014話『バハネラ‐①』
「うぉー! ついにやって来ましたバハネラー!」
ミズキは馬車から降りるなりそう言って飛び出して行ってしまった。やれやれと言いながら降りてくるロンはやっぱり大人だな。
「あれ? カテラは? 」
しかし、そんなロンの横にカテラがいないことに気づいた。
「カテラさんなら、もう行っちゃいましたけど……」
ゆっくり慎重に降りてきて、エリスはミズキが行った方とは逆を指さした。
「なんであいつらはこんなに落ち着きがないんだ……」
ロンは呆れてしまっている。まぁ、正直笑うしかないよね、あはは……
俺たちは馬を休ませるのと、王国が誇る経済都市を一度見てみたいとでバハネラへ寄った。そして、早々に問題が起こったって訳だ……ミズキはともかくなぜカテラまで。
「カテラの行く先は検討が付く。多分あいつはあそこだ」
ロンはそう言い切って街を歩いていく。とりあえずミズキは置いといてカテラを追いかけることにした。
バハネラの街並みは流石経済都市と言うだけあって、目覚ましい発展を遂げていた。
地面は一面レンガで舗装され、この世界ではまだまだ珍しい街灯まで並んでいる。
しかも、建物が石造りでオシャレだ。王都でもここまで充実していない、恐らく世界一だろう。
「ここバハネラは元を辿れば、遥か昔にその技術力の高さで栄えた小人王朝ってやつの王都だったんだよ。まぁ、色々あって滅びたんだが……」
小人か、前の世界でも割と有名な種族だな。確か、今はほとんど居ないらしい。一回会ってみたいな。
ん? 何でそんな技術力ある国が滅びたんだ? そう思ってロンに聞いてみたが、話したくないの一点張り。よく分からない。
「さ、着いたぞ。カテラはここにいるはずだ」
急に立ち止まり、ロンが見上げたのはこれぞ大聖堂と言わんばかりの巨大な教会だ。カラフルなステンドグラスや、大きな鐘。神々しいと言わざるを得ない風貌だ。
「ここは、王国で唯一の鬼頭祭神高亜君を祀るノーフラン教会だ。あいつは熱心な鬼頭祭教徒だからな……」
俺は鬼頭祭神高亜君という名を聞いた瞬間、全身に悪寒が駆け巡った。
まさか、本当にあれが本物の神だってのか? ありえない……神のすることじゃないぞ、あんなこと。
「すまない、ロン。中を見てきてくれ、俺はそこで少し休んでおく」
目眩と激しい動悸が俺を襲い、立っているのもしんどくて一刻も早く落ち着きたかった。
近くのベンチに座り、深呼吸をすると幾分か楽になった。
「レイニィさん、大丈夫ですか……? これ、お水です。良かったら飲んでください……」
心配してエリスが水を持ってきてくれた。なんて良い子なんだ。
「ありがとう、エリス。俺は大丈夫だよ。ちょっと目眩がしただけさ」
顔を青ざめるエリスに少し申し訳ないと思いつつ、ロンが帰ってくるのを待った。
「待たせた、すまん。カテラはここにはいなかった」
どうやらロンの予想はハズレだったようだ。
「気にするな、ゆっくり探そう」
こうして、俺たちはまた振り出しに戻ってしまったのだ。
色々考えた結果、先程のベンチで少し休んでからミズキとカテラ探しを再開することにした。
「あ、あの! 三人で分担して探してはいかがでしょう……? 」
出発しようとしていた時、エリスはそう提案した。
今までのエリスからすると、ものすごい成長だ。この意見は何としても汲み取ってあげたい。
「うーん、それだとはぐれ……」
「うん! 良いなそれ! ぜひそうしよう! 」
ロンにはすまないが、強行突破させてもらった。
かわいいエリスの為だ……! 届け! 俺のアイコンタクト!
「お、お前がそこまで言うなら……そうするか」
ロンも少し驚いているようだが、何とか納得してくれた。俺のアイコンタクトが届いたって事にしておこう。
「それじゃ、二時間後にここに集合ってことで! 」
更に迷子になるという最悪な二次災害を防止すべく、集合場所と時間を決めて俺たちは別れて二人を探すことになった。こういう時に携帯が無いのは不便だよな……
それにしてもやっぱり良い街だな。なんか、某テーマパークみたいだ。
「崇高なるヨ《・》ル《・》一族の意志を継ぐ者よ。主の覚醒の時は近い、次世は魔王の宴」
多種多様な建築物を眺めながら歩いていると、不意にそんな声が聞こえた。恐らくすれ違いざまに投げかれられた言葉だろう。
ヨル一族? いやいや、俺はロメニアーティだしな、元だけど。そもそも主もよく分からんし、魔王? 転生物ではド定番だが、この世界ではまだ聞いたことすらない。
うん、きっと人違いだろう。聞かなかったことにしよう、なんか怖いし。
あちこち歩き回ったが、ミズキもカテラも一向に見つかる気配がない。
あ、二兎を追う者は一兎をも得ずか。俺とした事が……! よし、探すのはミズキに絞ろう。彼女が行きそうな所を考えるんだ……どこだ、どこなんだ?
「ふむ、やはりミズキが行きそうなのはここだろう」
と思い、やって来たのはお洒落なカフェ! しかし、彼女の姿は見当たらない。おかしいな……ミズキならここだと思ったんだが。
「それなら、ここだ! 」
その後、お洒落なバーに劇場やら小物屋、一応武器屋まで見たがミズキはどこにもいなかった。
まさか……誘拐?! いや、そんな事ありえないな。誘拐犯が可哀想だ。
「しまった……集合時間まであと少ししかないな」
気づけば全力で走ってギリギリ間に合うか、くらいの時間になってしまっていた。あとの二人が見つけてくれている事に賭けて俺は全力であの教会へ走った。
***
「ギリギリセーフ……はぁはぁ、疲れた」
決めていた集合場所に戻ったが、俺が一番乗りだった。空は夕暮れに染まり、もう本格的に日が落ちそうだ。
まだ泊まる宿も見つけてないし、早く帰ってこないかな……
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