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二度捨てられた白魔女は、もうのんびりワンコと暮らすことにしました ~え? ワンコが王子とか聞いてません~  作者: 吉高 花 (Hana)


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悪意のある魔術2

 

 どうも特に悪意のある人にかけられた魔術との相性が抜群に良いようで。


 だから、みんな死んでしまった。

 生まれたばかりの赤ん坊の持つ魔力はとても小さくて、そしてその赤ん坊の周りの人たちには様々な魔術がかけられているのだから。


 なぜか比較的無害な魔術には反応が鈍く、他人からの悪意のある魔術には強く反応してしまうということもわかった。

 特にその魔術が呪いと呼ばれるほどの悪意の塊だったときは、無意識に即座に消してしまおうとするかのように。


「悪い魔術を浄化しようとするんだねえ。ある意味親切の塊といえるな」


 王妃様はそう表現した。

 時には淀んだ沼の水を清水に変える、そんな作用のようだとも言った。


「でもこれからは、今マルガレーテ様が身につけているような魔力の流出をほとんど封じてしまうような魔道具を早くに持たせることで救える命もあるかと思います。これは素晴らしい発見ですよ」


 イグナーツ先生はそう言って、早速ラングリー公爵をパトロンにしてその魔道具の制作と販売の計画を練り始めたようだ。

 

 驚くことに、今までこの国には「魔力を封じる」という考えはなかったらしい。

 なぜなら魔力というものは、魔術師として生まれたその人の個性であり、特性であり、そして延ばすべき才能だから、それを封じたり潰したりなんてとんでもないと考えられていたのだ。

 

 考えてみれば、魔力を封印することに腐心するレイテの魔術師とは正反対の考え方だった。


 でも生まれた赤ん坊の魔力の色を判定する人は多いらしいから、それで白だとわかったときに死なないようにできる魔道具があれば、きっと沢山の人が喜ぶことだろう。


 マルガレーテは、自分の魔力を分析した結果で、人の命が救えるようになりそうなのがとても嬉しいと思った。

 


 そうこうしているうちに、そのうち極秘密裏に、余ったルルベ草はラングリー公爵家に送られるようになった。

 表向きは離宮の庭でハーブを栽培していて、そのハーブの余った分をラングリー公爵家の商会で販売することにしたということになっている。

 私有地という考え方は、とても便利なものだった。なんとそこで王妃様が商売に手を出してもお咎めなしだ。


 あくまでも王妃様の趣味と健康のためのハーブ栽培ということにはなっているけれど、それにしては量が大量なのも黙っていればバレないのである。管理地すごい。


 もちろん秘密はどこから漏れるかわからないから、一応は体面を保つために、ルルベ草と似た形で香りの良いルベというハーブも一緒に庭で栽培されて、ルルベ草と一緒に公爵家に搬入している。


 もともとはこのルベというハーブがあって、それに似た草ということでル(尊い)・ルベ草というのがルルベ草の語源だそうで。


 そんな名がつくくらいにこの二つは似ているのだった。

 ルルベ草は、ルベ草の葉に金の線が少し混じった姿をしている。

 違いは香りと、あとはマルガレーテの目には金色の鱗粉のようなキラキラが見えるかどうかくらいだ。


「ルベ草の栽培はルルベ草の臭い消しも兼ねているんですって。やることが徹底していてすごいわよね」


 マルガレーテはそう言いながら今日もクラウス様を撫でていた。

 今日は調子がいいので指輪の制限を少し開いて魔力が多めに伝わるようにしている。


「ワフワフ」


 クラウス様はとても気持ちよさそうに、頭をマルガレーテの膝の上に載せて何事かをもごもごと言っていた。

 

 


 そうして季節は巡る。

 クラウス様はいまだに犬のまま犬の人生? を謳歌しているように見えたし、王妃様はマイペースであれこれとそれなりに忙しそうにしている。


 そしてマルガレーテといえば、ますますイグナーツ先生に魔術の教えを受けて、自分の魔力を自由自在に操れるようになっていた。


 その一方で、第二王子のランベルト王子と聖女フローラの結婚式が華々しく挙行された。


 その結婚式には第一王妃様は「体調が悪いため」に欠席だったし、マルガレーテにも「婚約者と一緒に出席すべし」との招待だったので欠席した。

 王宮的にはマルガレーテの婚約者はいまだ行方不明なので、これは暗に「お前は出るな」と言っているのと同義だったから。


 ということで、そんな国を挙げてのお祭り騒ぎも、この離宮ではどこ吹く風の通常運転だった。


 形ばかりの二人の結婚を祝うお祝いの食事が届けられ、それは厳正なる毒味の後に食卓へ上がったが、離宮でその結婚式をうかがわせるものはそれくらいだった。

 ちなみになかなか豪華で美味しかった。


 そういえば盛大に花火も上がっていた気がする。

 大きな火薬の音にクロ、いやクラウス様が怯えてマルガレーテのスカートの中に潜り込もうとして王妃様に怒られていた。


 そんな怯えるクラウス様を花火の間しっかり抱きしめて慰めたのはマルガレーテだった。


 王妃様は「情けない」と嘆いていたけれど、きっとどうしても犬の間は感性が犬なのだろう。


 もはやマルガレーテにとっては、犬の姿のクラウス様が自然な姿のような気がしてきていた。

 なにしろ本来の姿を知らないのだから。


 それでも離宮の人たちの話を聞いていると、クラウス様という方は、普段からあちこちにふらふらと自由に歩き回る方のようだった。

 王妃様も、そんな気質の息子を閉じ込めるようなことはしなかったらしい。


 ということで、いつもどこに居るのか今ひとつつかめない王子が出来上がったらしく。

 だから、最初は姿が見えなくなっても行方不明だと騒ぎにはならなかったし、なんなら今も、いつふらっと帰ってくるかわからないという王宮の認識でもあるようだ。


 今ではすっかりマルガレーテの近くから離れようとしないので、前のクラウス様を知る人たちからは一様に驚かれ、そしてマルガレーテは反対の意味で驚いていた。



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