VS二角獣 ―お互いの思考―
ふへぇ、ようやく終わったぜ! 17KBか……
今回はお話自体は進まず、繋ぎの物語という感じですね。
所変わって、本陣にほど近いCの3地点付近では……
Dの3より移動してきたローゼリアは、土石流ならぬ土石龍に座り込んだまま、眼前で組み上がっていく土製の塔に驚きの声を上げていた。
「何あれ!? 地面が隆起していく!?」
『あれは……確か、グラウリンデ副隊長の黄塵万丈の塔。あんなものを作成する理由が、何か……?』
ローゼリアの背後に座したスビビラビがその塔の正体を看破し、しかし作成理由にまでは思い至らず首を傾げる。
土石龍の斜め後ろを追走していたフレミアも訝しむ顔をする中、更にその後ろを全力疾走しているオトナシ近衛部隊所属ではない騎兵、ライオハーテドが興味深げに土製の塔を眺めながら、
『よく分からんが……あれはお前たちの副隊長が念動力で作ったものなのだろう? ならば、あれの上か周囲にはイニミクスたちがいるのは確実。詳しいことは、直接乗り込んでその副隊長とやらに聞けばいいじゃないか』
『まぁ、そりゃそうか……よしローゼリア、進路そのまま! このまままっすぐコースケ様のところに向かうぞ!』
「なんでタダ乗りしているアンタが偉そうに言うのよ……っ!」
後背のスビビラビを苛ついた調子で睨みながら、ローゼリアは土石龍を加速させる。
目指すはBの3地点。そこに、コースケ様がいるはずなのだ――
同じく、Dの5地点から移動してきたヒナナ隊は、隆起する黄塵万丈の塔に驚愕の視線を向けていた。
『むぅ……あれはグラウリンデ副隊長の黄塵万丈の塔。しかし、何故……?』
最初に気付いたのはゼルグラック。その視力の良さで隆起している塔を確認し、疑念に首を捻っている。
『黄塵万丈の塔って確か、小春様の血統騒ぎのときにグラウリンデ副隊長が作った凄い塔ですよね。あれを……今、作る理由が?』
ゼルグラックの隣でどかりと腰を下ろしたクゥシンは、黄塵万丈の塔の作成理由を悩み込み、
「あらあら。どうせあの塔の近くには、グラウリンデちゃんがいるはずよ。まずはグラウリンデちゃんに事情を聞けば、済む話じゃないかしら」
ゼルグラックとクゥシンが座る氷柱を念動力で形作っているヒナナは、単純な解決策を提示した。
即ち、念動力の発現元に尋ねること。
単純、だが効果的なアイディアに、思わずゼルグラックとクゥシンはぱちぱち、と自らの手を打つ。
『それは、確かにその通り。流石ですね、ヒナナ副隊長』
『そうね。流石、というよりはそれしかない、といった感じだけど』
「うふふ。じゃあ、急ぎましょうか」
三人を載せた氷柱は、中空を突き進む。
あの塔を作っている、グラウリンデの元へ。一直線に、真っ直ぐと。
こうして、戦場は真っ二つに切り取られた。
即ち、二角獣とクロノウスの決戦の地、黄塵万丈の塔の上と。
中型~小型イミニクスが跋扈する、塔の下側の空間へと。
下方はジンの指揮のもと、中型イミニクスたちは次々と討ち取られていった。
Bの3地点に向かったスビビラビ組、そしてDの5地点を移動中だったヒナナ組と合流したオトナシ近衛部隊にもはや敵はなく、多少の損壊などはあったものの、目立つようなダメージは無く。
戦闘開始からおよそ1時間で、与えられた仕事は十分にこなした。
そして、黄塵万丈の塔の上では。鮫介が二角獣と対決していたのである。
「クッ……また突撃、か……っ!」
自身の額に生えた二角の角を用いた、突進攻撃。
その巨体から繰り出される高速の一撃を、鮫介は既で回避し、すれ違いざまに大鎌で斬り付け、少量のダメージを与えている。
しかしながら、そのダメージは直ぐ様二角獣が自己再生能力を用いて修復してしまい、あまり実感出来ない。
おまけに、二角獣は首の毛皮に手斧を生じさせたまま突進を繰り返しており、首の振りで手斧がクロノウスに襲いかかる構図となっていたのだ。
手斧の対処に手が塞がれ、満足に攻撃を行うことが出来ない。そして攻撃が出来れなければ、二角獣を倒すことは叶わない。
まさに、ジリ貧だ。
鮫介が自ら定めた勝利条件は、『二角獣にダメージを与え続け、相手の自己再生能力を誘発し続けて疲労困憊にし、その隙に首を落とす』こと。
だが、そのダメージを与える手段が薄れてしまっているわけだ。
二角獣は時折突撃の首の角度を変化させたり、手斧を振るタイミングを遅らせたりと変幻自在に攻撃に緩急を付け、クロノウスへの直撃を狙ってくる。
この巨体と速度で放たれる二本角の直撃を喰らえば、いくらクロノウスの装甲が厚いといってもタダでは済まないだろう。
だから、鮫介は相手の攻撃を回避することに集中力の大半を向けていた。例え反撃がおろそかになろうとも、相手の攻撃を避けることが懸命のはずだ。
『クロノウス、無事ですか!?』
「ああ、なんとか……! 状況は変わらず、一対一が続いている」
『もどかしい……! 私は、ここであなたの発する『声』を聞くしか出来ないなんて……っ!』
「いや……話し相手がいることで、ずいぶんと楽になってるよ。僕は、孤独じゃないなって……」
交信によるレンとの会話。事実、鮫介はこの会話に救われていた。
たった一人。増援のアテもない戦闘を延々と続けるのは、どうしても心が軋む。衝撃を受けても誰も反応もせず、身を削られて「痛い!」と叫んでも一切の返事もないというのは、想像を超える寂しさを呼び起こす。
それに比べれば、こうして話し相手がいるということの、なんとありがたいことか!
自分は、一人ではない。その事実が、胸に勇気を滾らせる、『勇者』として、振る舞うことが出来る!
「オォォォォォッ!!!」
一瞬下がった相手の首筋を、脇で抱えて全身の力で押さえつける。
本来の体格差で言えば吹き飛ばされてしまうだろうが、このクロノウスの膂力ならば可能だ。ギリリ、と締め上げる左の脇の下で、二角獣が拘束を解こうともがき続ける。
次は首の毛皮を用いた手斧攻撃だ。まるで首両断機械のように迫るそれを、右手の指に念動力の刃を形作り、どうにか手首の動きだけで手斧の襲来を防ぐ。
「空間爪刃――ディメンション・ブレード・ネイル……!」
周囲の空間を固定して凝固なものと化した念動力の刃は襲いかかる手斧を切り裂くほどの切断能力は持ち合わせていないものの、攻撃を弾き返す『剣』の役割は担ってくれた。
そのまま、作り出した念動力の刃を、敵の首筋に突き刺す。大暴れする二角獣を全身の筋肉――クロノウスの内部を司る念動筋肉――を駆使して留め、ぞぶり、と肉を掻き分け、より深く爪を侵入させていく。
「キアアアアァァァァァッ!!!」
「ググゥ……ヌッ!!!」
いよいよ二角獣の抵抗が激しくなり、クロノウスだけでは抑えられなくなる。
日頃ジン隊長に鍛えられているといえ、未だ発展途上の鮫介の筋肉では、クロノウスの念動筋肉を十全に扱うイメージが掴めないのだった。
クロノウスが二角獣の首の力だけで全身を持ち上げられ、放り投げられた。その勢いのまま地面を転がり、追撃の突進を回避&迎撃。
クロノウスはバイコーンの突進攻撃を避け、曲芸のように振り回された黒彼岸花が相手の首筋を切り裂き、僅かなダメージを与える。
「ダメージ、小……チッ」
『コースケ様! 今、氷結機士グレイサードの大神官、ナレッシュ様と連絡が取れました! こちらに急行してくれるそうです!』
「ナレッシュが……! それで、来るまでどれくらいかかると!?」
『電車を猛スピードで動かして、一時間弱かかるそうです! それまで、どうにか持ち堪えてください……っ!』
「冗談! ジン隊長に一人でやれると大見得を切ったんだ、ナレッシュ到着までにこいつを片付けてやるさ!」
鮫介は黒彼岸花を構え、静かな口調で呟く。
制限時間がついたようだが、関係ない。鮫介はジン隊長に約束したのだ。必ず『弾除け』無しで勝利してみせる、と。
その鮫介が――自身の危機をを虹の七騎士に救ってもらうなど――恥ずかしくて、前を向けない。
鮫介は勇者だ。
そして、勇者は――嘘を付いてはいけない、はずなのだ。
「僕が、必ずやつを仕留める。それを見て……いや、見は出来はしないのか。確認してくれれば、それでいい」
『……分かり、ました。朗報を、お待ちしています』
「うん」
渋々、といった感じの口調に苦笑しながらも、鮫介は二角獣の出方を伺う。
時刻は深夜。月明かりだけが二角獣の姿を探す目印となるこの暗闇は、鮫介にとって非常に厄介なものであった。
相手の動きが闇に紛れ、見えなくなるというのは、明かりという文明が世界に根ざした鮫介にとって、未知の領域であった。
闇の中。相手を探して気を鋭くするということは、非常に疲労することだと学んだのだ。
生まれたときより明かりという文明の利器が傍らに常にあった鮫介に闇を見渡せと念じるのは、酷なことであろう。
人は科学によって闇の世界で生きることを可能にしたが――ここはその科学が通用しない平行世界。
闇の中はイニミクスのテリトリーだ。
そして、イニミクスは倒すべき敵。
だからこそ、闇の中に潜む敵を見つけるために、人間は注意して観察する。その行為が、鮫介の神経をガリガリとすり減らす。
すり減らした神経は、疲労の素になる。
未だ戦闘になれていない鮫介は、暗闇の中というものに慣れていない鮫介は、そうして疲弊していく。
暗中模索。
何故かそんな四字熟語が頭の中に思い浮かぶ。
意味は……ああ、なんだったっけ。Aren't you Mosaku? みたいな余計な考えはあちこち浮かぶのに、それらを一つ一つ熟考する暇がない。
吐息が荒い。
脳みそが茹だっている。
闇の中に姿を消した二角獣が、ひっそりと手斧を投げつけてくる。
イミニクスも理解しているのだろう。暗闇が、人間の及ばぬ自分たちの領域であることに。
「だー、もうっ……!」
どうにか手斧を空間爪刃で防ぎ、その隙を狙った突進を空間膨張で距離を稼ぎ、回避する。
空間膨張は集中力が途切れているためか、あまり距離を拡大することは出来なかった。
いけない。余裕ぶっている場合じゃないのだ。
失敗は、即、死。
しっかり臨まないと、やられてしまう。
その二角獣と呼ばれている大型イミニクスは、眼前の敵に戦慄していた。
色素の薄いアネモネと同等の色をあちこちに使った、スノードロップと同色の巨人。
空間を操る能力を持っているから気を付けろ、とあの方から警告を受けていた、が……
二角獣は自分が想定していた以上に、相手が自分と戦えていることに驚愕する。
この額の二本角と、それを利用した突進。
首の毛皮を利用した、人間が手斧と呼ぶ武装の投擲攻撃。
この2つの戦法で、立ちはだかる敵は全て皆殺しにしてきたのだ。
だから、相手もそれでおしまいだと思っていた。
しかし――眼の前の巨人は――
今まで戦ってきた虫けらのような巨人、その二倍の背丈はあろう巨人は、この身の攻撃を幾度となく防いでいた。
そして――あろうことか――攻撃を回避するだけでなく、そこから反撃に転じていたのだ!
今までの戦闘経験で、反撃に転じられた巨人の数はゼロだった。
こちらの全ての攻撃で、角で抉られ、手斧で切断され、この足で踏み潰され、粉々の残骸を晒すだけだった。
なのに――嗚呼、それなのに!
敵は手持ちの大鎌や、指から出している不可思議な光――念動力、といったか。あれを固めて刃となし、こちらの攻撃に見事に反撃を加えていた。
これまで戦闘してきた巨人たちの中にも、こちらに反撃しようとしてきた輩はいた。
だが、そいつらは全員こちらの突進攻撃で反撃する間もなく串刺しになるか、あるいは反撃する気力を失い、背を向けて逃亡するのみだったのだ。
それなのに――あいつらとこいつ、何が違うのだろう。身体の大きさは当然違うが、それだけではあるまい。
其の者には、胆力があった。絶対に我を打倒さんとする、果てしなき使命感があった。
其の者には、友愛があった。仲間の巨人たちを救おうとする、絶対の防人であった。
其の者には、勇気があった。どんなに攻撃を続けてもひるむことなく、こちらに立ち向かおうとする勇者であった。
――勇者。
そう、敵は――敵は、『勇ましき者』だったのだ。
こちらの攻撃に、一歩たりとて退かず。常に逆転の方法を探って、己の勝利を考えている。
早々楽には、勝てそうにない。
二角獣は相手をついに強敵と認め、戦闘に臨むことを決意する。
月明かりは快晴の空の上、雲に隠れることなく照っていた。
これでは、闇夜に乗じて攻撃することは不可能であろう。
そもそも、この大掛かりな足場をどうにかしない限り、どちらにせよ我は死ぬ。
ならば、せめてもの一太刀を。
我の後に続く者たちを殺害するであろう、この巨人を必ず我がこの場で止めなければ。
我が、やらねばならぬ。
我が、この巨人を止めるのだ。
二角獣、そしてクロノウスは、再度対峙しあう。
お互いを、宿敵だと感じ取り。
この戦いの結末こそが、人間とイミニクスの将来を運命付けると信じて。
鮫介の戦いに時間制限が付きました。
果たして、氷結機士の到着前に、二角獣を倒すことが出来るのか!?
それとも、実は近くに虹の七機士がいて、二角獣をぼーんと倒してしまうのか!?(笑)




