に座しているのは、世界の統治者と言うべき絶対神『大界聖王神』だ。
天空祭苑には他に四人の神が存在するのだが、それらとは格がまるで違う。
「一刻も早く大罪神を我が前へ連れてくるのだ」
そんな聖なる地では今、ある問題が発生していた。それは、鬼頭祭神高亜君の謀反疑惑。
その神は聖界大王神に次ぐ最高神とされていたが、今では大罪を犯した神に付けられる『大罪神』と呼ばれている。しかし、その罪状ははっきりとしない。
大罪神はすぐに身を隠し、現在もなお逃亡を続けている。それは絶対神の機嫌を損ねるばかりであり、捜索を命ぜられる神官達は気が気でない。
「例の計画はどのようになっておる」
「はい、全て滞りなく。世界の終焉は予定通り。あの神官も上手く彼を騙しているようです」
***
「レイニィさん。久しぶりでございます」
いきなり呼びかけられたその声に、俺ははっきりと聞き覚えがあった。
「もう名前間違えないんだな」
「当たり前でございますよ」
目の前に突如現れたのは、あの事件の日ミラト大森林で会った神官だった。あの時と何も変わらない佇まいで彼女は目を細めていた。
「それで、こんな世界で俺と何を話そうって? 」
辺りを見回すと、時が止まっていることに気がついた。飛び立とうとする小鳥の群れや、沢山の紙袋を抱えた子連れのお母さん。
そう、例えでもなんでもなく世界の全てが止まっていた。カテラの凪之響よりも遥かに高位な魔術だ……いや、魔法なのかもしれない。
「いえいえ、やましい事なんて何も……ただ、聞かれると厄介なんですよね。それに、この停止された世界に勘づかれる可能性もありますので手短に現状報告させて頂きます」
微笑を浮かべ、顔の前に出してきた右手で神官は否定の意志を示した。
そして、俺の顔色を伺い、間髪入れず話を続けた。
「我が主、鬼頭祭神から貴方に伝言です。『お前ごときが私に楯突こうなど……笑わせてくれるわ。我が元へ来てみるが良い』との事です。では、私はこれにて」
そう言って神官はまたも自分の用事だけを済ませて、さっさと帰って行ってしまった。それにしても……あの野郎舐め腐ってやがる。
コソコソ俺の動きを見て、必要のないことを……もう許さない。絶対にお前の所に行ってやる……精々首を洗って待ってろ。
気づけば、周りの世界もいつの間にか動き出していた。そんな中で、ふつふつと煮える怒りの感情が以前よりもはっきりと俺の中にこびりつく様な感覚がした。
「ふむ、人間とはなんて愚かなのだ。そうだ、あの方に早く報告に行かなければ……」
空中に浮く神官は、そう言って何も無い空中を一蹴りすると勢いよく上昇しすぐに見えなくなった。
誰かを陥れるなんて事は容易な事だ、誰がどこで裏切るか分からない。ここはそう言う世界なのだ。と、鬼頭祭神は良く言っていたな。あぁ……実に面白い。
***
「ちょっとレイニィ! 今までどこ行ってたのよ! 」
時が止まった世界から抜け出した数分後、ようやくレーシィ全員が揃った。
しかし、再会早々ミズキは大声をあげている……
「それはこっちのセリフだ。お前こそどこ行ってたんだよ」
返す言葉が無さそうなミズキを横目にエリスが飛び込んできた。
何も言わず、力強く抱きしめてくれた。きっと寂しくて心細かったのだろう。そう思うと、こちらまでつい力が入ってしまう。もうこの子を離さないようにしよう。
「あのー、もうそろそろ良いですか? 出発しないと時間が……」
そんな俺たちに申し訳なさそうにカテラが言った。エリスは急に恥ずかしくなったのか、俺から離れてロンの背後に隠れてしまった。
***
「さよなら! バハネラー!」
バハネラの街を出ると、ミズキは大きな経済都市に向かいそう叫んだ。
そういえば、結局ミズキがどこに行ってたのか誰も教えてくれなかったな……まぁ良いか。終わったこと気にしてもね。
「問題のメルリー山脈までは、この平原を越えるとすぐそこだ。そろそろ準備しといた方が良いな」
やっとメルリー山脈まで、あと数時間程の所まで来た。
魔獣の群れがどんな状態か分からない、いきなり襲ってくる……なんてことも有り得なくは無い。戦いとは、事前準備の時点で勝敗が決するものだ。情報しかり、作戦しかり。
「狂暴化してなければ楽なんだがな」
ロンが呟いたその一言に引っかかったが、俺はそれに触れることができなかった。魔獣の狂暴化など聞いたこともない、きっと聞き間違いだと思った。そうであって欲しいとも願った。
これにてバハネラは終わりです。
次話からは、遂に魔獣との戦闘が始まります!!
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